第5話 黒い会長と仲直り
前半は微シリアスです。
後半は……、いつものテンポですかね(^_^;)
トク、トク、トク、トク……
俺と紅科の鼓動が重なって、気持ち良いリズムを刻んでいる。
そっと瞼を伏せ、響くその音に耳を傾ける。
速くなりつつある鼓動を、自分だけのものにしたくてもう一度、強く腕に引き込んだ。
小さく聞こえた声に、聞こえなかった振りをして。
だが。
そんな時間は一瞬のうちに粉々になった。
紅科を抱き寄せた時には、もう欠片も残っていなかった理性が、
チャイムによって無理矢理引き戻されたのだ。
それは紅科も同じだったらしく。
バッと、俺たちの体は電光石火で離れた。
そして勢いよく振り返った紅科の長い髪の毛が俺の頬にバチンと当たって、
「でっ!!」
平手打ちされた気分になった。
「ぅわあ! ごめん悠暉! 超痛かったよね!」
そう言って、再び俺に触れる紅科。
まあ、当然の如く顔は近づく訳で。
この場合、俺は不可抗力。
断じて不可抗力。
だから、顔が赤くなっても仕方ない。
っつっても、俺は紅科の髪の毛打ち食らってたから別に不思議では無いんだけど…。
だからといって、紅科の頬が真っ赤になるのを近くで見て、平気でいられる訳もない。
「っ!」
たぶんもう、俺の顔もゆでだこ状態。
髪の毛で赤くなったというには、不自然なくらい赤いだろう。
……とまあ、そんなこんなで場の空気は和み。
何となく、俺と紅科は仲直り出来たみたいだった。
だけど、俺は何となくで済ませるのがイヤだったから、謝った。
「紅科……、あの、さ…。俺も言い過ぎたとこあったから…、その、ゴメン…」
ちょっと言い訳みたいになってしまったけど、伝えたかったことは伝えられた。
「ううん、あたしが悪かったわけだし。……ゴメンね」
改まって謝りまくる俺たちは、きっと端から見たら変人同士。
だけど、そんなこと今は微塵も興味ない。
どちらともなく笑みがこぼれる。
その和んだ空気が何にも変えがたく心地よかった。
……紅科と居てこんな気持ちになるなんて思っても見なかった。
俺の前では、偉っそうな態度してるくせに、何というか……、こう…。
しおらしさを…、感じてしまったからだろうか。
“女子”……って感じ?
……………いーやっ!
待て、待つんだ悠暉!!
一旦、リセットしよう、それがいい、うん。
おし! リセット完了!!
何なんだ、この、“意識しちゃってるな俺…”。な流れ!?
断じてあり得ませんってーの!!
心の中でシャウトしまくる俺に、紅科が声を掛けた。
「ねえ悠暉」
ケンカの仲直りがたった今だったからだろう、微妙に気まずさが残る声色で遠慮がちに言葉が紡がれた。
「あ?」
だが俺は、自分の反応にも
紅科のしおらしさにも
どうしようもなく腹が立っていて、きっと声を掛けるのにももの凄く勇気が必要だっただろう紅科に怒りをぶつけてしまった。
「!? 何なのよそれ! あたしが声かけてやったってゆーのに!! ……このっ、悠暉ごときが!」
どうやら俺は、人を苛つかせる才能を持っているらしい。
厄介なスキルだ。
紅科を煽ってしまったようである。
……でも、さ…。
ちょっと言い過ぎじゃね?
リアルに傷ついた。ナニ“悠暉ごとき”って?
反発しようとして発し掛けた声が喉の奥で消える。
そんな様子を見て焦った紅科が、慌てて否定する。
「っていうのはウソだよ! 悪かったわね! ……ちょ、何目ぇ潤ませてんのよ、ホントなよっちいわね!」
そしてまた、あ、コレもウソよバーカ! と言い直す。
本当にこいつは、人をけなしてんのか、素直になれないのか……。
でも、こんな紅科見れるのは俺だけなんだよな…。
人は知らない紅科の本当の姿を、俺だけが知っていると考えると、誰に対してだか分からないが優越感が生まれて、勝ち誇った気分になった。
「な、紅科…。なんか奢ってやるよ」
不意に口を突いて出たその言葉に、紅科が元々大きな目をさらに大きくしている。
そりゃそうだろう。
前まで俺は、パシリ生活一筋だったから金欠が当たり前の状況だった。
それが今は、奢ってやれるほど懐の大きな男にまで成長したのだ。
紅科が俺の成長に感動しているのも頷け……
「なんだその上から目線!! あんた勘違いしてる!?」
いやそっちかい!!
俺の大人の階段んんん!!
もはやスルーの域を超えてますよ紅科さん。
俺、何気に結構HP削られてるからね!?
「あ、わり…。………じゃあ、その、俺……、帰るわ」
そんな、迷惑掛けて喜ぶヤツじゃねーし…、とその場を立ち去りかけたら。
「はあ? なんか奢りたいんでしょ? 付き合ってあげるわよ、しょーがないから!!」
俺は、今更ながらやっとこいつの性格を理解した。
そう、多分こいつ……、俗に言う“ツンデレ”ってヤツだ。
そして、その方程式も完璧。
『紅科(素直じゃないヤツ)=ツンデレ』
出来た!!
「で??」
「は?」
互いに疑問をぶつけ合う俺たち。
てか、俺がやっすい考え事してたから聞いてなかっただけかもしれないけど。
「どこ連れてってくれるの?」
心なしか、紅科の口の端が微妙に上がっている気がする。
ぜってー俺のことなめてる!
こうなったら、もうプライドが許さないぜ!(※俺にもプライドはあります)
ちょっと高めの店だがしょうがない。連れてってやろーじゃあないか!!
「……駅の近くに出来た、あそこのファミレスでどーだ」
「ふーん。ま、いんじゃない? お金は足りるのか知らないけど」
クッソ、語尾にハート付くような喋り方しやがって。
意地でも間に合わせてやる。
「で??」
「は? またかよ」
内心、面倒くせーと思いながら問いかけると、
「だーかーらー! どうやって行くのかって聞いてんのよ!」
「は? お前ん家迎えに来るんじゃねーの? あのでっけーリムジン」
「バカじゃないの! もう完下過ぎてるからとっくに帰ったわよ!!」
「で、電話掛ければいーじゃん」
「いっつも勝手に来るから、電話番号なんて知らないわよ!」
「いやそこは偉そうにすんなやぁ!! どーすんのお前、俺ついでに乗ってこうと画策してたんだけど!?」
「だから知らないわよ! そもそもあんたのせいであたしまで遅れちゃったんじゃないの!」
「お前が原因つくったケンカだろーが!!」
ハァハァと息を切らして、怒鳴り合った俺と紅科。
すると、紅科がハッとしたように俺の方を向く。
「あんたさぁ、いっつも学校にどうやって来てるのよ」
真っ直ぐ俺の目を見据える紅科。
「あ? チャリだけど………あ」
「決まりね。乗せなさいよ」
と、ニッコリ微笑んだ。
まったく…。
この笑顔を“天使”だとかほざくヤツはどこのどいつだよ。
俺には悪魔にしか見えないがね。
なんだかんだで第5話です。
ここまで読んでくださってありがとうございますm(_ _)m