第4話 黒い会長と空っぽの二週間
長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでしたorz
待っていてくださった皆さん、
本当にありがとうございました(*^_^*)
酸素を必死に取り込もうとし、肩で息をする。
額には僅かに汗が滲み、体も若干熱を保っていた。
かなりの距離を全速力で走ってきた。
一人の女の子の背中を追って。
だが、来た道が悪かったのだろうか、彼女が早すぎたのであろうか…。
その姿を再び見ることは出来ずに終わった。
俺も決して足が遅いわけではない。
ということは恐らく、前者で間違いないだろう。
「祭ちゃん……」
喘ぎながら、しかしはっきりと名前を呼ぶ。
だが、周りに誰もいないこの場所ではそれは虚しく、地に吸い込まれていくのだった。
「悠暉!」
ふと遠くから紅科の声が聞こえた。
無意識に振り返って見れば、髪の毛を振り乱し、息を荒げながら走ってくる姿が小さく見えた。
やがて紅科は俺のもとへ駆け寄り、ホゥと息を吐いた。
「悠暉、その……ごめ………」
珍しくどもって喋る紅科。
だが今はそんなので冷やかす気分にもなれなかった。
くるり、身を翻して歩く俺に、尚も語りかける紅科。
「悠暉! 本当にあたしが悪かったと思う。知ってたよ、告白だろうなって…」
冷静でいられない。
頭にカッと血が上る。
何で、見当ついてたのに邪魔したんだよ…!
紅科の手が伸びる。
「さわんな!!」
ビクッと体を強張らせる。
ちらりと目に入った、紅科の表情が…、
とても怯えたようなその顔が、何とも俺の苛立ちを倍増させる。
「ふざけんな、てめぇ…!知ってたんだったら入ってくんじゃねえ!!」
少しだけ触れた紅科の指先をちぎれんばかりに振り払う。
「っ……!」
小さく漏らしたその声が聞こえなかった訳では無かったが、足早にその場を去った。
その時、紅科の大きな瞳から涙が零れたのを。
もちろん俺は、そんなこと知る由もなかった。
「悠暉ー! テスト結果張り出されてる、見に来いよ!」
紅科と口をきかなくなってから2週間が過ぎた。
パシリから解放された俺は、少しずつではあるが、周りに人が出来はじめていた。
紅科の影響も大きかっただろう。
そこまで考えが至ったところで、紅科が思わず思考に入ってきたことに苦笑が漏れる。
「なぁ、悠暉ってばーー」
「おー、今行くー」
1.姫澤 咲 486点
2.神御蔵 紅科 478点
:
:
:
「………は?」
「紅科チャン、一番じゃない……」
見れば、周りも少なからずざわついている。
さらに見渡してみても、紅科の姿は見当たらなかった。
いつもならぶっちぎりで500近く獲る紅科が478点って……。
や、まあ十分にすごいけど…。
結構真剣に考え事に耽っていたのだが、隣ではみんな呑気にもう違うことを語り出している。
「てか、この姫澤チャン? 咲チャン? すげぇーー!! そして超かわえー!!」
「あー、俺も思った! ぜってー可愛いよなァ、逢いたい!」
「運命よ! 神よ! 彼女と俺を引き合わせてー!」
いや名前かよ!
名前オンリーかよ!!
会ったことねーのかよ!!!
どんな娘かと思ったわ!
「なあ、悠暉ー」
「ん? 俺はいかがわしいことは考えてません!」
「あ? 何言っちゃってんの、お前突然。……いかがわしいこと考えてたんだ? な?」
「考えてねーって!」
突っかかってきたのは、最近よくつるむ我妻 恭慈。
くだらない言い合いが揉め事に発展してしまった。
どうせ小突き合いで終わるのだろうと思っていたのだが、我妻から予想外な言葉が飛び出た。
「じゃあ、紅科チャンのコトでも考えてたのか??」
途端、準備していた言葉を飲み込む。
目が見開かれるのが自分でも分かる。
同時に自分の単純さに腹が立つ。
「やっぱりな」
「は? 何で俺が紅科のことなんか考えなきゃいけねーんだよ」
咄嗟に口を突いて出た言葉は、小学生の語るそれよりも幼く感じた。
少々上擦った声が、より子どもらしさを演出していた。
「だってお前、気づいてないかもだけどよ、いつでも紅科チャンのこと探してるぜ?」
そして、耳元でぼそりと呟いた。
「2週間前から……な」
そして、俺の顔を覗き込み、ニヤリと笑う。
そして徐に口を開き、ポンと背中に手を置いた。
「俺、こんな時の為に紅科チャンの居る場所、リサーチしといたから行ってくれば?」
ゆっくりと我妻を振り返れば口元に弧を描き、優しい微笑を浮かべていた。
長い付き合いでもないのに、ここまでしてくれるヤツって、正直あんまりいない。
素直に良い奴……と感動していれば。
「っつーことで? 悠暉に協力したから、俺にも協力してね♪」
やっぱり世の中そう簡単にはまわらないらしい。
とはいえ、協力してやらないのも酷だろう。
「何?」
「あれ。……姫澤咲チャン。どんな子か探しといて~」
そう、息巻くと。
風のように去っていった。
恥ずかしかったのか?
………いや、まさか(笑)
まあ、とにかく俺は、紅科の元へと歩を進めた。
「紅科」
普段出入りなんか殆ど無い図書室。
最近はここに入り浸っていたと、我妻から聞いた。
ふわり…、
色素の薄い髪の毛が窓から漏れる太陽の光に反射して、眩しかった。
紅科は、俺を見るとギョッと顔を強張らせ、開いていた参考書の山をもの凄いスピードで片付け始めた。
「紅科」
もう一度、呼んでみる。
でも、紅科はもう振り向きもせず、片付けも終わってしまった。
そして、足早に俺の側を通り過ぎ、図書室から出て行ってしまった。
人気のない廊下に、軽快な紅科の足音が木霊する。
ただ呆然と立ち尽くしていただけの俺だったが、自然と体が図書室の外に向く。
次の時には、もう走り出していた。
「なあ! 紅科ってば!! 待てよ!!」
かろうじて見えていた彼女の背中はいつしか見えなくなっていた。
そろそろ、帰ったか…。
自分の中でも蹴りをつけ、諦めかけたとき。
幾度も角を曲がり、窓の外を見遣ると、そこには縮こまった紅科が見えた。
でもそこは、反対の校舎だから、行くのに時間がかかる。
また見つかったら厄介…、そう億劫になっていた俺は、その場所の死角になる場所を選んで彼女に近づいていった。
5分後、やっと着いたそこは駐輪場の傍だった。
憂鬱に包まれた紅科を見ていて、俺がそんな顔をさせているのかと、落ち着かなくなった。
すると。風に揺れた、彼女の色素の薄い髪の毛が俺の頬を撫でた。
いつの間にか、それほど近くに来てしまっていたのだ。
案の定、振り向いた紅科。
あの心地よい感触が離れていく……。
紅科が、俺から離れてく……。
何故かそんな考えが頭をよぎって、その場から立ちかけた紅科の肩を、思わず抱きしめていた。
「っ!?」
小さく、声をあげた紅科。
久しぶりに……、
2週間ぶりに聞けた紅科の声。
どうしようもなく嬉しくて…。
肩にまわる自分の手に、より力を込め、再びギュ、と抱きしめる。
「紅科……、もうちょっとだけ」
紅科からやるせない息が漏れる。
ほぼ無意識で、紅科に手を伸ばした。
きっと、この時から…。
とっくに心は動き出していたんだ。
急展開でした、
今まで更新が無かった分
一番私が焦っているのかもしれません(^_^;)
本当に
申し訳ありませんでしたorz