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第14話  黒い会長と優しい抱擁

こんばんわm(_ _)m


やっとうpです。

引き続き、同じ舞台からです。

それは時計の針が17時から18時を彷徨っていた頃。

俺は、途轍もない修羅場を迎え入れた。


「どうして祭ちゃんのこと抱きしめてたの………!!」


紅科の瞳から流れる大粒の涙は止まることは知らないとでも言うかのように止めどなく流れ続け、俺はすっかり狼狽えて、どうしようかと途方に暮れていた。


そうすると、また紅科から言葉が次々と羅列されていく。


「しょうがないよね、だって祭ちゃん泣いていたんだもの…!」


こう言われてしまうと、俺は言葉を知らない赤子のように黙りこくってしまう。

息の詰まる思いとはこういうことなのだ、と改めて感じた。

…もしさっきの抱擁が、祭のためであったならどれ程良かったであろう。

だが、残念なことに俺の中にはそんなに男前で紳士な人格は存在し得ない。


…ただ、俺自身が、何かに縋りつきたくて、独りじゃ何も解決できなくて。

だから、人を失うという大きな代償と引き替えに何も差し出せなかった俺は、それを独りで背負いたくなかった。

誰かを。

誰かを…、引き連れたくて………。

俺はそういう、最低な自分本位の理由で彼女を、俺の悲愴な思いに勝手に巻き込んだのだ。

己の弱い心に嫌気がさす。結局俺は、外側ばかり格好つけ、ずっとウジウジしているだけの、ただの弱っちい無力な子どもだ。


俺が自己嫌悪に陥っていても、彼女はまだ言葉を連ねようとする。少し見開いた目からは、やや自暴自棄になっていることが伺えた。

だが俺は、これ以上紅科の紡ぐ言葉を聞く気にはなれなかった。


「紅科、もう―――――「祭ちゃんは……! 祭ちゃんはそうなのに…………!!!」」


少々食い気味に語り出した彼女は、いつもの凜とした美しい立ち姿も、気の強さを物語る鋭い目つきも、今や見る影もなく、無残で痛々しかった。

そして嗚咽混じりにやっとのことで絞り出した声は震えていて、また、あまりにも悲痛な叫びであった。




「どうして泣いててもあたしは抱きしめてくれないの!?」




そこでやっと一区切りついたのか、紅科は大きく息を吐き出し、もう余力も残っていないような身体でトス…、という具合に俺を押し退けた。

それはまるで…、ただ触れただけかのように力ないもので、俺だけの知る裏の生徒会長として発揮される怪力は、全て虚構であったかの如く垣間見えさえもしなかった。


「あたしだって……、悠暉に傍に居て欲しかったのに………。」


紅科は、そう言って再び泣き出した。

自分の現状を気にせずに、口を大きく開け、さらに、口の大きさに比例するように大きな声をあげて泣き始めた。

泣きじゃくる彼女は、もともとの幼顔からか、とても小さく見えた。


「帰れなかったのに…。どうして何にも気付いてくれないの!!」


そして紅科は、へなへなとその場に座り込んだ。

目元を腕で拭いながらひっきりなしに咽ぶ。

幼稚園の頃、“お姉さん座り”と呼ばれ、女の子たちが(こぞ)って真似したその座り方が、紅科にあまりに似合っているものだから、泣いている彼女をいつまでも傍に置いておきたいと…。いつまでも眺めていたいと、ほんの一瞬、思ってしまった。


「バカ! ……っぅう…ぅ…ぅあ………っ…バカ悠暉ぃ…!!」


俺を今にも噛み殺しそうな眼差しでキッと睨み、力を振り絞るようにして罵った。

でも、彼女の頬には涙の跡。瞳には薄い涙の膜まではらんでいる。

そんな状況でも気丈に振る舞う彼女が、有り得ないほど愛しく思えてきた。

拗ねた目で俺を見たところで何も怖くなどないのに。


「悪かったよ…。俺、自分勝手で。……自分のことしか見えてなかった」


緩む頬を必死で抑えて、彼女が座るところまでしゃがみ、同じ高さで見つめ合った。

あぁ……、俺、もうダメだな。

祈がもういないって知ったのはついさっきの事なのに。

もう、紅科でいっぱいいっぱいだった。


「謝ってなかったら絶対許してやんなかったわよ……!」


はは…。

回りくどい表現して。

ホント、強情で面倒くせー女だ。

でも、そこに惹かれているのもまた事実。

俺は知らず知らずのうち……自分でも気がつかないまま紅科に手を伸ばしていた。


「紅科、ほら」


両手を出し、まるで子どもを抱き上げるかのようにする。


「何? バカにしてるの?」


「ちげーよバカ」


「あ、バカって言っ―――――…ひゃぁっ!」


紅科の脇に手を滑り込ませ、そのまま抱き上げる。

少し背伸びする格好になった紅科だったが、しっかり俺の背中に手を回してくれた。

徐々に力を込めて抱きしめる、紅科はそれに応えるように俺を抱き返してくれた。


「悠暉…」


「…………なに」


「…………あったかい…」


そう言ったきり、紅科は言葉を発しなかった。

それもそのはず、彼女は規則正しい呼吸をして、気持ちよさそうに寝ていたのだから。

家に送ってやろうと体勢を整え、おんぶに切り替える。

柔らかな髪の毛からは、石けんのようなシャンプーの淡い薫りがした。






帰路では、紅科を背負い、風に揺られながら一人物思いに耽っていた。


今日は、すごい一日だった。

祈は……、もう居なくて。

紅科には事情があって…。


そして、もうひとつ。

分かったことがある。


抱擁は、……少なくとも俺は、絶対に本当に好いている相手じゃないと出来ないということ。

それが、俗に言うライクでもラブでも、好いていればきっと……。


だから俺は今日、気付いてしまった。


きっと……、前からそうだった。

いつか、彼女を後ろから引き留めたときからずっと、そうだったんだ。




紅科がすきだ。





どうしようもなく、すきだ。




いつ、そうなったのだろう。

まだ全然、共に過ごした時間は少ないのに。


ただ、その結論に至ったのは、間違いなく祈の死によってだった。

祈が、もう居なくて。

それでも、あまりに動揺していない……冷静な自分が居ることに酷く驚愕した。

そして、それとともに悟った。



怖くて…怖くて………。


最低な自分自身に泣きそうになった。



でも、こんな恐怖はまだ序の口だ。







なぜなら今。

俺は怖いくらいに彼女に溺れてる。



ここまで読んでくださってありがとうございます。

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