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第12話  黒い会長と絡まる糸②~紅科side~

滑り込みセーフ!


今回も長いです。

あーいけないいけない。

危うくタガが外れるところだった…。


…でも、それも良かったのかも……。


生徒会室。

会議室の隣にあるこの狭い部屋に、あたしは逃げた。


夕焼けが、目に沁みるくらい綺麗だった。

もう、殆どの生徒は校内に居ないでしょうね…。

そんなことを考えたときだった。


ガラッ


生徒会室の扉が開けられた。


「!? 神御蔵…? あーっと……週番で確認に来たんだけど…」


そこには、明るい茶金の髪の毛に緩くウェーブをかけて、ピアスをしている不良男子生徒がいた。

…………。

なんで不良のくせに週番なんて真面目にやってるのよ。

そしてあたしの名前を勝手に呼び捨てすんじゃないわよ。

まったく…、邪魔しやがって…。

あたし今、1人になりたい気分なのに。


「ねぇ、どーでもいいんだけど生徒会長さん、勉強もしないで遊び回ってるから俺なんかにテスト抜かされるんじゃないの?」




…………は?




「あ、の……、すみませんがどちらさ「姫澤咲。知らない? この間の定期テストでトップ獲った男だよ」」


食い気味に答えたところをみると、どうやら予想していたらしい。

でも、あたしは気づいた。

どこかで聞いたことがある名前だということに。

悩んで悩んで、必死で頭を捻っていると、


「まだ気づかない? 俺だよ、紅科ちゃん」


そう言うと、前髪をバサリと掻き上げた。


「ここの傷、紅科ちゃんがつけたのに覚えてないの? 無責任なところは相変わらずなんじゃん?」


上の方、キメの細かいその男のおでこには、切ったような傷が出来ていた。

結構な古傷だと思われる。

そんなの見せるなと心の中ではそれ以上の…、まぁ罵詈雑言を浴びせかけていた。

だが、それを見たことであたしの中での人物が一致したのもまた事実である。


「あ……、ショウちゃん……? ヒメザワショウって…今回の定期テスト1位だった……、ヒメザワサキちゃんって読むんだとばっかり………」


「ショウちゃんやめれっつの。いつになっても変わんねーのな、それ」


そして、優しく微笑んだ。


「俺、先月転校してきたの。何回もすれ違ってるのに全然気付かないんだもんなー、なんかやる気萎えたし」


そしてまた、朗らかに笑った。

彼は、幼稚園、小学校中学年まで一緒だった。

けれど、親の都合で転校していった…、ハズなのだけれど…。


「あたし、高校に来るまで色々頑張ったのよ。しょうがないじゃない、咲ちゃんのこと忘れるのも…」


それを言って、彼の顔を見たら、何を思ったのかぐいと顔を寄せてきた。

真剣な顔に素早く切り替えた彼に、不覚にもときめいてしまった。


「……ウソつけ。俺には感謝してるくせに。……ってか、紅科ちゃん今も猫かぶってんの?」


大きい。

幼稚園の時から、ずっとあたしの方が勝ってたのに…。

それに、甘い香りがする。目眩しそうな程甘いにおいが…。

鼻が触れあいそうなほど近かった距離は、彼の一方的な仕草によって離れた。

心拍数があがってる。なんか、熱い…。


「しょうがないじゃない…。ずっと、こうしてないと…、怖いのよ」


あまり触れて欲しくない部分に触れられて目を逸らす。


「臆病なところも、変わんねんだ」


今度は悪戯っぽく片口の端を上げる。

昔は、すっごくオドオドしてたのに……。

何か挑発的な瞳に、吸い込まれそうになってしまう。

でもやっぱり、トントン拍子で広がった会話に頭がついていかない。


「臆病じゃないわよ。ただ……こうするしか道がないんだもの」


「……前から思ってたんだけどそれってさぁ、お前が道を探してないだけだろ。自分の意志で、自分の未来くらい変えてみろよ」


「ぅ…うるさい……! あたしのことはあたしが決める! あなたの見解とは違うのよ!! 余計な…余計な口出ししないで!!」


早口で捲し立てたため、息が上がった。

情けなく肩を上下させるあたしに対し、咲ちゃんは冷静で静かな目をしてあたしを見据える。

先ほどの意地悪な表情は、彼の顔には微塵も残っていなかった。

怜悧とさえ感じるその瞳と、重い空気に息が詰まる。

数年前のことなのに、全くといっていい程面影を残していない彼が、怖くなった。

…………………いや。ただ、何もかも見透かされているような気がして、怖じ気づいただけだ。


「……………とにかく、もう帰るから。じゃあね」


そう言い放ち、席を立ったあたしを彼は、尚も見つめ、そして徐に口を開いた。


「……………………帰れんの?」


彼の言葉に驚き、思わず振り向く。

言葉も忘れ、呆然と立ち尽くすしかないあたしに彼はもう一度、声を掛けた。


「帰れないからこんなとこ居たんじゃないの?」


熱い。

気付けば涙が頬を伝っていた。


「…なめんな。ずっと一緒にいたろ。それ位分かるっつの」


涙は零れるものの、頭は追いつかない。

ただ、目を見開き、突っ立て居ることしかできなかった。


「……咲ちゃん、あたしたぶん、プライド高いんだと思う」


怖くたって、分からなくたって、見栄を張るしかなかった。

いつでも、邪魔をするものがあったから。

でもだからといって、隙なく隠しきれる器用さは持ち合わせていない。


「………………それも知ってる」


そして彼はようやく、力なく微笑んだ。

その彼の微笑によって緊張の紐が解かれたあたしは、喉の奥からこみ上げる声を抑えきれなかったのだ。


「咲ちゃん、あたし、ホントはずっと感謝してた。ずっと、“ありがとう”って言いたかった…!」


「おー、やっぱりね。………今日くらいは泣け! 1日くらい羽目外さないとこれからしんどいだろ」


そうして咲ちゃんは頭を撫でてくれた。


「…あ、咲ちゃんあたし、言い忘れてた。今はね、毎日羽目外してるの」


鼻を啜りながら言葉を発したからうまく聞こえなかったかも知れない。

でも、ちゃんと反応してくれたところをみると聞こえたらしい。


「……は…? え、何、さっきまだ猫被ってるって言ったじゃん?」


「あーなんかバレちゃって……。その人、ちゃんと隠してくれてるから大丈夫だよ」


「いや大丈夫じゃなくね?」


「ううん、絶対大丈夫。口止めしといたし!」


「そこでえばんなよ。マジで? マジで信用できるのか、そいつ?」


「ん! 完璧!」


「………紅科ちゃんがそこまでいうならそうか……? ………でもま、俺もいるから。頼ってなー」


そう言って咲ちゃんは、手をヒラヒラとふって、生徒会室を出て行った。

動作が滑らかで思わず見入ってしまったのは、たぶん気付かれてないだろう。


…いやぁ、しかしまさかあの咲ちゃんが…。


「おっきくなって……」


年増のおばさんみたいなことを言って、帰ろうかと思ったとき、ひょこっとドアから咲ちゃんが顔を出した。


「わぁ! どしたの!!」


「いや、そいつの名前聞いとこうと思って。何てーの?」


あぁ…。なるほど。

あいつ何て名字だっけ…。


「あ、そう! 万々原悠暉っていうの。まぁまぁアホなやつだから丸め込むの簡単だった」


「あっそー。……あんま聞かない名字だな。じゃあまた」


「うん、ばいばーい」


ってあれ?

あたし、悠暉と祭ちゃんののぞきにいこうと思ってたのに……。


まだ間に合うかな……。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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