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農業物語~たった1人での農研~  作者: 栗花落
第一章 春の種蒔き
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鹿児島へ

飛行機は離陸してから30分ほどで機体が安定し、ゆっくりくつろぐことができた。窓の外を見ると、見えるのは雲だけで、下を見てももう、特に何も見えなかった。キャビンアテンダントの人が順々に食べ物やお菓子、飲み物の販売を行っていた。


私はキャビンアテンダントさんが持っていた食品を見て、お腹が空いたのでお母さんが作ってくれたお弁当を食べることにした。いつもより丁寧に作られてあり、お米は私の好きな赤飯だった。おかずには卵焼きやベーコンのアスパラガス巻きだったり。長年私の弁当を作っているお母さんだ。どれも私が好きなおかずだった。


お弁当を食べ終わった後と暖かい空間にいたのか、私はいつの間にか眠ってしまった。自分でもどんだけ寝るのが好きなんだよと言いたいくらい、寝てしまうなと思った。耳につけたイヤホンから私の大好きな曲のサビが流れていた。


「・・・様。お客様」


「・・・ふぇ?・・・・・・あ、はい」


私はふいに起こされたので、また変な声を出してしまった。キャビンアテンダントさんは優しく起こしてくれた。


「お目覚めになられましたね。もうすぐで鹿児島空港に着陸いたします。安全ベルトと、電子機器の電源をオフにしていただけますでしょうか」


私はキャビンアテンダントさんに言われ、サッと音楽プレイヤーの電源をオフにして、安全ベルトを着用した。それを見て、キャビンアテンダントさんは優しく微笑んで、ありがとうございます。と言った。足が長く、そして細く凛々しいキャビンアテンダントさんだった。


窓の外を見ると、青い海と鹿児島空港らしき建物が近くなるにつれて、大きく見えてきた。そして数分後、無事飛行機は鹿児島空港に着陸した。キャビンアテンダントさんのアナウンスが聞こえ、私はリュックを持ち、機体の外へと出た。着陸したばかりなのか、少しフラフラした。久しぶりの飛行機だったからな・・・。次はフェリーか。船酔いしそう・・・そう思いながら空港の到着ロビーに向かった。



私は大きな荷物を受け取り、外へと出るともわんと温風が流れてきた。そうだ・・・ここは鹿児島なんだ。よく晴れた空から照らす太陽は、東京よりも熱く照り付けているように見えた。荷物を持ったまま、次に乗るフェリー乗り場へ行くために、まず鹿児島市へと向かった。



鹿児島はやはり山が多く、バスの窓から見える景色の町並みの奥には山がどっしりと構えているように見えて、この鹿児島の自然を守っている。そんな風に私には見えた。バスに乗っている時間は40分くらい経っていたはずなのに、私には10分くらいしか乗ってないような気がした。


「次は、強天文館。強天文館でございます」


中年のおじさん運転手の声の低いアナウンスが聞こえてようやく私ははっと気がついた。バスを降りようとすると、人がぞろぞろと前から降りていった。ほとんどの人がここで降りた。残りの人はほんの数人だけだった。


さて、ここからが本番だ。ただでさえ方向音痴の私は見知らぬ街で順調に行けば徒歩で約20分でフェリー乗り場に着く。しかし、迷ってしまう可能性が大なのが私なのである。すると・・・


「お姉さんや」


「ふぇ?あ、はい?」


突然声をかけられて焦ったが、振り向くと70代ぐらいのお婆ちゃんで、1人だった。


「あのお~、『鹿児島新港』っていう所に行きたいんだがね、私よく場所が分からないんです。道案内してくれます?」


えええええええっ。いやいや、私がそれを聞きたいんです!(泣)私は戸惑いながらもこう言った。


「あのう。私も今日が初めてフェリーに乗るんです。私も分からないんです。・・・ごめんなさい。むしろ私も分からないんです。方向音痴で・・・」


お婆ちゃんは困った顔をして、オロオロしていた。私も心の中ではお婆ちゃん以上にオロオロしてるんですけど!!


そこに、男の人が前に現れた。見かけによると地元の人のような感じだった。


「どうしたんですか?フェリー乗り場分からないんですか?良かったら僕、教えましょうか?」


その人は年は40歳後半くらいだろうか。男前なサラリーマンだった。お婆ちゃんは一度、私を見て大丈夫かね?と目で合図したが、仕方が無い。行きましょうという目で合図をし返した。


「お、お願いします・・・」


私は小さくお辞儀をした。男の人は微笑んで、案内をしてくれることになった。


「お婆さんはどちらへ?」


「わたしか?私は屋久島さあ。一度はあそこに行きたいと思っててねえ!」


「屋久島ですかあ。いい所ですよ~」


お婆ちゃんは笑顔をこぼして、更に行く気になったみたいだ。


「お嬢さんは、どちらへ?」


「えっと・・・奄美大島です」


「へえ!お1人さんで。1人旅行というやつですかね?」


男の人は顔に似合わずペラペラとよく喋った。これが田舎の人の良さなのだろうか。気軽に話しかけてくれた。


「い、いえ。実は研修で・・・」


「研修?そうですかあ。どんなのですか?」


「農業です。奄美の村に大きな畑があって。そこの老夫婦さんの所へ」


その瞬間、男の人は足をピタッと止めた。男の人の顔を見ると焦っている顔に見えた。


「いちゃしうまへ・・・?」


「え?なんて?」


「いちゃしうまへ・・・いちゅんんやっさー!!!?」


もう何言ってるのか分からなかった。おそらく鹿児島の方言なのだろうが・・・。男の人は私の肩を掴んで揺らした。


「・・・。ごめんなさい。何でもないんです」


そこへおばあちゃんが口を挟んだ。


「もしや、今の言葉・・・沖縄の方言かね?」


「・・・え?鹿児島弁じゃなくて?」


「鹿児島弁はまだ分かるさ。沖縄の方言で話されると意味分からないんだよ。・・・そうでしょう?」


「ああ。そうです。私、沖縄の人間なんです。今は色々とあって鹿児島にいますが・・・」


そう言って、タオルで汗を拭きだした。男の人は、なんでもないです。と大きく笑ってまた歩き出した。・・・・・・私は何か失言でも言ったのだろうか。それから、そのことが気になって仕方が無いまま、フェリー乗り場へと向かった。

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