旅立ち
出発前夜・・・。私は最後の荷物点検をしていた。今日、大学では裏切った仲間たちが口々にこう言っていた。
「野菜できたらちょうだいね!」
「本当行けなくてすまないな。お土産、よろしくな!」
なんで皆お土産なんかを期待してるんだ・・・?裏切り者に土産などないはずなのに・・・(怒)
「明日香あ。準備できた?もう遅いわよ。明日、6時起きなんでしょう?早く寝なさい」
「はーい」
お母さんはニコニコしながら私の部屋に入ってきた。なんだか怪しい・・・何かを狙ってるな。
「な、なに・・・?」
「お土産は野菜でお願いね♥採れたらすぐこっちに送ってちょうだい」
どっかーん!!
「ぬわんで皆そう言ってお土産を欲しがるのーー!?」
「はあ?何言ってんだか。とにかく、採れたてのお野菜待ってるからね。おやすみ♪」
最後の『♪』はなに!?奴らにしろ、お母さんにしろ、皆遠慮っていう言葉を知らないのかな!?私がこんなんだから?早坂なら何言っても大丈夫。みたいな?私だって迷惑がることだったあんのよー!
なぜだか私はいつの間にか息が荒れていた。・・・あれ?このシーン、一回流れたよね?先生と話してるとき・・・。
「まあまあ。落ち着きなよ。アンタっていっつもキレてるんだから。カルシウム足りないのよ」
「!?って、なんだ未来(みらい)か。と言うか、いつもキレてるって何よ」
私の2つ上の姉、未来は一人暮らしをしているが今日はたまたま実家に帰っているところだった。彼氏さんの泰智(たいち)さんも来ていた。とっても紳士な人で大学のときから付き合っている。
「・・・で?今日は何しに来たの?」
「んまあね♪」
「出たよ。また♪だよ・・・。良い事でもあったの?」
未来は頬を赤く染めて俯いていた。私はその反応にすぐに気がついた。泰智さんと実家に来ている=結婚話をしに来た!
「もしや・・・結婚?」
「・・・うん。さっきお父さんとお母さんと話し合って。OK貰いました」
なぜか未来は正座で座っていて、私も正座で座っていた。とりあえず・・・。
「素直に、おめでとうって感じだね」
「なんか冷めてない?酷いよー。姉が親に結婚しても良いって言われたのにその冷めようは」
「だって、もう目に見えてたじゃん。お父さんもお母さんも交際には大賛成していたし、泰智さんは優しいし、頭良いし。某有名企業に就職。何この、よくある漫画のパターンは!!?」
わけも分からずキレた私を未来は制御した。
「ほら~。またそうやってキレてえ。そんなんだからすぐに彼氏できないんでしょ?前の彼氏からもう4ヶ月かあ」
「私の話はどうでも良いから。大体、あの人は冷たすぎんの。頭いいのだか分からんが、冷めてて上から言われるのが一番嫌いなの」
「はいはい。ってか、その大きい荷物は何?アンタ、ついに家出?」
私は大きいため息をついた。何を言ってんだか。まあ、一見家出っぽくも見えるけど、こんなに露出度の高い家ではどう考えても無いでしょうが。
「違う違う。明日から鹿児島に行って農研に行ってくるの」
「え!?かかか、鹿児島?と言うか、農研て何?」
「農業研修!いわゆる、教師でいう教育実習みたいなもんだよ」
「ああ。アンタ農大だもんね。農業研修か~。ね、果物とか貰えるの?」
う。嫌な予感。
「果物はどうか知らないけど、私は主に野菜だから果物の土産は無いから」
「じゃあ、野菜のお土産!採れたらこっちに送ってよ。採れたてだよ。泰智と一緒に料理して食べたいから!よろしくね」
・・・もう、返す言葉がなく絶句していた。なんで皆野菜好きなんだろ。なんでなんで・・・。
「あ、それか芋焼酎!鹿児島といえばこれじゃない?私お酒好きだからよろしく。野菜と一緒ならもういいかな。ってあれ?明日香ー?」
私はもう姉の頼みには乗れないと思い、黙ったまま部屋から追い出した。もし、野菜の土産があるならば、泰智さん宛てにで送ろう。そう決心した私であった。
結局寝たのは夜の11時半。私は疲れていたのか、すぐに眠りについてしまった。
―出発当日。
ジリリリリリリリリ
目覚まし時計が鳴り、私はすぐに止めることができた。寝起きは悪いほうなのだが、今日は気持ちよく起きることができた。ただ、寝るのが遅かったため眠気は多少あった。
洋服に着替えた後、用意された大きすぎる荷物とリュックを持って階段を下りた。大きい荷物は階段の前に置いといて、先にリュックだけ下に置いといた。
「おはよう。明日香。ちゃんと起きれたのね。叩き起こそうと思ったのに」
「いや、そこまで子どもじゃないから。まあ、確かに普段寝起きは悪いけどね」
お母さんはふふっと微笑んで朝ごはんを作っていた。するとお父さんが眠そうな顔をして起きてきた。
「お父さんおはよう」
「おう。今日からだな。頑張ってこいよ。農業は大変だからな」
「うん。実際に農業の現場を見て感じて、夢に近づけるように頑張るよ」
お父さんは笑顔を見せて、テーブルにあった新聞を読み始めた。私はすぐさま大きい荷物を取りに行くために階段へと向かっていった。その大きい荷物は重過ぎて、階段を下りるのが精一杯だった。
「大丈夫?まあ、約半年だものね。それぐらいの荷物になっても仕方ないわね」
お父さんは心配そうに私を見てこう言った。
「何なら空港まで送るぞ?今日、午前中仕事休んでも大丈夫だし」
「ええ!?そんな悪いよ。お父さんは普通に会社に行って。私タクシー使うし」
ここでお父さんのケチぶりが発揮される。
「バカ言え。タクシーだったらいくらかかると思ってるんだよ。大体俺はそこまで地位低くないんだし。任せなさい」
新聞越しにお父さんがニカッと笑顔を見せた。私はお父さんに恩にきります。と言って車で送ってもらうことになった。ここから空港まで約2時間半。意外にも遠いのだ。
準備ができた後、ついに家を出発する時間になった。お母さんが家の門まで見送ってくれた。
「それじゃあ、頑張ってね。ちゃんと頑張ってくるのよ。・・・お土産が貰えるほどにね」
「はいはい。頑張りますよ。それじゃあね」
私はいい加減に答えながらも手を振って、家を後にした。