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農業物語~たった1人での農研~  作者: 栗花落
第一章 春の種蒔き
2/5

明日香の決断

結局私は、1人でになってしまった。なんとかして、他のグループに入れさせてもらおうと、私は川原くんの衝撃発言の後、すぐに長澤先生の元へと向かった。


「せんせえ~~」


私の声がよっぽど不気味だったのか、先生はビクッと驚いて振り向いた。


「ど、どうしたのかね、早坂くん」


「どうしたもこうしたも無いでしょう!?どういう意味ですか?農研が私だけって。大体、なんで先生はそんなに甘いんですか!?」


私はバン!!と机を叩いた。先生は小さく縮こまっていた。更に私は先生を追い詰める。


「ちょっとした理由で辞退するのをOKするっておかしいですよ!私、1人だけって無理ですよ?」


気づけば私は息が荒かった。先生はまあまあて両手を少し挙げて私を制御した。


「いや…すまんね、早坂くん。突然1人にさせてしまって。でもね、みんな思い詰めた顔をして言ってくるもんだから…つい許しちゃって」


先生は困った顔をして頭を深々と下げた。


「……。もういいです。じゃあ私はどこかのグループに入れさせて下さい。1人じゃ何もできないでしょ」


先生は目を泳がせて、顔色もやけに青ざめていく。


「どうしたんですか?」


「いや~、それは無理なお願いなんだ。他はもう手続きを終わらせちゃってね…。君が行く所だけでまだだったんだ。だから…無理なんだ」


ええええええええ!!

ま、待て待て待て待て。何言ってんの、先生…(泣)私だけ…ガーンガーン


「じゃ、じゃあ1人で離島に言ってこい…と?」



先生はいやにニコッと笑っていた。いや・・・苦笑顔の方が似合うような。私は一気に力が抜けてしまった。


「そんなあ・・・」


「本当にすまないと思っているよ。ちゃんと引き止めておけば良かった子も数人いたし。だけどどうしても断れなくてね。すまないが・・・」


先生は本当に悪かったという顔をして頭を下げた。60近いお爺ちゃんにそんなに謝られちゃあ私も許すほかなかった。


「・・・もういいです。私1人で行ってきます。先生は自分を責めずに。っていうか、悪いのは辞退しないって言った人たちですから!ね?」


先生はホッとしたのか、満面の笑みを浮かべていた。すると、先生は引き出しの中から封筒を出して私に渡した。


「これは?」


「行き帰りの交通費が入ってる。君1人だけにしておいて交通費を何も出さないのはさすがに可哀想だと思ったからさ。川原くんが辞退した後、私があらかじめ用意しておいたんだ」


「そ、そんな悪いですよ!私はバイトもしてますし、交通費ぐらい私が出します」


そう言って、私は先生に封筒を戻した。しかし、先生は首を振ってまた私に渡した。


「良いんだよ。これは私のお金だし、君は研修費を出したじゃないか。いいから貰っておきなさい」


先生にここまで言われたことがなかったので、私は正直驚いたがこんなことも滅多にないだろうと思い、ありがたく貰った。


「ありがとうございます。是非使わせてもらいます」


「いやいや。私からのほんのお礼さ。君が1人になっても行ってくれると言ってくれたから」


「まあ、夢は農業に携わることですからね。研修はやらないと」


そりゃそうだ。と、先生は感心するように腕を組んで頷いていた。時間を見ると気づけばもうすぐで昼休みが終わろうとしていた。


「じゃあ、私行きますね」


「ああ。出発は明々後日・・・だよね?」


「ええ。それが何か?」


「気をつけて行ってきなさいな」


先生はふくよかな笑顔を見せて手を振った。それはまるで大好きだった私のお爺ちゃんにすごく似ていた。もうだいぶ前に亡くなってしまったけど・・・。


「・・・行ってきます」


私もつられて笑顔で手を振って、先生の研究室を後にした。友達が待っている場所へと向かうと、知枝(ともえ)と慶太、唯斗(ゆいと)がまだ居てくれた。


「おせーよ、明日香。もう終わっちまうぜ」


慶太が退屈そうに食堂の椅子に座っていた。知枝と唯斗は手を振っていた。


「ごめんごめん。川原くんに呼ばれた後、先生のところに行ってたの」


「大変だったね。結局どうなったの?」


「・・・私1人で行くことになった」


知枝と唯斗はええっと声を上げて心配してるような顔をしてくれたが、慶太は腹を抱えて笑っていた。


「ウケるわー。お前1人かよー!せいぜい頑張れよ」


『かわいそー!』


知枝と唯斗は慶太に向かって反感した。それに慶太は2人を睨んでいた。


「うるせー!草食カップル!というか、唯斗キモいんだよ!女とウジウジしやがって。草食男子か何だか知らねえが」


「は!?俺は草食じゃねーよ。大体、どこをどう見たら草食なんだよ」


「ひょろひょろ。やたら頭いい。服装が草食」


慶太は言葉を並べて、唯斗と言い争っていた。そんな言い争いを私は無視して急いでご飯を食べていた。知枝が心配そうに私に話しかけた。


「ねえ、本当に大丈夫なの?先生に他のグループは入れないか頼まなかったの?」


「どうやら、他のグループはもう申し込んじゃったみたい。私も先生にそれを頼みに行ったんだけどね・・・」


知枝はそっかあ。と小さくため息をついていると、昼休み終了のチャイムが鳴った。私は残ったパンは後で食べようと思い、袋に入れた。


「行こ。授業始まっちゃうよ!」


「ケッ。お前が遅かったんだろうが!」


慶太は私にいちゃもんをつけながら、次の授業への教室へと向かっていった。


ちなみに補足しておくが、慶太と唯斗、知枝は皆同じ農研グループで私だけ弾き飛ばされてしまったようだ。彼らは新潟県で主に米作りや野菜作りをしてくるそうだ。そして、慶太の気になる発言―。


「うるせー!『草食カップル』!・・・(あと省略)」


実は、知枝と唯斗は付き合っていて実に6年だと言う。知枝と唯斗は中学から同じで中3の時に知枝が思い切って好きだった唯斗に告白したところ、両思いだったらしく見事付き合うことができた。


お互い喧嘩をまだ一度もしたことがないらしいのだが、この話はまた後ほど・・・。

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