表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
So what?  作者: らいとてん
第5章 天樹の悪戯編
85/86

【5】馬役は《提供:ケンタウロスご一家》です。

 野菜を選ぶときに、君を思う。

(確か、前回キャベツが残されていたな。サラダ自体の量は多くなかった。食べ残した原因は何だろうか。生のままだとえぐみが強すぎたか。それとも、ドレッシングが口に合わなかったのか)

 肉を切りながら、君を案ずる。

(今日も一日、本を読んで過ごしたようだ。身体を動せるように鍛錬所も作ったというのに全く使っておらぬ。この豚が如く、脂肪だらけになってしまうぞ。・・・・・・あの仔犬と遊べる遊具を設ければ、少しは運動するようになるだろうか)

 スープに塩を振りながら、君を祝す。

(仔犬用に、塩味は控えめ、温度はぬるめに作らねば。折角、あの子と相伴してくれる友ができたのだから・・・・・・よかったなぁ)


 想いは零れて料理に降り注ぐ。

 けれど、人はそれに気付いていないようだった。

 作る大きな人間も、食べる小さな人間も。


 けれど、蒼の瞳は知っていた。

 野菜の上にまぶされて、

 肉に焼き付けられて、

 スープの上に浮かんだ、

 キラキラ光る想いたち。


 蒼の瞳は、不思議そうに瞬いた。

 こんなに熱くて目映い想いに、どうして人間は気がつかないのだろう、と。

 




***




「手を引け。今ならば見逃してやる。刃向かうというのならば・・・・・・・」

 男が構えたのは、銀の魔術文字を不気味に光らせる魔剣であった。黒覆面達に動揺が走る。

 それはそうだろう。先程、草原の一部を焦土にかえた代物(しろもの)だ。普通の人間ならば怯えて逃げる。そこまで考えて、『彼女』は深緑の瞳を細めた。

(普通の人間ならば、だけどね)

 チラリと後ろを振り返れば、血を流す片腕を抑えた女性を、仲間達が背後に庇っていた。足下の仔犬が黒覆面たちの殺気に反応してヴヴヴと低く唸り声をあげている。

(まあ、まっとうな人間が、魔の森との境にある草原で、女の人を襲っているはずがないか)


 『彼女』は、一度ゆっくりと瞬いて、大剣に魔力を集めつつある男に声を掛けた。

「『あるじ』様。ここはわたくしにお任せを」

 薄茶色の外套から片手を突き出し、頭上を指さす。

 指先から小さな火の玉が生まれ、徐々に膨らみ人の身丈を超えて、彼らの頭上にゴウゴウと音を立て燃えさかる。その熱に、ジリッと黒覆面達が後退った。『彼女』の口元がフードの影でニヤリと歪む。


「さて、消し炭となり消え去るが良い」

 『彼女』が指を振り下ろさんとした瞬間だった。白い煙幕が視界を埋め尽くす。黒覆面が煙り玉を投げたようだ。

(しまった!)

 彼女は急ぎ火の玉をかき消した。火の光で敵方に居場所を知らせないためだ。下手に煙幕を魔術で払えば、その隙を突いて攻撃される可能性がある。だが、敵の正確な位置を把握できなくては、魔術での攻撃ができない。

 一瞬の間に思考を走らせた彼女は、しかし、探知魔術の結果に拍子抜けした。

(遠ざかっている。なんだ、逃げただけか。・・・・・・一応、遠方からの攻撃に反応する結界を張っておこうかな)


 問題は、黒覆面たちが逃げた方角であった。しかし、それは今考える問題ではない。

 『彼女』は片手を振り、風魔術で煙幕を払った。背後の仲間を振り返えることなく、魔の森を鋭く見据えたまま、『彼女』は彼らに告げた。

「敵は撤退したようです。しかし、仲間を引き連れて戻ってくるやもしれません。我々も急ぎこの場を離れましょう」


 片腕に怪我をしている女性を前に乗せ、『彼女』は草原を駆る。前を行くのは、『彼女』の仲間が乗った三頭の馬だ。『彼女』たちの後から、女性のものであるという一頭も彼らに付いてきている。


 魔の森に最も近い人の村ハイデンベルグが見えてきた頃に、助けられた女性は尋ねた。

「あの、先ほどは助けて頂きましてありがとうございました。私は、狩人のヨハンナと申します。命の恩人の御名をお伺いしてもよろしゅうございますか」

 新緑の瞳を細めて、『彼女』は答えた。先ほど黒覆面達に向けていたのとはまるで違う柔らかな声であった。

「困ったときはお互い様ですよ。ご挨拶が遅れました。私はモニカ。護衛専門の傭兵でございます。後ろの方々は、私が現在お仕えする御一家です」


 モニカとヨハンナの会話に聞き耳を立てていた『御一家』が、互いに馬上で目を合わせる。


 十代後半ぐらいの少年が、感心したように呟いた。

「モニカ姉さん、違和感がなさ過ぎるよ」

 同じくらいの年頃の少女が、彼の背中を叩いた。

「今は、『モニカ』、でしょう? 使用人は呼び捨てにするものよ、()?」

 そんな彼らを横目に、リーナスはいいよなぁ、と仔犬を抱えた男が呟いた。三〇代半ばほどに見える男は、大柄な身体を丸めて仔犬を覗き込む。

「仔犬姿が一番楽なんだよ。魔術を使えるようにするためとはいえ、やっぱり人間の姿は窮屈でいけねぇ」

 焦げ茶色の仔犬が、そんな彼の手を慰めるように舐めて、キュウと鳴いた。

次回更新は2/3(日)を予定していましたが、ちょっと間に合いそうにありません。

大変申し訳ありません。

モニカ共々、耳まで伏せてまん丸団子となってお詫びいたします。

2/4(月)中にはUPいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ