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So what?  作者: らいとてん
第4章 パレヴィダ神殿編
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【39】シリルとパレヴィダ神殿(4)

 今日から、パレ■ィダ神■に関するべんきょーをした、です。

 おれ、俺?……ぼ、ぼく。■■、私は、神官見習いだから、正神官になった時に何をすべきか、神官を観察していきまし。


 ブタ:美味しい菓子を食べる。時々、分けてくれる。『悪■神官』が仕事。あくとくって何?


 アルフォンス:お説教をする。ブタの世話をする。俺、私の頭を叩く、撫でる。私にお菓子をくれる。長くなった■を三つ編みにしてくれる。仕事がいっぱい。「がんばるな!」って頭を撫でたら、「逆だろう」って笑われた。頭を撫で返された。


 一角獣のお世話係:一角獣様のお世話をするのが仕事。コツは放任■義。「子供と動物は言うことを聞かせようとした時点で負け」「■生、諦めが?心」だって。


 キリキリ草の人:キリキリ草を育てる→一角獣様が食べる→キリキリ草を沢山育てる→あんにゃろうが食べにくる→キリ……。


 料理長:美味しいご飯を作るのが仕事。(料理長は、神官じゃないそうです。神かんは刃■がもてないから、美味しいご飯を料理長につくってもらうそうです。お菓子をもらいました。)


 ちび:かわいいのが仕事。頭が良い。私に、文字とかいろいろ教えてくれる。時々ひそひそしてる。内容はないしょー。かわいいのが仕事。


 ちびちび:乳を飲んで、出して、泣いて、寝て、笑って、ときどき、何かしゃべる。笑うと幸せ。しゃべっても幸せ。何しても幸せ。幸せなのが仕事。


 皆が、自分の得意なこと■して、神殿のために働いている。

 ブタは、私も自分の好きなことをすればいいといっていたました。


 だから、私は、自分の好■にしようと思います。

 私は、ブタみたいに、やわらかくてあたたかくておいしい神官になります。


(パレヴィダ本神殿副神官長特別所有私本『シ■ルののーと』より)


(*非常に個性的な筆跡のため、■部は、解読不可能として未記載)




 ***




 シリルが地方神殿で暮らし始めて4度目の春のことだ。

 外交担当となった彼は、くらいを輔祭にまであげていた。

 その昇進を支えたのは、彼の熱狂的な信者達であった。


 シリルは生来の美貌を取り戻しつつあった。

 春の光に輝く翠の瞳。

 絹糸のように滑らかな金髪。

 桃色の唇からは、鈴を転がすような声が穏やかに紡がれる。

 常に浮かべられた微笑みも相俟あいまって、その様子は慈悲深き女神のようであった。


 しかし、古参の神官達は知っていた。

 その中身が『シリル』のままであると。


 ***


「豚が空を飛んだって、ほんとか!? アルフォンス!」


 執務室に駆けこんだシリルは開口一番に叫んだ。両手に抱えていた、三つ編みにしても長ったらしくて走るのに邪魔な髪を投げ出せば、小さなため息が聞こえた。書類を整理していたらしいアルフォンス司祭長が頭痛を堪えるようにこめかみを押さえている。


「シリル、『魔性の聖人』としての自覚というものをだな」


 むー、とシリルは唸った。『魔性の聖人』は、元ちびっこ神官見習い(今では一人前の神官だ)が考えてくれた『出世が早そうな神官像』だ。ちび達と約束したのだから守らねばならない。早く偉くなって、本神殿のブタに会うのだ。ブタは意外とさびしがり屋だから、シリル達が一緒にいてあげないといけない。


 シリルは、逸れに逸れた思考を、『魔性の聖人』を頑張る! ということで結論付けた。そして現実に戻れば、アルフォンスの御説教はまだ続いていた。相変わらず長い。


「廊下を走るな、言葉遣いに気をつけろ、目上は敬え。……後は、何を注意すべきか。……駄目だ、多すぎてどれにすればよいのかわからん」

 長い銀髪が顔にかかったのを後ろに払い、アルフォンスは、うむ、と頷いた。

「とりあえず、もっと食って太れ」


 『太る』で、シリルは自分がなぜ執務室に来たのかを思い出した。

 そんなことより、と彼はアルフォンスに詰め寄る。

「だから、豚が……」


 掴みかからんばかりに近づけば、分かった分かったとアルフォンスがシリルを押し留めた。彼は、しょうがない奴だ、と全く困っていない口調で笑った。そしてシリルが待ち望んでいた答えをくれた。


「まったく。正式に発表するのは、明日の礼拝の時間と決まっていたのだがな。……本当だ」


 やったー、とシリルがアルフォンスに抱きついた。

 同時に、扉の外からも、おおっ、というどよめきが上がる。

 聞き耳を立てていた神官達があげた歓声だった。


 少年神官見習いが走り出した。

 このめでたい知らせを神殿中に知らせるためだ。

「大変ー! 豚が空を飛んだよっ」


 少年の喜びに満ちた声が白亜の神殿に響く。

 奥庭にいた老神官は、目尻の皺を深めて深く頷いた。


「ほう。とうとうギルバート様が副神官長におなりか」


 パレヴィダ神殿リムブルク北地区第一支部。

 そこでは、ブタで全てが通じる。

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