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So what?  作者: らいとてん
第4章 パレヴィダ神殿編
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【番外編】28.5話、30.5話

***【28.5話】『南瓜かぼちゃプリンが出されるまで』***


「茶請けの菓子を作れって、今からか?」

 パレヴィダ神殿の料理長は唸った。

 厨房は、昼食の後片付けを終えて、まさに晩餐に向けた闘いを始めようとしていたところであり、正直言って新しい菓子作りに回す余力がなかった。

 

「む、むりですか……」

 おろおろと料理長を見上げるチワワの君……違った、子犬の君。今年5歳になる甥っ子を思い出して料理長は頬を緩めた。


「ん。よし、コイツを持ってけ」

 差し出されたのは、晩餐用に作られた南瓜プリンであった。

 よく冷えた皿を手に、子犬の君が嬉しそうに目をぱぁっと輝かす。

「ありがとうございます!」


 弾むような足取りで応接室に向かう子犬の君。料理長は、その後ろ姿に左右に勢いよく振られる尻尾の幻影を見た。



***


「いいんですか。アレ、今日の副神官長のデザートでしょう?」


 ソースをかき混ぜながら尋ねる部下に、料理長は笑って答えた。

「ちょうどいいから、今週から副神官長様にはダイエット週間に入っていただくことにするか。丸々と太った方が、動きが面白くて愛嬌があると信者の御婦人方に受けていたらしいが、流石に膨らませすぎたからな」


 先週なんぞ、銀の女王が起こした風にコロコロと転がったらしいぜ、と苦笑する料理長に、流石は、どんな悲しいことがあってもあの方を見るだけで笑いが止まらなくなるという『子豚の道化師』様ですね、と返した部下だった。


 信者にも料理人達にも、ある意味で愛されてはいるが、まったくもって敬われていない副神官長だった。

 

 ちなみに、豪快に転がった副神官長を見た銀の女王は、ぶぁっはっは、と高らかに笑い声を上げて、面白いものが見られたから今日は満足だ、と珍しく一角獣を狩ることなく帰って行ったそうだ。




***【30.5話】『御父様の趣味は実用魔術の開発です。』***


「それでね、僕の仔がねー」

 蒼の瞳が酔いに潤んでいる。銀の毛並みが月光を弾いて白く光っていた。

 月夜の天狼ほど、神秘的で美しいものはない、ただし――。


 国王は遠い眼をした。

(ただし、自分の妻と仔の自慢をする酒臭い酔っ払いでなければ……)


 銀の女王の番がここまで酔っぱらった責任は国王にもあった。

 仔育ての悩みを愚痴りに来た彼に、明日は忙しいので可及的速やかに穏便にお帰りいただこうと秘蔵の酒の数々を出して来たのは、確かに国王だった。

 

 だが、国王は知らなかったのだ。

 まさか、銀の女王の番がここまで強いとは……!


 思わぬところで彼の強さを知った国王は、部屋の中に散乱する酒樽と酒瓶を見まわした。このままでは埒が明かない。明日は朝からパレヴィダ神殿の視察をはじめとした執務が目白押しとなっている。このまま貫徹は、きつい。


(よし、一気に潰すぞ)


 国王は『最終兵器』をベッドの下から取り出した。


「ところで、北方から取り寄せた『火蜥蜴の銀雫』があるんだが、一杯どうだ」


 大の大人でも一杯で酩酊する品だ。

 固唾を飲んで見守る国王の前で銀の魔王の番は酒瓶に口を近づけた。


 匂いを確かめるのか、と見つめる国王の予想は外れた。

 なんと、銀の魔王の番はガラス瓶を口にくわえ、ぐいっと上向いて瓶ごと飲み干したのだ。ごくごくと喉を鳴らす銀の魔王の番に、国王は眼を丸くした。


(なんという勇者……!)


 絶句した国王に、瓶を床に置いたいにしえの勇者は美味しい酒の礼を告げ、再び愛妻と幼魔獣達の愚痴の体裁をとった自慢話にもどったのだった。


 国王は知らなかった。

 銀の魔王の番の趣味は実用魔術の開発であり、その中に、体内の一定以上のアルコール分を分解するものという『夜明けは遠い! 徹夜飲み用最終魔術(最終兵器対応ヴァージョン)』があるということを。


 国王は覚悟した。

 明日のパレヴィダ教皇からの説法の時間は、自分の人生最大の苦行となるであろうことを。

 彼の予想通り、銀の魔王の番の話は夜明け鳥が一番鳴きをしてもなお続いたのだった。

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