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So what?  作者: らいとてん
第3章 勇者と魔王一家編
33/86

【番外編】『御父様は草食系』、『懐かしくも愛おしい日々』

 銀の獣がこちらに向かって駆けてくる。

 鋭い爪が岩を削り、大地に己の足跡を刻む。

 

「よう。俺はバルトロだ」


 蒼の瞳をギラリと光らせ、バルトロは咆哮する。


「ここにあるのは、気が乗った時に活動報告におまけとして載せられていた小話だ。作者が本編に載せられなかったネタ、妄想が止まらず書いてしまったネタなんだと。ただし、活動報告時とは表現等が一部違うそうだぜ。いまいち気に入らない表現等を改訂したんだとよ。」

  

 優美な耳を持つ獣はにやりと牙をむき出し、最後にひと際大きく吼えた。 


「さあ、思う存分、番外編を楽しんでいってくれ」




***【番外編】『御父様は草食系』***


「御母様って肉食系女子だよね」

 逃げ惑う一角獣を追いつめる御母様を見ながら、モニカがふと呟いた。


 勇者光輝を交えての一角獣狩りはフィナーレに突入していた。頭数が多いと逆に効率が悪いということで、モニカと光輝、御父様は待機組となり、御母様と弟妹たちの狩りを離れた所から見守っている。


 彼らの役割は、時々、一角獣を守らんと特攻する神官を安全圏まで風の魔力で吹き飛ばすことだ。


 「えっと、どこから突っ込めばいいのかな」

 小坂家突っ込み隊長の光輝は脱力しながらモニカにもたれかかった。


 『肉食系女子』ってそういう意味じゃないとか

 そもそもマジものの意味で『肉食系』だとか

 現役魔王に『女子』ってどうだとか

 むしろ漢の中の漢だよなとか

 

 光輝の脳内で様々な突っ込みが渦巻いた。

 生まれ変わっても姉の天然ボケは治らなかったらしい。

 とりあえず、姉に抱きついて「モニカ姉は天然系モッフルだね」とコメントしておく。


 そんな一匹と一人の間に御父様は鼻先をずずいと入れてモニカの頭を優しく毛繕った。


 「『肉食系女子』? それも最近の若い子たちの言葉なのかい? モニカ」

 

 光輝は頭上から尻尾でベシベシされた。


 御父様の尻尾は光輝の身の丈ほどの長さがある。

 一応潰さぬように力加減はしていたが、頭上から振り下ろされる銀の毛皮に埋もれて怯えるがいい、と御父様は思ったらしい。


 が、ひょいっと光輝の上から尻尾をどければ、黒の瞳をキラキラと輝かせた光輝くんがいた。


 むしろ喜んでいた。


 予想と異なる反応に、何故だ……と、しょげた尻尾に抱きつく光輝。

 彼の期待に満ちた目に負けて御父様が尻尾を上下してやれば喜びに満ちた悲鳴が上がった。


 



***【番外編】『懐かしくも愛おしい日々』***


 それはまだ狩りも許されていない幼き日。

 御母様の前足の上に弟妹達とよじ登るほど小さき日。

 今は昔の懐かしくも愛おしい日。



 銀の雨降る月の夜のことだった。己の尾さえも見えぬ闇の中で黒の幼獣は瞳を閉した。


 思い出すは母の子守唄。


 庭には向日葵が咲いていた。

 湿った土の匂いがする雨の日だった。


 リビングにあるソファーに母が座っていた。

 左右にいるのはまだ幼いあきら光輝こうきだ。


 彼らは母のまあるく膨らんだお腹に耳を当てて小さく囁きかけた。


「ゆーき、おねーちゃんだよー」

勇輝ゆうき。お兄ちゃんだよ。お前はしっかりした子に育つんだぞ。僕は天然なアキラ姉のフォローで精一杯なんだ」


 母は優しく幼子達の頭を撫でる。

 二人に降り注ぐ小さな笑い声。


「さあ4人でお昼寝しましょう。私と晶と光輝と勇輝。折角こんなに良い天気なのだから皆でお昼寝しましょう」


 光輝は怪訝そうに母を見上げる。


「お母さん。今日は雨だよ」


 そうねと呟き、母はガラス戸を叩く雨粒を見つめた。

「まるで、水の中にいるみたいじゃない? こんな日に見る夢は透明に澄んだ、アキラちゃんみたいに優しい夢よ」


 もうすぐ三児の母になるとは思えない無垢な微笑みに、


 暫し呆けた光輝は、僕が、僕がしっかりしてお母さんを守るんだと決意を固め、


 照れて赤くなった晶は、タオルケットと枕を取ってくると寝室へ逃亡した。


 眠りに落ちる幼子に、降り注ぐのは――


 重なり響く暖かな鼓動

 透明に澄んだ優しい雨音

 柔らかに囁く母の子守唄


 愛しさ溢れる優しい記憶。


 いつまでも……いつまでも続くと思っていた愛おしい日々。



***




 瞳の奥から湧く熱に『くろいの』は不味いと目を瞬かせる。

 水の膜に揺らめく視界の向こうで、何かかが光った気がした。


 瞬いた拍子に、黒の毛並みを濡らす一筋を何かはそっと舐めとった。


 頬から離れた大きな口は、ぐいっと『くろいの』の首筋を噛み、柔らかな銀の毛並みの上へと降ろした。己が踏みしめているのが御母様の前足であると知った瞬間、何かが体当たりしてきた。


 その何かと共に、『くろいの』は御母様の足の上から真っ逆さまに落ちた。

 幼獣の悲鳴じみた鳴き声が響く。


 体の上に何かが乗っているため、『くろいの』は受身も取れなかった。

 だが、その何かを振り落とすという選択肢は存在しなかった。

 それは彼女の大切な銀の毛玉達だったから。

 庇いこそすれ、彼らに怪我をさせるなどもっての他だったのだ。


 ゆっくりと黒の瞳を開けば、彼女を心配そうに見つめる蒼の瞳があった。月の光を弾いてキラキラと光る銀の毛玉たち。ふとよぎった言葉は、懐かしい父親のものだった。


『宝物はキラキラしているものだろう?』


 あれは、たしか弟の光輝が生まれた時に、えらくキラキラした名前だと首を傾げた己に父親は笑った。父は、彼女と弟は自分の宝物だと誇らしげに胸を張っていた。


 衝撃に引っ込んでいた瞳の熱が再びぶり返す。

 水の膜が『くろいの』と世界を隔てようとした瞬間に、再び彼女は顔面を舐められた。


 弟妹たちだった。


 小さな舌で拙くも必死に、姉の涙にぬれた目元を、頬を、両耳を毛繕っていた。そのあまりの真剣な表情に『くろいの』は少し可笑しくなる。


 ふわりと揺れる小さな黒の尻尾。

 伏せていた黒い耳がそろりそろりと持ちあがる。

 まだ短い黒の髭もくすぐったげに揺れた。


「怖い夢でも見たのかい? 我が愛し子よ。

 案ずることはない。

 怯えることはない。

 いかなる脅威も我が牙で打ち砕いて見せようぞ」


 優しい声が頭上から降り注ぎ、最後の雫を舐めとった。いつしか雨は降り止み、白く輝く月の光が洞窟に差し込んでいた。はっきりした視界の向こうで、月光を弾いてキラキラと光る銀の毛並み達。


『宝物はキラキラしているものだろう?』


 ああ、と『くろいの』は思う。


(キラキラ輝く宝物は、ここにもある)


 心配げに己を見ている五対の蒼の瞳に、ふるふると首を振って『くろいの』は鳴く。


「いいえ……いいえ、御母様。とても優しい夢を見ました。

 水の中、透明に澄んでキラキラと輝く夢を」



***



 その晩、『くろいの』は弟妹達に押し潰されて寝た。心配して『くろいの』から離れようとしなかった銀の毛玉たちは黒の毛玉を枕に満足げに寝鳴きを呟く。銀に埋もれた黒も苦しげながらも幸せそうであった。


 御母様は柔らかな銀毛と尾の中に彼らを包み込み、蒼の瞳を和らげて、そっと己も瞼を閉じた。


 暖かな鼓動に包まれて獣達は眠りに落ちる。朝の日が昇り、寝ぼけた愛し子達がお互いの尾に耳に背に噛みついて、そのまま組んず解れつの大乱闘に発展するまで。



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