表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
So what?  作者: らいとてん
第3章 勇者と魔王一家編
31/86

【22】店内でお召し上がり下さい。

 とある異世界のとある王宮で、勇者は魔王一家の御仔様方に相対していた。


 異世界基準で6,7歳ほどに見える少年を、熊より大きい魔獣の四対の蒼の瞳が見つめる様は、一見まさに捕食まで秒読み状態である。一角獣ならば泡を吹いて気絶しているだろう。


 モニカは、そんな一人と四匹たちの様子を少し離れた所から落ちつかなげに尾を揺らしながら見守っていた。


(できれば、仲良くなって欲しいな。でも、光輝ってリーナス達のことをどう思ってるんだろう……。ヴォルデとのことを納得させるので必死で、結局、聞けないままだったんだよね。よくも僕のお姉ちゃんをとったなーとか、昔みたいに暴れたりはしないよね……?)


 まだ光輝が幼稚園児であった頃に、小学生であった晶の男友達候補(悪い虫)を、彼が実力行使で追い払おうとした時のことを思い出しながら、モニカは唸る。


 件の喧嘩は、小学生に幼稚園児が勝てるはずもなく、光輝が惨敗して終わった。

 


 今回も、もし光輝が弟妹たちに喧嘩を売ったとしても、

 如何に勇者とはいえ、魔力の扱い方も知らない彼が勝てるとは思えない。


(ちょっとでも雲行きが怪しくなったら即止めないと!)


 はらはらしながら弟妹たち(前世+今世)を見守るモニカは知らなかったりする。


 件の事件では、『偶然』通りかかった先生が、小学生(悪い虫)に一方的に殴られる幼稚園児(ゆうしゃ光輝)を見つけ、慌てて二人を止め、保護者お呼び出しとあいなった。そして、「年下を虐めるとは何事か」と親御さんにさんざん叱られた小学生(悪い虫)は、光輝に頭を下げて謝る羽目になったのである。


 モニカは気付いていない。


 結局彼女は、自分の可愛い弟を殴った相手を許しはせず、

 件の男の子は、今では顔も名前も思い出せない存在となってしまっていることに。


 愛する弟の背後でウニョウニョしている黒いギザギザ尻尾に彼女が気付く日は来るのだろうか。

 

 ところで、ちまっこコーキは勿論、分かっていて「肉を切らせて骨を断つ作戦」を実行した。

 「何処の世界に、あえて相手に殴られて姉の不興を買わせる幼稚園児がいるんだ、お願いだから自重しろ」とは、教師に呼び出され大まかな事情を知った父の談である。が、愛娘の勘違いを訂正しなかった彼は、やはり光輝の父であった。


 ちなみに、光輝曰く、件の事件は彼の黒歴史であるそうだ。

 「アキラ姉にばれて心配させてしまった時点で作戦失敗。あの頃は俺も若かった」とは彼の談である。

 

 さて、当時から末恐ろしいと親戚一同から評価を受けていた幼稚園児コーキ。そのちまっこコーキをして「若かった」と評する勇者コウキ。主にシスコン面で進化した中学生ヴァージョン光輝という、ある意味で魔王よりも恐ろしい生き物を召喚してしまったパレヴィダ神殿の明日はどっちだ。  

   

 ***


 さて、実は腹の底まで真っ黒な中学生とは知らずに、仔魔獣達は初めて出会った異世界人とあって好奇心に瞳を輝かせていた。


「えっと、リーナスですっ。この前は潰してごめんなさい。ねぇねぇ、異世界ってどんな食べ物があるの? 一角獣はいる?」

 リーナスがパタパタと尾を振れば、

「私はエルティナと申します。お目にかかれて光栄ですわ、艶やかな毛並みをお持ちの勇者コウキ様。異世界でのお手入れの方法を教えていただけませんこと?」

 と、エルティナが優雅に尾を振り、

「僕はアルクィンです。明日から一緒に魔力の使い方を御父様に習うことになるそうですよ。よろしくお願いします」

 と、アルクィンが蒼の瞳を細めて、ふわりと微笑み、

「俺はバルトロだ。なあ、攻撃系の魔力の使い方を覚えたら、一緒に一角獣狩りに行こうぜ!」

 と、バルトロが牙を剥き出して豪快に笑った。


 そんな個性あふれる弟妹たちを、余所行き用の笑顔(エンジェル・スマイル)を浮かべたまま、じーっと見つめていた光輝は、突然くるりとモニカを振り返った。背後から彼を見守っていた彼女は、思わずびくりと背筋の毛を逆立てて、上目遣いに彼にお伺いを立てる。


「ど、どうしたの? コーキ」


 何かをこらえるように感情を抑えた声で光輝は彼女に告げた。


「ねえ、お持ち帰りしてもいい?」


 目を点にしたモニカは、次の瞬間、勇者こうきが銀の毛玉にダーイブする様を目撃する。

 

 まさに、勇者。誰もがしたくとも自重していたことを何の躊躇いもなくするとは……とは、女官長の談である。


 なにはともあれ、勇者は魔獣一家が大変お気に召した様子であり、後日開かれた一角獣狩りにも非常に楽しげに参加なさっていたということである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ