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So what?  作者: らいとてん
第2章 銀狼騎士団編
24/86

【番外編】『後ろの幼獣達』『trick or treat』『Trick and Trick』

ネタばれがありますので、番外編その2までを読了後にお読みください。


 銀色の獣がこちらに駆けてくる。

「こんにちは。『ちいさいの』っていいます!」

 『ちいさいの』は、えっと、とカンペを見ながら、元気良く鳴く。


「ここにあるのは、気が乗った時に活動報告に、おまけとして載せられていた小話だそうです。作者が本編に載せられなかったネタ、妄想が止まらず書いてしまったネタ、感想欄等にあったリクエストにお答えしたものなど、です」


 最後までつまらずに言えた喜びに、尻尾を盛大に振り、『ちいさいの』は、ほめてーと蒼の瞳を輝かせる。


 それでは、と『ちいさいの』は最後にひときわ大きく咆哮する。

「番外編をお楽しみ下さい」



***【番外編】幕間2.5話『後ろの幼獣達』***


「まずいよー」

「困ったわね」

「ううむ」

「どうしようかー」

「予想以上にへこんでるね」


 夜の王庭で一匹落ち込んでいる御父様を、王宮の柱からのぞく五対の瞳があった。

 

 幼獣達は昼間に父親をからかいすぎたことを謝るために彼を探してここまできたのだった。だが、あまりに彼が深く落ち込んでいるため、声をかけることができずにいた。


「昼間のアレはやりすぎだったかなー」

「そうね。……ちゃんと、ごめんなさいしないと」

「父さん、しっぽがしょぼんとしてた」

「耳もな」

「……『お詫びの品』も用意したし、ちゃんと謝ればゆるしてくれるよ。きっと。それにしても、どうやって声をかければいいんだろう。物凄く近づきにくい空気だね」


 ふうむ、と夜空に光る月を見上げて、『みみなが』は呟く。


「ここは、家族恒例のアレにするか」

 それに『ちいさいの』が耳をピクリと動かす

「え、アレ?」

 『おなが』が小首を傾げる。

「御父様、つぶれてしまわないかしら?」

 『おおきいの』が不安げに鳴く。

「下手をすれば、父さんに止めを刺すことになるのではないかな」


 モニカは、うーんと唸って父親を見やる。

(止めって、精神的に? 肉体的に? どっちにしろ、アレを受けて、ただで済むはずがない。……でも)


「いいんじゃないかな」


 ポツリ、と呟いたモニカに四対の蒼の瞳が向けられる。それらに笑いながら彼女は鳴く。


「私はうれしかったよ? アレ」


***


 伏せたまま、御母様とのあれやこれやを思い出していた御父様は、背後から突然聞こえた獣達の足音にゆるりと振りむいた。その瞬間、彼の視界いっぱいに広がる銀と黒。温かな毛玉達に押しつぶされ、完全に埋まった彼の耳に聞こえる愛し子達の鳴声。

 

「御父様、昼間はごめんなさい」

「からかいすぎました、反省しています」

「ごめんなさいっ。嫌いにならないでー」

「ごめん、親爺、やりすぎた」

「ごめんなさい。お父さん。……さて、我が弟妹たちよ、御父様が好きかー!?」

 

 黒の獣が、天の月に向かい咆哮すれば、銀の幼獣達がそれに続き遠吠えをする。


「御父様、大好きですわ! 御母様は、ここに来るまでの道中ずっと御父様のお話ばかりなさっていましたの。私、ずっと、御父様にお会いしたいと思っておりましたのよ」

「僕の耳は御父様似だってお母様が言ってたよ! 父様、大好きー」

「私の瞳の形は、父さん似だそうですよ。父さん、大好きですっ」

「俺の尻尾の長さと毛並みは親爺そっくりだってさ。親爺……好きだぜ」

「私の魔力はお父さんとそっくりなんだって。お父さん、大好き!」


 幼獣達に押しつぶされたまま、蒼の瞳を真ん丸に見開いていた御父様は、ゆるりとその目を細める。


(そうか。彼女にばかり似ていると思っていたが、言われてみれば)


「……我が愛し子達よ。父もお前達のことが大好きだぞー!」


 こうして、御父様が初参加なさった第12回家庭内愛の告白大合戦は、安眠を妨げられた国王が人間を代表して魔獣たちに苦情を申し入れるまで続いた。


 そして、その後、王宮の柱の陰に隠され、魔力で厳重に縛られた『生け捕り一角獣』を幼獣達からサプライズプレゼントとして贈られ、どうする!? 俺!? と、どこぞの獣生を決める選択肢が書かれたカードの幻影を御父様は見たのだった。



*** 





***【番外編】幕間2.5(2)『trick or treat』***


「おにくー。肉をよこせー」

「お肉を下さいな。レアがいいですわ。でないと、食べてしまいますわよ?」

「僕は魚がいいな。新鮮なのをお願いします。まぁ、人から貰うよりも、目の前の獲物を狩るほうが好きだから、くれなくてもいいけどね」

「俺は生肉がいい。新鮮な熊のをくれ。でなけりゃ、喰っちまうぞ」

「私はお菓子でもいいですよ? ま、一角獣の血の方が甘味としては好きだけどね」


 期待にギラギラした目で見つめられて、パレヴィダ教皇は引き攣った笑いを浮かべた。

 彼は、神殿の奥庭に続くこの扉を死守しなければならなかった。


 扉の向こうから神官達の、


「誰だ! ハロウィンなんて御仔様方にお教えしたのは!?」

「一刻も早く一角獣様を避難させろ!」

「おいっ。肉と魚はまだかっ!?」

「何、長女殿がお菓子を要求しただと!? くっ、予想外だ」

「そこのっ、教皇様のとっておきのがあっただろう、全部かっぱらって来い!」


 という切迫した声が聞こえる。


 さて、trick or treat どちらを幼獣達が選択したかは、「良いもの一杯貰ったー!」と嬉しげに尻尾を振る幼獣達からお裾分けをもらった彼らの両親と、「神よー! 何故、我らにこのような試練をおあたえになるのです!?」と、女神像の前で絶叫した教皇のみが知っている。


***





***【番外編】『Trick and Trick』***


「「Trick "and" Treat!」」

 期待に目を輝かせて己を見上げる銀の女王夫妻に、国王は不敵に笑う。


「ふははっ。伊達に毎年襲撃を受けていないぞ。見よ、この珍味美味の料理の数々を!」


 国王が指差した王庭には、数え切れないほどのテーブルが並べられ、その上には、仔羊の丸焼きから、鮭の燻製、馬の刺身と多種多様な料理が乗せられていた。


 そして、それを、あむあむと美味しそうに食べる、国王陛下の子供様御一行がいた。


「って、お前達、何をしているんだ!?」


 慌てる国王に食べる手を止めない王子王女(王太子を含む)。


「だって、御父様、料理人達が国王陛下の命令のほうが先だと言って、朝ご飯を作ってくれなかったのですもの」

「そうそう。僕達、お腹が空いて我慢できなくて……」

「銀の女王の御仔様方は神官で遊ぶって、朝早くに出かけて行ってしまったし」

「遊び相手がいなくてつまらないから、私達は父上で遊ぼうって思って」

「父上のところに来たはいいが、腹が減っていい匂いをしている料理を思わず食べ始めたんだ。それにしても、さすが料理長が作った品々だ。美味い」


 そのまま料理の講評を始めた子供達に、国王は冷汗を掻いて後ろを振り向く。

 銀の女王夫妻が、さて、代わりの品は、『あの聖獣』だ、分っているな……? と、目を爛々と輝かせていた。


***


 神殿と諍いを起こすわけにはいかない! という国王の必死の説得もあり、後日改めて食事会を開くことにして、銀の女王夫妻は自室へと戻ってきていた。


 さすがに王子王女も、全皿は食べきれなかったため、彼らが残した分を食べた魔獣夫妻は、満足そうに御互いの毛繕いを始める。


 ふとクロードの瞳に悪戯な光が灯る。


「なぁ。わが愛すべきつがいよ」


 彼に顔を向け、首を傾げた銀の女王に、クロードは牙を剥いて笑う。


「Trick or Treat」


 怪訝な顔をした銀の女王に、お菓子をくれないのか? とクロードは笑みを深める。何か企んでいる顔だな、これは、と身構える彼女の耳をクロードはゆっくりと舐める。

 ただ単なる毛繕いではなく、明らかに別の意図を持って。

 

「では、お菓子よりも、もっと甘いものを貰おうか……?」


 獣の鋭敏な耳に、砂糖菓子よりも甘やかで、艶を含んだ声が吹き込まれ、銀の女王は背筋の毛を逆立てた。それに気を良くしたクロードが彼女の耳を食もうとした瞬間だった。


「おかーさまー! おとーさまー!」

「お肉を貰いましたの」

「御父様の好きな仔羊も御母様の好きな兎もあります!」

「王都では珍しい熊肉もな」

「お菓子もありますよ。『親切な』神官達がくれました」


 がっくりと肩を落としたクロードは、キラキラとした瞳で、褒めてーと彼を見つめる五対の瞳に苦笑する。


「よくやった。我が愛し子達よ」


 クロードに半ば伸し掛かられていた銀の女王は、彼を振り落とすと、母の窮地を救ってくれるとは、さすがは我が愛し子、と幼獣達の頬を舐めてやっている。クロードも立ち上がり、偉いぞ、と幼獣達の額を舐める。


 両親に褒められた幼獣達が歓声を上げる。


 クロードには、幼獣達の脳内に、『神官で遊んで肉をゲット=御母様と御父様に褒められる』の方程式が書き込まれたことが分かったが、あえて放置した。


 なぜならば、幼獣達が神官達で遊んでいる時間は、仔育てに忙しく、中々妻と二匹だけの時間が取れないクロードにとって、彼が一番愛する獣を捕食できる数少ない機会の一つだからだった。


 この後、外交問題にならない程度に神官で遊ぶ方法を熱心に幼獣達に教え込むクロードの姿が見かけられたという。




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