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So what?  作者: らいとてん
第2章 銀狼騎士団編
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【0―2】御母様の昔語り(1)

残酷描写がありますので苦手な方はご注意ください。



 人と魔獣の争いは幾世にも渡って続いた。人の住む大地は疲弊し、魔獣の住む魔の森も次第に魔力が枯渇しつつあった。


 赤く染まる大地、

 徐々に枯れてゆく魔の森の木々、

 空しく失われてゆく数多の命達。


 天狼の娘は、それをただ無感動な目で見ていた。


 天狼は生きるために膨大な量の魔力を必要とする。魔の森から魔力を得て、足りぬ分は他の魔獣を食らうことで、ようやく彼らの体は満たされる。だが、長引く戦乱により、魔獣の頭数は減り、魔の森は疲弊した。生きるための魔力が足りず、同族は次々と倒れていった。


 生き残ったのは族長が娘であった彼女だけであった。


 彼女は生きた。天狼の最後の一匹としてその命を大地に魔の森に刻みつけるかのように。


 銀の魔王だと、人に襲われたこともあった。

 ――彼女は、魔の炎で『敵』を焼き払った。

 魔獣の王を食らうことで力を得ようとした魔獣に狙われたこともあった。

 ――彼女は、魔の炎で魔獣を焼き、『獲物』の魔力を食らった。


 彼女は、ただ生きるためだけに生きていた。


 どれほどの時を過ごした後であったか、銀の魔王と同じ色彩を持つ、銀の髪に蒼の瞳を持った女が銀の魔王の元へと訪れた。女は、自分は異世界の民であり、銀の魔王の怒りを解くべく召喚されたといった。


 銀の魔王は吠える。

「くだらぬ。怒り? そのような感情を私は持ってはおらぬ。私が人を倒し魔獣を食らうのは、ただ己が生きるためのみ」


 今にも己を食らわんとする魔獣に、怯えることなく女は懇願する。

「このままでは、人と魔獣は、互いの最後の一人と一匹まで争いを続けるでしょう。銀の魔王、貴女は、魔獣の頂点に立つ獣としてこの戦乱に終止符を打つ義務がある。それは、貴女の御仔が生きる次の世を守ることにもつながります。銀の魔王よ。どうか、御力をお貸し下さい」


 銀の魔王は思う。天狼は彼女一匹を残して滅びた。もはや、彼女が仔を抱くことはなかろうと。人が滅びようと他の魔獣が滅びようともはや彼女には関係がない。


 だが、何の気まぐれか、銀の魔王は女の願いを聞き入れた。

 それは、愛しげに己の腹を撫でる彼女を見た時だった。自分の命ではなく、仔の命のために懸命な彼女の姿は、銀の魔王の心に小さな波紋を広げた。銀の魔王は、ふと、その命の行く末を見たいと思ったのだ。


 その日、魔の森と人の地の境に、異変が起きた。

 突如として、天空まで伸びる、銀に輝く薄絹のような障壁ができたのだ。

 

 通り抜けることはできる。

 だが、魔獣が人の地へ行けば、魔力を失いただの獣となり、人が魔の森へ行けば、魔力を失い無力な獲物となった。


 自然と、人は人の地で、魔獣は魔の森で、生きるようになった。戦乱以前のような住み分けがされるようになり、暗黙のうちに相互不可侵が守られた。


 後に人は、これを魔獣と人の間に結ばれた契約によるものだと言い始めた。

 結んだのは、人の王族と銀の魔王であると。


 王族ではなく、異世界の女こそが契約者であるということは、時が流れた今となっては、銀の女王と少数の王族のみが知ることであった。だが、あの女が王族であるというのは、ある意味正しかった。正確には王族に『なった』だが。

 

 人の地の王族は、銀の女王と同じ色彩の、銀の髪に蒼の瞳の者が多い。幾世も前の正妃の血は、確かに彼らに流れているようであった。銀の女王は時折、目を細めて彼らを見つめる。「食われるっ!?」と怯える者もいるが、彼女は意味深に尻尾を振って牙を剥きだすだけだった。


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