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So what?  作者: らいとてん
第2章 銀狼騎士団編
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【11】銀の女王の御子を探せ!

 闇色の仔犬は床に伏せ、組んだ前足に顎を乗せて瞑想する。


 もちろん、エレナ嬢から譲ってもらった子羊肉の蕩ける様な柔らかみと濃厚な旨味について、ではなく、『くろいの』自身の現状と今後どう行動すべきかについて、だ。


 銀狼騎士団の会話を盗み聞きしたところ、どうやら、『くろいの』を魔法陣で浚った女は違法魔術師だったようだ。


 あの日、銀狼騎士団が部屋に押し入ったのは、あの女を違法実験と凶悪犯罪の容疑で捕えるためだった。そして、彼女の目的は、強大な力を手に入れること、それだけだったようだ。特に政治的な意味や裏で糸を引く人物もいなさそうなことに、『くろいの』は胸を撫で下ろした。万が一、『くろいの』を浚って、御母様を言いなりにしようと人間達が企んでいた場合、まず間違いなく御母様の激怒で王都が火の海に沈むことになっていただろう。


(私のために人類が滅亡することにならなくて良かった……)


 あの女が単独犯であったのならば、犠牲も彼女一人で済むだろう、と、その時『くろいの』は考えた。御母様が、人を襲うところを見たくはなかったが、事が事だけに、彼女の激高を止められる存在が、魔獣にも人にもいるとは思えない『くろいの』のだった。


 違法魔術師に捕らえられていた『くろいの』は無事、銀狼騎士団に保護された。『魔術の実験台にされていた犬』だと勘違いされていることには気づいていたが、女への取り調べや部屋で何が行われていたかの調査の中で、自分が『銀の女王の仔』であると騎士達が気付いてくれるだろうと、『くろいの』は楽観視していた。


 だが、世の中そう上手く事が運んではくれない。


 まず、違法魔術師が何の自供もしないうちに自害した。


 どうやら、あの女は不治の病であったらしい。その病を治すために強大な力を求めた、というわけだ。そして、違法な魔獣召喚は彼女にとって最後の希望であった。だが、銀狼騎士団に捕まったことで彼女の最後の望みは絶たれた。絶望した女は、定期的に飲まなければ病状が悪化する薬をわざと飲まず、騎士団が気付いた時には、もはや手遅れの状態だったらしい。


 団長は悔しげに「事前調査が不完全なまま逮捕の許可を出した俺のミスだ」と唸っていた。『くろいの』は、落ち込んだ彼の膝に乗り、慰めるようにその顔を舐めてやった。


(あの日、貴方が踏み込んでくれなければ、私はあの女と契約することになっていた。だから、ありがとう。ヴォルデ団長)


 第二の問題は、銀狼騎士団が女のアジトを捜査するどころではなくなってしまったことにある。彼らは今、別の案件に忙殺されているのだ。


 それは――『銀の女王の御子誘拐事件』である。

 下手をしなくとも人類滅亡の危機だ。既に死んでしまった違法魔術師ごときの事件を調べている時間も人的余裕も銀狼騎士団にはまったく無かった。


 夜のお話の中で、この大陸に国は一つしかない、と御母様はおっしゃっていた。

 かつて、魔獣と人が争っていた時代に、国同士が諍いを起こしている場合ではないということで一つの国に統合したらしい。国境も利害も民族も超えて人類を一致団結させた御母様の偉業は某平和賞に値する、とかつていた戦の絶えない世界を思い出しながら『くろいの』は尊敬のまなざしを御母様に向けた。


 そして、人間達は、今まさに当時の恐怖を思い出していた。


 今、かつて国を一つにするほど人類を追い詰めた銀の魔王の復活が迫っている。再び、人々は一致団結して、これを阻止せねばならない!


 王宮のバルコニーから熱く語る国王に、王宮の広場に集まった民衆は熱狂的な喝采を叫んだという。


 銀の女王の御子が何処に飛ばされたかが不明のため、国中に緊急の布令が発せられ、今や国民全員が銀の女王の御子を探していた。見つからなければ、古の銀の魔王が復活すると、歩き始めたばかりの幼児から杖をついた老人まで動員されている。


 当然のことながら銀狼騎士団もまた朝から晩まで銀の女王の御子を探して領地を駆け巡っていた。


 東に蒼の瞳の仔犬がいると聞けば、飛んでいき、

 ただのヌイグルミに脱力し、


 西に蒼の瞳の可愛い子がいると聞けば、駆けてゆき、

 そこの可愛いウェイトレスさん、僕とお茶しないか? とナンパしているところを、上司に見つかり、こってり絞られ、


 南に銀色の毛玉があると聞けば、飛んでいき、

 見事なシルバーブロンドのおじいさんに「儂も探しておるんじゃが、なかなか見つからんのぅ」と慰められ、「おじいさんも御無理はなさらないでくださいね」とおじいさんを気遣い、


 北に銀色の光が見えたと聞き、駆けていけば、

 ただの親爺のはげ頭に、最近ストレスが多い自分の後頭部が気にかかる。


 そんな生活を送っている銀狼騎士団員達は過労死寸前、といった体だった。

 

 彼らはある勘違いをしており、そのために御子を見つけれらずにいた。


 そう、彼らは勘違いしていた。

 銀の女王の御子は、『銀色』であると。


 それは、無理からぬことではあった。

 銀の女王の一族は代々、蒼の瞳に銀の毛並みの天狼といわれてきたのだから。

 まさか、御子が黒い瞳に黒い毛並みであるとは、誰も思わなかったのだ。


 かくして、誰も銀狼騎士団が最近飼い始めた闇色の仔犬が、銀の女王の御子だとはいまだ気付けていないのであった。



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