表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第一章 『ヘタレ』と呼ばれる青年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

第8話 平和な日常風景

 爽やかな風が、カーテンを静かに揺らしている。


 男の子の幽霊を浄霊した翌日の午後。

 冬夜たち三人はいつもと同じように、のんびりおやつの時間を楽しんでいた。


「相変わらず暇だなー」


 志季がテーブルに手を伸ばす。そこに置かれた冬夜お手製のクッキーを一枚取って口に運ぶと、


「志季は今日バイトじゃないでしょ」


 冬夜は愛用のマグカップをデスクに置いて、苦笑いを浮かべた。


 志季のバイトはだいたい週に五日程度だが、休みの日でもかなりの頻度で暇つぶしがてら事務所にやってくる。

 今日も休みだが、大学帰りに事務所に顔を出しているのだ。


 そしてコハクとゲームをしたり、文句を言いながらもしっかり事務所の片づけなどをして、適当な時間に自由気ままに帰っていく。


 いつもと同じく暇つぶしに来ていた志季が、手近にあった雑誌を取ろうとした時、所長用のデスクに置かれた冬夜のスマホが大きな音で鳴った。


「この着信音、協会からのメールか?」

「そうだと思うよ。今確認するから待ってて」


 冬夜の返答に志季が素直に頷き、隣に座っている人間姿のコハクに顔を向ける。


「多分、昨日の報酬の件っぽいよな」

「昨日のは浄霊でしたから、あまり報酬は多くないですよね?」

「まあそうだろうな」


 そんなことを二人で話していると、メールの確認を終えた冬夜が顔を上げた。


「浄霊を確認できたので報酬を振り込んだ、だってさ」

「やっぱその件か。で、今回はいくらよ?」

「んー、ちょっと待って」


 志季の言葉に促され、冬夜は早速ネットで銀行の残高を確認する。

 今日も志季とコハクは、その様子を黙って眺めていた。


 ややあって、スマホから視線を外した冬夜が、残念そうに眉尻を下げる。


「今回は浄霊だったから、やっぱりあまり多くはないかぁ」

「昨日は全然苦労してないもんな。むしろオレは何もしなかったから、仕事としてはめちゃくちゃ楽だった」


 志季がそう言って、最後の一つだったクッキーを口に入れると、


「まあ、そうだよね」


 冬夜も納得するように頷いた。


「あれ、でも今日の夕方にならないと、本当に事件が解決したかはわかんないんじゃねーの? まだ一日経ってないよな」


 言いながら、志季は掛け時計に視線を向ける。昨日、調査に向かった時間よりも少し早い。

 志季の言った通り、まだ男の子が浄霊されてから一日も経っていなかった。


「今回は先に浄霊の方だけ確認したみたい。夕方の事件については、これからちゃんと協会で確認するんだと思うよ。で、解決できてなかったら、また再調査の依頼が来る感じかな」


 そうなったら今度はただ働きだけどね、と付け加えながら、冬夜は困ったように笑う。


「そっか。ま、もし再調査の連絡来たら電話でもしてくれ。てことで、そろそろオレは帰るわ」


 志季が自分のマグカップを手に立ち上がった。まっすぐ事務所専用のキッチンへと向かっていく。


「今日は早いね。また靴屋?」

「そう。ちょっと気になるスニーカーがあってさ」


 その背中に冬夜が柔らかな笑みを含んだ声を掛けると、志季は振り返ることなく、素直に返事をよこす。


「志季のスニーカー収集も、俺の通販とそれほど変わらない気がするけど」

「言っておくが、オレはアンタほど買ってないからな。靴屋を眺めるだけでわりと満足できるし」


 志季がゆっくり振り返り、冬夜を軽く睨みつけた。どうやら、冬夜と一緒にはされたくないらしい。


「その辺はちょっと羨ましいよ。俺はやっぱり色々と買いたくなるもん」

「そういうもんかね」


 小さく嘆息しながら、志季はキッチンへと消えていく。


「俺には『見るだけで満足』っていうのがよくわかんないなぁ。ね、コハク?」

「ボクはどっちもよくわかんないですけど……」

「そっかぁ。でも、いつかコハクもわかる時が来るかもしれないよ」

「そうなんですかね?」


 冬夜とコハクが話していると、マグカップを洗い終えたらしい志季がキッチンから戻ってきた。

 そのまま、ソファーに置いていたバッグを掴むと、


「じゃあな」


 志季は冬夜とコハクに背を向け、手をひらひらと振りながら事務所を後にする。


「うん、また明日」

「車に気をつけてくださいね」


 残された二人は笑みを浮かべながら、その姿を見送ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ