表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第六章 崩れる日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/52

第51話 コハクのいない事務所で

 玖堂(くどう)家の玄関前。


 どうにかここまで帰ってきた冬夜に、征一郎が確認する。


疾雷(しつらい)はお前がメインで使っている退魔術だったな?」

「そうだけど、命中率も威力も微妙なんだよね……」


 訊かれた冬夜は、正直に、けれど自信なさげに頷いた。その視線は、征一郎の顔からわずかに逸らされている。


「それは力を封印されていたお前には仕方のないことだ」

「じゃあ、封印を解いた今ならちゃんと使いこなせるってこと?」


 冬夜が首を傾げながら、征一郎に期待の眼差しを向けると、


「そこまではわからん。今のお前から特別強い力は感じないからな」


 征一郎はぴしゃりとそう言い切った。

 途端に冬夜ががっくり肩を落とし、うなだれる。


「ええー、あんなに苦労したのに……」

「そうなんだよな。洞窟から出てきた時は確かに強い力を感じたんだけどなぁ」


 今はまったくだな、と志季も追い打ちをかけるように征一郎に同意した。


「まあ、腕時計を見る限り、封印を解くのには成功したんだろう。後はお前次第だ。そして、疾雷にはさらに上位のものが存在している。それを覚えておけ」

「さらに上……」


 征一郎の言葉の重さに、冬夜が息を吞む。


 これまで教えてもらえなかったのは、きっと自分がそこまでのレベルに達していなかったからだろう。

 そのことにはすぐに思い当たった。


「そうだ。普通の疾雷もまともに使えんお前には不要な情報かもしれんがな。このバカ息子が」

「ば、バカ息子って! 父さん、ずいぶんと失礼だねぇ!」


 痛いところをつかれた冬夜が不機嫌そうに頬を膨らませると、その隣の志季はクスクスと小さな笑みを零しながら冬夜を促す。


「これで少しは緊張が解けただろ。ほら、そろそろ帰って作戦会議するぞ」

「……うぅ……わかった」


 冬夜はまだ文句を言おうとしていたが、征一郎の言葉で緊張が解けたのは事実なので、渋々それを飲み込んで頷いた。



  ※※※



 玖堂家から車で送ってもらった冬夜と志季が、事務所に入っていく。


 冬夜の身体はずいぶんと楽になっていた。征一郎からもらった、疲労回復や治癒効果のある薬のおかげである。

 簡単な治癒術などは使える冬夜だが、さすがに今回の内側からのダメージには、自分の力だけでは対処できなかったのだ。


 すでに暗くなった室内には、やはりコハクの姿はない。


「夢だったらよかったのになぁ……」


 明かりをつけながら思わず零した冬夜に、志季が言い聞かせる。


「これは現実なんだ。オレも夢ならいいと思うけど、残念ながらそうじゃない」

「それはわかってるけどさ。そう思いたいじゃない」

「思うのは自由だけど、今はちゃんと現実を見ろ。これから作戦を練るんだからな。っても何にも思いつかねーけど」


 派手な音を立ててソファーに座った志季は、困ったように溜息をついた。それから、まだ立ったままの冬夜を見上げる。


「相手が誰だろうと、全力でコハクを取り返すよ」


 視線に気づいた冬夜がぐっと拳を握ると、志季も大きく頷いた。


「それには同意する。けど、征一郎さんの話だと、結局古鬼(こき)やその関係者の情報は掴めなかったらしいからな」


 相手がわからないのはちょっと辛いな、と志季がぼやくと、冬夜は所長の椅子に深く腰かけながら、しっかりと言い切った。


「でも目的は変わらないでしょ?」

「まあな」


 志季も再度同意して、しっかりと頷く。


「だったら、やることは一つだよ」

「気合が入ってるのはいいけど、いくら封印が解けたとはいっても、訓練なしでいきなりは使いこなせないだろ」


 覚醒したところで使いこなせなかったら意味ないしな、そう言って志季は冬夜を見やった。


「まあそうなんだろうね。正直、力を使った後とかどうなるのかは想像もつかないよ。さっきみたいに倒れるだけならまだいいけど、もしかしたら今度こそ死ぬかもしれないし」


 冬夜があえて苦笑してみせると、


「それは洒落(しゃれ)になんねーだろ」


 志季は呆れたように肩を(すく)める。


「じゃあどうしようか?」

「色んな可能性を考慮しとかないといけないよな。とりあえず、解放した力はなるべく使わない方向で行くか。いきなり暴走されても困るしな。いざという時の最終手段として温存しとけ」

「そうだね。制御できない可能性もあるし、もし暴走したら志季やコハクに迷惑が掛かるもんね」


 志季の提案に、冬夜が素直に首を縦に振った。


 封印を解くだけであれだけの目に遭っているのだ。訓練もなしに力を使ったら実際どうなるのかはまったく想像もつかない。


「そういうことだ。最初は相手の出方を見て、問題はそれからだな。話だけで済めばいいけど、あれだけ玖堂家に恨みを持ってるやつだ。そんな簡単にはいかないだろうな」

「やっぱり戦うことになるのかな……」


 できれば避けたいけど、冬夜はそう呟きながら掛け時計を見上げる。時計の針は夜の十時半を指していた。


 冬夜が顔を戻すと、それと入れ違うように志季も掛け時計を見る。


「そろそろ時間か」

「うん、コハクが待ってる」

「ああ、そうだな。結局大した作戦は立てられなかったけど」

「俺たちならきっと何とかなるよ。いや、してみせる」


 冬夜と志季は真剣な表情で目を合わせると、同時に頷いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ