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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第一章 『ヘタレ』と呼ばれる青年

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第5話 『当たり』か『ハズレ』か

 夕方、冬夜たち三人は協会からメールで指示された場所に向かっていた。


「川に引きずり込まれる、ねぇ」

「みんな足を掴まれて、そのまま川の方へと引っ張られるらしいよ」


 河川敷を歩きながら志季が首を捻ると、その隣を歩いていた冬夜が頷く。


「ボクも引きずり込まれるんですかね?」


 冬夜の左肩に乗った黒猫姿のコハクが、小さく身震いした。


 コハクがいつも冬夜の左肩に乗るのには、きちんとコハクなりの理由がある。いざという時に、右利きの冬夜が利き手を使いやすくするためらしい。


「だったらいっそ肩に乗らない方がよくね?」と志季が以前に言ったこともあるが、コハクは「ボクは少しでも冬夜さまの近くにいたいんです!」と言って聞かなかった。


 つまり冬夜にくっついていたいが、邪魔にはなりたくないので、その間を取って左肩にしたということのようである。


 冬夜としては、とても小さなコハクの重さは特に気にならないし、これまで邪魔になったこともないのでそのままにしている。


「コハクはあまり川に近づかないようにすればいいよ」

「はい、そうします」


 冬夜が言うと、コハクは素直に大きく頷いた。


「コハくんも人間になってればいいんじゃねーの」

「人間の姿でも大量の水はダメなんです!」

「ふーん、そんなもんかね。あ、この辺だな」


 愛刀である蒼月(そうげつ)を手にした志季が立ち止まると、冬夜もそれに(なら)うように足を止める。


「うん、ここでいいみたい」


 スマホで開いていた地図を閉じ、顔を上げた。


 三人揃ってぐるりと辺りを見回すが、事件のせいか人の姿は見当たらない。


 川面(かわも)は夕日を反射して、キラキラと輝いている。とてもここで事件が起こっているとは思えないような、美しい風景だった。


「人がいないのは好都合だな。まあ、夕方に出るってことは幻妖だとしてもそこまで強くないだろ。コハくんは降りて離れてろ」


 志季が方向転換して、今度は川の方へと歩を進める。コハクは言われた通りに冬夜の肩から降りると、その場に留まった。


 ほんのわずかに肩が軽くなった冬夜も、志季を追うようにして後に続く。


 幻妖は朝に出ることはほぼないと言っていい。

 基本的には夕方以降に出現することが多く、その後は日が沈んだ夜、深夜、と出現する時間が遅くなるにつれてだんだんと狂暴な個体になっていくのが大まかな特徴だ。


 また、姿を現している時間は個体によって違う。数分だけのものから何時間もずっと現れているものなど、様々だ。


 今回の場合は夕方になってから事件が起こっているので、夕方に出る幻妖が原因の可能性がある。


 もしそうであれば、おそらく昨日退魔した個体と同じくらいの強さだろうから、自分たちで十分対応できるはずだ、と冬夜たちは考えていた。


「深夜のやつだと強すぎて、俺たちじゃきっと無理だよねぇ」


 その分報酬はいいんだけど、と志季の隣に並んだ冬夜が苦笑いを浮かべる。


 深夜に出る幻妖に対抗できるのは、今のところ協会の幹部クラスの人間くらいだろう。


「さすがにオレも対応できるのは、せいぜい夜の早めの時間に出るやつくらいまでだな」


 そんなことを話しながら川沿いを二人で歩く。


「でも調査っていっても、こうやって川の近くを見て歩くくらいしかできないよね」

「まあな。後は川を覗いてみるとかか?」

「あ、なるほど」


 それだ、と言わんばかりに冬夜が手を叩いた。すぐさま、もっと川の近くに行こうと走り出す。


「ちょっと待て!」


 後ろの方から焦ったような志季の声が聞こえてきたが、冬夜はそれに構うことなく、川の(そば)でしゃがみ込んだ。


 その直後である。


 冬夜の足首が何かにしっかりと掴まれた。


「うわぁぁああ!」


 当然というべきか、大きな悲鳴が上がる。


「冬夜さま!」

「コハくんはそこにいろ!」


 遠くから様子を見ていたコハクがその声に慌てて駆け寄ろうとするが、志季に厳しい声で制止させられた。


 そんなやり取りをしているうちにも、冬夜の身体はどんどん川へと引き寄せられていく。

 まだ川には入っていないが、このまま引きずり込まれるのも時間の問題だろう。


「冬夜! 手出せ!」

「志季っ!」


 すぐに駆けつけた志季が、冬夜に向けて手を差し出した。冬夜もそれを取ろうと懸命に腕を伸ばす。


 互いの手首を掴んだ次の瞬間、これまで強く引っ張られていた冬夜の足首がふっと軽くなった。


「助かったぁ……」


 どうにか無事だった冬夜が草の上に座り込み、安堵の長い息を吐く。その時、上から影が覆いかぶさるように落ちてきた。


 反射的に視線を上げると、そこには腰に手を当てながら、引きつった笑みを浮かべる志季の姿がある。


「オレはちゃんと止めたよな? なあ、所長さんよぉ?」

「……はい」


 思わず正座をしてしまった冬夜に向けて、志季はまだ何かを言おうとした。しかし、冬夜の肩越しに川の方へと目をやった途端、ぴたりとその動きを止める。


「あー、今回はハズレかよ……」


 志季は心底残念そうにそれだけを呟くと、冬夜の目の前でがっくりと肩を落としたのだった。



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