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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第六章 崩れる日常

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第49話 封印の洞窟・2

「……」


 冬夜はただ黙って、文字盤から溢れた光が塊になっていく様子を眺めることしかできないでいた。


 しばらくして、腕時計の上には大きな光の玉が出来上がる。

 祭壇と同じくらいのサイズ、直径一メートルほどのそれは、先ほどまでよりは眩しくなくなっていた。


 この頃には、さすがの冬夜もいつもの冷静さを取り戻す。これから何が起きてもいいように、と身構えた時だ。

 ほぼ冬夜の目線と同じくらいの高さにある光の玉が、凛とした声で改めて話し掛けてくる。


「ここに来て黒水晶を置いたということは、封印を解きに来たのか?」

「黒水晶……、ああ文字盤のことか。そうだけど、本当に封印なんて解けるの?」

「当たり前だ」


 頷くような声に、冬夜は一安心して息を吐いた。

 それから気になっていたことを訊く。


「俺の力が大きくて封印されたって聞いたけど、それって本当なの?」

「ああ、本当だ。生まれたばかりの赤子には大きすぎて、いつ暴走するかもわからない危険な力だ。ひとたび暴走すれば、お前が死んでしまう可能性があった。また、大きな力は悪用されかねない。それらを危惧(きぐ)したお前の両親がここで封印したのだ」

「じゃあ、大人になった今なら問題ないよね。ちょっと急いでるから早速封印を解いて欲しいんだけど、俺はどうしたらいい?」


 冬夜がまっすぐに光の玉を見つめると、光の玉は少し考えるように間を置いてから静かに答える。


「大きすぎる力は時に身を滅ぼすぞ。それでもいいのか?」


 そう問う声は、冬夜を萎縮(いしゅく)させてしまいそうになるくらい(おごそ)かなものだった。

 しかし、それに負けまいと冬夜は懸命に声を絞り出す。


「それでも、大事なものを助けられるなら構わないよ」

「そうか。ならば、等価交換(とうかこうかん)だ。お前は力を得る代償に、何を差し出す? 金か? それとも命か?」

「お金はないから、命をすべて……と言いたいけど、今はまだ死ねない」


 さらに問われた冬夜が正直に答えると、


「ほう、死ねない理由があるのか」


 光の玉はチカチカと瞬きながら、興味深そうな口調でそう言った。


「さっきも話したけど、大事なものを助けて守りたいんだ。だから今はまだ死んでなんていられないんだよね」

「ふむ。それでは、助けた後ならば命を差し出す覚悟はあるということか?」

「助けた後ならいいよ、って言いたいところだけど、この話ちょっとおかしいよね?」


 冬夜が笑顔でそう答えながらも、最後に指摘する。

 すると、光の玉はわずかに黙ってから、おもむろに口を開いた。


「……おかしい、とは?」

「だって、封印されてる力ってもともと俺のものだよね? それを等価交換で、って変じゃない?」


 俺のものはどう使おうと自由じゃない、と冬夜が強気にきっぱり告げると、光の玉は笑うように大きく震えた。


「ふっ、面白い。お前は力のために命すら差し出してくるかと思ったのだが、なかなかに冷静だったな。まさか引っかからないとは。それに真面目で面白そうだ。いいだろう。お前が言った通り、これはお前の力だ。好きに使うといい」

「ありがとう」


 楽しそうに言った光の玉に、冬夜は笑みを深める。


「ただし最初にも言ったが、大きすぎる力は身を滅ぼす。くれぐれもそれを間違った方向には使うなよ」

「もちろんわかってるよ」


 冬夜が真剣な表情で頷くと、もう話は終わったと言わんばかりに、光の玉は途端にその明るさを失っていった。大きさはそのままに、明るさや色が変わっていく。


 少しして冬夜の前にあったのは、真っ白な煙の塊のようなものだった。

 しかし、これまでと変わらない力の強さを感じる。むしろ先ほどまでよりも大きな気すらした。


「うわっ!」


 煙の塊が勢いよく冬夜の頭上に覆いかぶさってくる。そのまま足元の方へと徐々に下りて、全身が包まれた。


 冬夜が反射的に止めていた息を我慢できずに吸い込むと、煙も一緒になって肺に入ってくる。

 その途端、身体の中が熱くなった。


 身体の中に入り込んだ煙が、一瞬で発火したような錯覚に(おちい)る。

 あまりの苦しさに必死になって首や胸を()きむしったが、それで収まるようなものではなかった。


 呼吸をするたびに身体の中で何かが弾け、冬夜を内側から苦しめる。


「ぐ……っ!」


 容赦なくさらに増していく熱さに耐え切れず、冬夜はその場に膝をつき、うずくまるのが精一杯だった。



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