表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第六章 崩れる日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/53

第48話 封印の洞窟・1

 懐中電灯を手にした冬夜が、洞窟の中を進む。


 緩やかな下り勾配(こうばい)になっている洞窟の通路を、ただひたすらにまっすぐ行く。通路自体は大人が数人並んで歩けるほどの幅があった。


 また、ところどころに蛇行(だこう)している箇所はあったが、ここまではずっと一本道である。

 私有地にある洞窟だ、特に内部を複雑にする意味もなかったのだろう。


「ここかな……?」


 少し開けた場所に出た冬夜が、小さく呟いた。


 そこはこれまで歩いてきた通路の二倍ほどの幅があり、天井もこれまでよりはずっと高い。

 また、踏み込んだ瞬間、明らかにこれまでとは違う空気を感じたのだ。


 おそらくここが最奥(さいおう)だろう、と冬夜は思った。


 立ち止まって懐中電灯で辺りをぐるりと照らすと、奥の方に何かがあるように見える。


 壁に手をつけながら慎重に進んでいくと、やはり奥が突き当たりになっていた。

 そして、目的としていたものがそこにあったのである。


「これが祭壇……」


 冬夜の目の前には、横幅一メートルほどの古ぼけた祭壇らしきものが、ぽつんと一つだけ置かれていた。


 石でできたそれは上から白っぽい布がかけられていたが、年月が経つうちに汚れてしまったようで、白というよりも薄汚れた茶色に近い。


 何かを(まつ)っているわけでもなく、見ただけではただ布をかけられた石のテーブルといったところである。


 しかし、上には何も置かれていないが、祭壇やその周囲からは明らかに不思議な力を感じた。その正体まではわからないが、鋭く肌を刺すような強い力だ。

 もしここに志季がいたなら、同じように感じていただろう。


 これ以上奥に行くことはできないし、征一郎から聞いていた話とも一致する。


 きっとここで間違いない。そう確信した冬夜は、祭壇の前で腕時計を外す。

 音を立てないよう、静かにそれを祭壇の上に置いた。


「これでいいのかな」


 征一郎に教えられた手順通りに、冬夜が腕時計に自身の右手をかざし、力を送る。浄霊をする時と同じような感覚である。


 そのまま黙って力を送り続けていると、ほんの一瞬ではあるが、腕時計の文字盤が光ったように見えた。


「今、光った……よね?」


 力を送りながらじっと見つめていると、また光る。それからもう一度。

 ゆっくりと点滅し始めた文字盤に、どうしていいかわからないでいるうちにも、点滅は徐々に早くなっていく。


「え、ちょ、これどうしたらいいの!?」


 冬夜は思わず助けを求めるように周りを見るが、もちろん誰もいるはずがない。

 途端に心細くなって、「やっぱり志季についてきてもらえばよかった」などと思った時だった。


 文字盤がひときわ激しい光を放ったのである。


 反射的に目を閉じた冬夜だったが、少しして(まぶた)を持ち上げようとした時、何かに右手首を掴まれた。


「ひ……っ!」


 目を閉じたままで思わず叫び声を上げそうになったが、それをどうにか堪えて、反対の手で持っていた懐中電灯を握り直す。

 それから恐る恐る目を開けた。


 冬夜の双眸(そうぼう)に映ったのは、(まばゆ)い光を放つ文字盤と、そこから伸びた、真っ白な一本の木のつるのような物体だった。


 冬夜の手首を掴んでいたのは、この白い物体である。いや、正確には霧状の長い触手のようなものだ。


「そ、そうだ。こういう時こそ深呼吸しないと……!」


 いつも言われてきたことを思い出し、深呼吸を始める。

 手首を掴まれたままで、必死に深呼吸を繰り返していると、


「……まえ、……か」


 今度はどこからか声が聞こえてきた。若そうな男性の声だったが、ところどころが掠れていて何を言っているのかはよくわからない。


 咄嗟(とっさ)に声のした方へと顔を向けると、そこには自分が先ほど置いた腕時計があった。


 声が聞こえてきたのはこの腕時計の中からである。

 そう、腕時計の文字盤から霧状の触手だけでなく、声も出てきているのだ。


 今度もどうしていいかわからず、冬夜が硬直していると、今度ははっきりと声が聞こえてくる。


「……お前が、冬夜か?」

「……は、はい」


 一瞬息を呑んだ冬夜だったが、素直に返事をすると、小さく笑うような声が聞こえてきた。


「そうか、とうとう来たか」


 愉快そうに言ったかと思うと、文字盤からはまたも眩しい光が溢れてくる。


「今度は何!?」


 冬夜は懐中電灯を持っている左腕で顔を覆いながらも、懸命に目を凝らした。


 これまで手首を掴んでいた触手が離れて、文字盤から溢れた真っ白な光と同化していく。

 そうして光は塊になって、どんどん大きく膨らんでいったのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ