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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第六章 崩れる日常

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第45話 落ちていた袋と、嫌な予感

 冬夜がノートパソコンで通販サイトを眺めている。


 コンビニに行くコハクを笑顔で見送った冬夜は、少しの間テレビとにらめっこをしていた。

 先ほど通販番組で紹介されていたぬいぐるみをどうするかと悩んでいたのだが、結局買うことにして、パソコンを開いたのである。


 マウスを一回クリックして買い物を完了すると、一仕事終えたかのような清々しい表情で顔を上げた。

 しかし、その顔はすぐにどんよりと曇ってしまう。ここ数日考えるのを避けていたことを、つい思い出してしまったのだ。


「やっぱり俺はダメだなぁ……」


 ぽつりと呟いた冬夜は、次には嘆息して、征一郎の言葉を思い返した。


『封印を解いた途端に、大きな力が一気に冬夜の中に流れ込んでくるはずだ。それをきちんと受け入れられるなら問題はないが、上手く受け入れられなかった場合は器になった冬夜の身体が壊れてしまう可能性がある』


 さらに大きな溜息をもう一つ。


 できれば思い出したくはないが、嫌でもふとした時に思い出してしまう。

 

「ここ数日は何も起きてないけど、いつ何があるかわからないから、いつでも封印を解けるように覚悟はしないといけないよね……」


 いや俺がやらなきゃいけないわけじゃないんだけど無視はできないし、と言い訳めいたことをブツブツと(ひと)()ちて、パソコンを閉じる。

 その隣にぐったりした様子で突っ伏すと、ぼんやりと数日前のことを振り返った。


「……でもどんなに頑張って考えても、力を受け入れられずに死ぬ未来しか見えない……」


 やっぱりヘタレだからかなぁ、とうつ伏せのままで自嘲(じちょう)した時である。


「あれ、冬夜一人? しかも寝てる?」


 頭上から志季の声が降ってきて、途端に現実に引き戻された冬夜の身体がびくりと跳ねた。

 どうやら考え事をしている間に事務所に入ってきていたらしい。


「……起きてるよ」


 冬夜がゆるゆると顔を上げながら低い声で答えると、志季は少し驚いたような表情をみせる。


「うお、何だよ。起きてるならちゃんと言えって」

「今言ったじゃない」

「聞こえなかったんだよ。で、コハくんは?」


 志季は目の上に手をかざし、きょろきょろと周囲を見回した。


「ん? 途中で会わなかった?」

「いや会ってないけど、外に行ってるのか? あ、そうだ。ちょっとこれ見てくれよ」

「んー、何?」


 ようやくしっかり起き上がった冬夜がぐっと伸びをすると、


「こんなのが道に落ちてたんだけどさ。ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てろって話だよな。まったく世も末だな……」


 志季は嘆くようにそう言って、手に持っていた白い袋を冬夜に見せる。


「ゴミってそれ? コンビニの袋かな」


 冬夜が言った通り、どうやらコンビニの袋のようだ。


 その答えに志季は一つ頷いた後、今度は呆れた様子で大きく嘆息する。


「そう。ここに来る途中、道に落ちてたんだよな。いや、まだ開けてないからゴミじゃないのか……? でももう溶けてるしな……」


 これはアウトか、などと呟きながら、志季は袋を自身の目の前にまで持ってきて、あれこれと悩み始める。


 見た目は不真面目そうなのに、実際は意外と真面目だ。そのギャップに冬夜がくすりと笑みを零す。

 そして、様々な角度で袋やその中身を見ていた志季に声を掛けた。


「溶けてるって、何の話?」

「ああ、袋ん中にこれが入っててさ」


 そう言って、志季がコンビニの袋から取り出したのは、アイスクリームのパッケージだった。まだ開けられていないものである。


 それを見た瞬間、嫌な予感が冬夜の心の中を支配した。


「そのアイスクリーム、期間限定だからってコハクが買いに行ったやつ……! 袋にいくつ入ってる!?」


 椅子が倒れるくらいの勢いで立ち上がった冬夜に、志季は不思議そうな顔をみせながらも、すぐに袋を覗き込む。


「えっと、三つだな」

「やっぱりそうだ! 俺、コハクに『三つ買ってきて』って頼んだんだよ!」


 手早く数え終えた志季の方へと、冬夜が身を乗り出した時だ。


 事務所の玄関の方から小さな物音がして、冬夜と志季は弾かれたように顔を上げる。そのまま揃って音のした方向に視線を向けた。


「コハくんが帰ってきたんじゃないのか?」


 志季の声に、冬夜は脇目(わきめ)もふらず玄関へと走っていく。


「コハク!」


 急いでドアを開けたが、そこには誰もいなかった。


「冬夜、コハくんがどうかしたのか?」


 まだ状況を把握しきれていない様子の志季が後ろからやってくる。


「コハクじゃ、ない……?」


 青ざめた顔で冬夜がうつむくと、その足元に何かが落ちていることに気がついた。

 志季も見つけたらしい。


「何か落ちてるな」

「……何だろう」


 冬夜がゆっくりしゃがみ込んで手にしたそれは、真っ白な封筒だった。



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