第41話 募る不安
冬夜の正面に座った征一郎が声を低める。
「まず確認しておくが、冬夜、お前は封印を解く覚悟はあるのか? 生まれてすぐに封印された力だ。今解いたところで、使いこなせないかもしれないぞ?」
「でも、封印を解かないと勝てないなら解くしかないよね」
訊かれた冬夜は間を置くことなく、前のめりになって答えた。
「それはそうだろうが、場合によっては封印を解いた瞬間に、最悪お前は死ぬかもしれないんだぞ」
「死ぬ、って……」
征一郎に告げられた言葉に、思わず冬夜が目を見開き、息を呑む。呆然と呟くだけで、それ以上の言葉は出てこなかった。
正直なところ、『死ぬ』などという最悪の場合までは考えていなかったのである。
封印を解く時に少し苦労するかもしれない。その程度に思っていた。
「それってどういうことですか?」
冬夜の代わりに志季が口を開くと、征一郎は改めてゆっくり言葉を紡ぐ。
「おそらくだが、封印を解いた途端に、大きな力が一気に冬夜の中に流れ込んでくるはずだ。それをきちんと受け入れられるなら問題はないが、上手く受け入れられなかった場合は器になった冬夜の身体が壊れてしまう可能性がある」
「確かに、これまで小さな力しか受け入れていなかった器がいきなり大きな力を受け取ろうとするなら、それくらいのリスクはありますよね」
冬夜の隣で、志季が納得するように大きく頷いた。
その様子をそっと見やった冬夜は、次に自身の膝の上に置いた手に視線を落とす。ぐっと拳を握って、もしもの時を考えた。
(封印を解いた瞬間に流れてくる大きな力……。生まれた頃、封印される前には問題なく受け入れていたはずなんだから絶対に無理とは言えない。けど、もし俺が小さな力に慣れ切っていてそれを受け入れられなかったら……?)
そんな一か八かの賭けのようなものに、自分は勝てるだろうか。
思考を巡らせた途端、心臓を叩く音が急に早くなる。だんだんと激しくなるそれに、冬夜はどうしていいかわからず戸惑った。
少しずつ、けれど確実に募っていく言い知れぬ不安に、今度は心が押しつぶされそうになる。
先ほど聞いた出生の話の時に生まれたものとはまた違う感情に、全身から血の気が引いていくのがわかった。
(俺は、本当に受け入れられる……?)
無意識に両手でシャツの胸元を掴んでしまった時、不意に征一郎と目が合う。
「そんな状態では、封印を解くどころの話ではないな。まあ本当に古鬼が関わっているのかはわからないから、今はまだいいだろう」
「でも……っ」
懸命に声を絞り出そうとする冬夜を、征一郎が手で制した。
「手紙もどこから来たのかわからない以上、こちらからは動きようがない。差出人も玖堂家に恨みを持つ者かもしれないという可能性があるだけで、ただのいたずらかもしれん」
「じゃあ、次に向こうが動くのを待つしかないってことですね?」
冬夜の様子を窺っていた志季が、征一郎の方へと顔を戻す。真剣な表情で簡単にまとめると、征一郎はしっかりと頷いた。
「そういうことになるな。とにかく、こちらでも少し調べてみるが期待はしない方がいい。それと、常に周りには気をつけておくように」
わかったな、と征一郎が三人にきつく言い聞かせるようにそう告げる。そのまま手を数回打ち鳴らし、この日の話は終わったのだった。




