第40話 『ヘタレ』と呼ばれる理由
しばしの休息の後、冬夜と志季は一緒になって部屋に戻る。
部屋のドアを開けると、征一郎とコハクがすでに戻ってきていた。
征一郎は入ってきた二人に、ちらりと視線を向ける。
そして冬夜の顔を見るなり、
「冬夜……はもう大丈夫そうだな」
そう言って、わずかに頬を緩ませた。
「うん、ちゃんと落ち着いたよ」
冬夜がしっかりと頷きながら、ソファーに腰を下ろす。続いて志季も隣に座った。
その様子を見届けた征一郎が、再度口を開く。
「それならいい。では、続きを話そう」
「続きって、封印の話はまだ詳しく聞いてなかったよね?」
途中で事務所の話になったもんね、と冬夜は首を傾げた。
「それをこれから話すんだ。この後は強い古鬼、またはその関係者がいることを前提にして話そう」
「はい」
征一郎の纏う雰囲気が厳かなものに変わると、冬夜たち三人は一斉に背筋を伸ばす。
「古鬼やその関係者に対抗するには、まだまだお前たちの力では足りないだろう。仮に戦ったとして、生きていられるかはわからん」
「……そんなに強いの?」
征一郎が厳しい言葉を放つと、冬夜は一瞬息を呑んで、膝の上に置いた拳を強く握った。
両隣に座っている志季とコハクも同様である。
「休憩中に少しだけ調べてみたが、どうやら玖堂家をほぼ総動員して古鬼の一族を退魔したようだ」
だが当然こちらにも犠牲者は出ていたらしい、と征一郎は溜息を漏らした。
「総動員って、古鬼の一族が多かったってこと?」
「いや。調べた限りだと、玖堂家より少なかったようだな。うちもそこまで多いとは言えないだろうが」
そう答えながら、征一郎が腕を組む。
「それなのにこっち側にも犠牲が出てるのか……」
冬夜が顎に手を当てながらわずかにうつむくと、今度は志季が口を開いた。
「そこで、冬夜の封印の話が出てくるんですね?」
「そういうことだ。封印を解けば勝機もあるかもしれんからな」
征一郎が素直に肯定して、首を縦に振る。
「この腕時計に力が封印されてるって言ってたけど、どういうこと?」
冬夜が皆に見せるかのように、腕時計のついた左腕を持ち上げた。
「さっきも少し話したが、その腕時計の文字盤に封印されているんだ。もっと正確に言えば、文字盤に使われている黒水晶だがな」
「黒水晶は、確か魔除けとかの効果があるんでしたっけ」
志季が思い返すように口にすると、征一郎はまたも大きく頷く。
「ああ、そうだ」
「さすが志季、詳しいね」
いつもラピスラズリのピアスを身に着けてるだけあるよね、と冬夜が目を細めた。
「別にたまたま知ってただけだけどな」
「それだってすごいよ。でも、『腕時計は絶対に手放さないように』ってうるさく言われてたけど、俺はただ道具がなくなったら困るからだと思ってたんだよね」
基本的に、退魔師はそれぞれ何らかの道具を持っている。
人によってそれは様々だが、例をあげると冬夜が腕時計で、志季はピアスといった感じだ。
ちなみに志季の場合は、ピアスを媒介にして蒼月に自身の力を送っている。そしてその力を乗せた蒼月で戦っているのだ。
他の退魔師については、道具に力を送ってそれを武器に変化させたり、道具で力を増幅させたりと、これも人によって使い方は変わってくる。
それらは大まかにではあるが、『変化型』や『増幅型』などといったタイプ分けがされている。
しかし、冬夜はどうやら力の流れ方がそもそも本人の思っていたものと違うらしい。
「どうして今まで力の流れに気づかなかったんだ、お前は。さっきも言ったが、文字盤から少しだけ漏れた力を使っているんだ。つまり、力がお前の方に流れているということになる」
征一郎が「やれやれ」と肩を竦め、呆れたように溜息をつく。
「い、いや、思い込みっていうかさ、ずっと『力を腕時計に送って、そこから力が少し増幅されて術が発動する』ってイメージだったから……」
必死に言い訳をする冬夜の言葉は、最後にはもごもごと消え入りそうになっていた。
「思い込みって怖いよな。まあ、オレは何となくおかしいとは思ってたけど」
志季は同意のようなものを見せながらも、あっさりと言ってのける。
「確かにそう思って疑いもしなければ気づかないものなのかもしれないが、お前はあまりにも鈍すぎる。今回のことがなければ、この先もずっとヘタレのままだっただろう。よく今まで無事でいられたな」
今回話すことができてある意味よかったのかもしれん、そう言って、征一郎はまたも大げさに嘆息した。
「……」
二人に言われてしまい、冬夜はただ押し黙ることしかできない。
コハクはそんな冬夜の顔を、隣で心配そうに見つめていた。
「だからお前はヘタレと呼ばれるんだ」
「あまりヘタレって連呼しないで欲しいんだけど……」
征一郎にはっきりと告げられた冬夜がうつむきながら、せめてもの反抗をする。
「とにかく、お前はこれ以上ヘタレと呼ばれたくなければ、後できちんと力の流れを確認しておけ。封印を解くにしても、それができないことにはどうにもならないからな」
「……わかりました」
しかし、またも征一郎に一蹴されてしまい、冬夜はうなだれるだけだ。
「では、話を戻そう。さっきは冬夜の封印を解けば勝機があるかもしれないと言ったが、絶対ではないからそこはしっかりと覚えておくように」
「はい」
征一郎の厳しい言葉に、冬夜たちは改めて気を引き締めたのだった。




