第36話 突きつけられる出生の秘密
「……まず冬夜、お前は私の息子ではない」
征一郎の厳かな口調。そこから発せられた衝撃的な言葉に、冬夜たち三人は一斉に息を呑んだ。
「父さん? 何言ってるの? 俺、ずっとこの家で過ごしてきたよ。コハクだって知ってるよね?」
大きく目を見開いた冬夜が、懸命に声を絞り出す。それは誰もがわかるほどに、はっきりと震えていた。
「……はい。ボクも冬夜さまとこの家でずっと一緒にいました」
冬夜に問われ、コハクは神妙な面持ちで頷く。
「お前がこの家に来たのは一歳になる前だったからな。記憶がないのは当然だ」
「じゃあ俺はどこから来たの……?」
冬夜の声はまだ震えている。
しかし、征一郎はそれに構うことなく続けた。
「もともと、お前は分家の人間だ」
「……分家ってことは、俺は洋司おじさんの子供ってこと?」
玖堂の分家は一家しか存在していない。長男である征一郎の家が本家で、次男の洋司の家が分家だ。
つまり自分はその家で生まれたのかと問えば、征一郎は首を横に振る。
「いや違う。洋司の子供ではない」
「だったら俺は何者なのさ!?」
否定され、途端に声を荒げる冬夜に、征一郎は目を閉じて続けた。
「分家はもともと二つあったんだ。私が長男で洋司が次男、そして三男の辰巳がいた」
「え、三人兄弟……? そんなこと初めて聞いたよ。それに『いた』ってどういうこと?」
予想外の情報に、今度はきょとんとした冬夜が小さく首を傾げる。
「そのままの意味だ。お前の父親は三男の辰巳だが、もうこの世にはいない」
「……辰巳って誰? 俺はそんな人知らないよ」
冬夜が呆然と、呟くようにそう口にする。
「誰もお前には言っていないからな。とにかく、お前は辰巳の子供なんだ」
「じゃあ、俺の母さんは?」
「お前の母親も辰巳と一緒に事故で亡くなっている」
さらに追い打ちをかけるような征一郎の言葉に、冬夜はしばし声を失った。
それからわずかに考えるような仕草をみせると、次には引きつった笑みを浮かべる。
「あ、そうか。これってドッキリとかでしょ? みんなで一緒になって俺を騙そうとしてるんだよね? 志季とコハクもそうなんでしょ?」
そう言って、冬夜は志季とコハクに顔を向ける。
きっと冗談だ。この後、自分以外の全員が大声で可笑しそうに笑い出すんだ。そう信じたくて、二人の答えに期待した。
しかし二人の真剣な表情と顔色を見て、すぐにそうではないことを悟るしかなくなった。
「これは嘘ではない。事実だ」
「そんなはずない! 俺は父さんと母さんの子供だ!」
冬夜がなりふり構わず喚き散らしながら、勢いよく立ち上がる。
心底不愉快そうな顔で征一郎たちに背を向けて、ドアの方へと一歩を踏み出したところで、コハクが慌ててその背中にしがみついた。
「冬夜さま! 最後まで聞いてみましょう!?」
「ああ、そうだな。コハくんの言う通りだ。全部聞いてから怒ればいい」
志季も淡々とした口調で、けれど真剣に冬夜を引き留める。
「コハク、志季……」
二人をちらりと振り返った冬夜は、渋々といった様子で「わかった」と小さく呟き、またソファーに腰を下ろした。
それを見やった征一郎が改めて口を開く。
「コハクも志季くんもすまないな。冬夜はまず深呼吸だ。それから続きを話そう」
「……うん」
征一郎に促され、冬夜は胸に手を当てると素直に深呼吸を始めた。
どんな時でも深呼吸が大事だと、小さな頃から征一郎からずっと教えられてきたことを思い出す。
術を使う時だけでなく、こういった自分を見失いそうになるような場面でも重要なのだと、そう教わってきた。
それは間違いなく『父』からの教えだった。
(……そうだ、今こそ落ち着かないといけない時なんだ)
数回繰り返したところで、隣に座っている志季が心配そうに冬夜の顔を覗き込んでくる。
「少しは落ち着いたか?」
「さっきは取り乱してごめん。ほんの少しだけど落ち着いたと思う」
「それならいいけどな」
わざとらしく苦笑を漏らす志季に、冬夜は黙って頷いた。
「では、次の話だ」
征一郎がそう切り出すと、冬夜たちは改めて座り直す。
冬夜はもう一度大きく深呼吸をして、自身を懸命に落ち着かせた。
きっとまたとんでもない内容が飛び出してくるのだろうが、話だけはきちんと聞く、と覚悟を決めて。




