第34話 運ばれてきた手紙
窓を開けて外を見ると、手元の窓枠のところに鳩が一羽止まっていた。
「鳩……だよね?」
「鳩以外の生き物には見えねーな」
冬夜と志季がそんなことを話していると、コハクが何かに気づいたらしく「あっ」と声を上げる。
「足に何かついてませんか? 伝書鳩ってやつですかね」
言いながら鳩の足を指差すコハクに、冬夜と志季も一緒になって目を落とした。
確かに、足に小さな筒のようなものがついている。
「ああ、これは通信筒ってやつじゃないかな」
初めて見るけど、と冬夜が答えると、志季は興味深そうに鳩とその足についた筒を眺めた。
「へえ、オレも名前は聞いたことあるけどこれがそうか。てことは中に何か入ってるのか?」
「あ、そうかもしれないね。じゃあこれを届けにきたのかな? よし、ちょっとおとなしくしててね」
すぐさま冬夜が鳩に手を伸ばすが、鳩は冬夜の言葉がわかっているのか、ただその場でじっとしている。
足についていた筒から中身を取り出すと、鳩は役目を終えたらしく、そのまま黙って帰っていった。
冬夜の手元には、小さな紙の塊が一つ残る。
「やっぱり入ってたのか。紙ってことは手紙か?」
冬夜の手の中にあるものを見て、志季が首を傾げる。
「昔は協会からの依頼に伝書鳩を使ってたこともあるんでしたっけ?」
「さすがに今は電話もメールもあるから使ってないと思うけどね。でも何で伝書鳩がうちに来たのかな……」
志季と同じように首を捻るコハクに、冬夜は「何かの間違いかなぁ」などと言って、小さく畳まれている紙を広げた。
どうやら志季の言った通り、手紙のようだ。
「ここに来たんだから、きっとうちの事務所宛てだろ。読んでもいいんじゃねーの」
「そうだよね。もしかしたら会長がお遊びでやったのかもしれないもんね。あの人ならやりかねないし」
志季に背中を押されるような形で、冬夜は笑みを浮かべながら手紙に視線を落とす。志季とコハクも一緒になって覗き込んだ。
そして三人で読み始めたのだが、ざっと見たその内容に全員が揃って瞠目したのである。
※※※
小さな便せん一枚分の大きさに広がった真っ白な紙には、パソコンで書かれた文字が規則正しく並んでいる。
宛名は『玖堂心霊調査事務所』だったが、差出人の名前はなかった。
パソコンの文字だったため筆跡が一切なく、目の前にある文字だけでは差出人がわからない。
「え、ちょ、待って待って。何これ、何か怖い言葉ばっかり書いてあるんだけど」
「恨むとか、殺すとかそんなんばっかだな」
慌てふためく冬夜とは対照的に、志季は手紙を見つめながら冷静に返す。
「これって、うち宛てなのは間違ってないけど……」
「内容が不穏すぎるな。それにうち宛てってか、どっちかといえば冬夜宛てに近くないか?」
「いや、俺よりも俺の実家でしょ」
志季が腕を組んで溜息をつくと、冬夜は怪訝そうに眉を寄せた。
志季の言う通り、ざっくり読んだ感じでは、事務所というよりは冬夜に宛てたもののようだった。いや、もっと正確に言えば、玖堂家に宛てられたものと思われる。
しかし、その内容は正直気分のいいものではなかった。
簡単に言ってしまえば、玖堂家に対しての恨みつらみなどが小さな文字で長々と書かれているのである。
「玖堂家、一体どんだけヘイト溜めてんだよ」
志季が呆れたように言うと、冬夜は顎に手を添えて、首を捻った。
「うちってそんなに恨まれるようなことしてたかな……? ただの退魔師一家だと思うんだけど」
「知らないうちに何かしてたんじゃねーの?」
「俺は何も知らないよ。コハクも知らないよね?」
冬夜が首を大きく左右に振って、次にはコハクに顔を向けた。
コハクはもともと冬夜と一緒に、冬夜の実家に住んでいた。なので、何かあればコハクだって知っているはずだと思って聞いたのだが、
「はい、ボクも知らないです」
コハクも冬夜と同様にそう言って頷く。
「まあ、幻妖を退魔したりしてる時点で普通の家とは違うしな」
オレんちもそうだけど、と志季が腕を組んだままで天井を見上げる。
そこで冬夜が、自身の手に持った手紙のある部分を指差した。『古鬼』と書かれているところだ。この部分以外にも何度も同じ単語が繰り返し出てくる。
「でも、これってなんだろうね。『ふるおに』って読むのかな? それとも『こき』? とにかく読み方すらわかんない言葉が書かれてても困るし。志季、これ読める?」
「オレに聞かれてもなぁ……。だいたい、玖堂家に宛てたものっぽいんだから実家に行って聞けば何かわかるんじゃねーの?」
「まあ、そうだよねぇ」
志季の言葉に、冬夜が苦笑を漏らした。
そのまま、「そういえばしばらく実家に帰ってないなぁ」などと考えていると、志季が不愉快そうに顔をしかめる。
「けどさ、『鬼』って言葉は気に入らねーな」
「もしかして、一昨日の幽霊の子が話してた『鬼』と何か関係あるんじゃ……」
「あ、何か嫌な予感してきたわ……。この予感は外れて欲しいやつだな」
「もし志季さんの予感が当たったら、何だか怖い話になってきますよね……」
コハクが小さく震えると、冬夜はその頭を優しく撫でた。
「きっと大丈夫だよ。じゃあ明日、みんなで俺の家に行って話を聞いてみようか。それでいいよね?」
「オレはいいけど、協会には連絡しなくていいのか?」
「これは俺たち、というか玖堂家に来たものだからね。協会宛てじゃないし、やっぱり巻き込むわけにはいかないでしょ」
俺たちの問題だよ、そう言って冬夜は真剣な表情で手紙を畳み、テーブルに置いたのだった。




