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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第四章 連続殺人事件を追え

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第33話 お褒めの言葉

「……はい、玖堂(くどう)です」

『よう、ヘタレの玖堂! 出るのおっせーぞ!』


 冬夜がのろのろとスマホを耳に当てると、いきなり中年男性の大きな声が飛んできた。


 予想通りの第一声に、冬夜の肩ががっくりと下がる。そのまま膝から崩れ落ちるようにして、床に座り込んだ。


「佐藤会長、こんな時間に何ですか。これから夜食作るんですよ」

『ああ、さっき帰ってきたとこだっけか。それは悪いな』


 電話の向こうで佐藤が豪快に笑うと、冬夜は諦めたように小さく嘆息する。もちろん相手には聞こえないようにだ。


「まあ、いいですけど。でも、わざわざ電話してくるなんて珍しいですね。いつもはメールなのに」

『今回はちゃんと(ねぎら)ってやろうって電話してやったんだぞ。少しは喜んだらどうだ?』

「『今回は』って、いつも労ってくださいよ。……わかりました、後で喜んでおきますから。で、用件は何ですか?」


 さっきも言いましたけどこれから夜食作るんですよ、冬夜がそう返すと、佐藤の苦笑が漏れ聞こえてきた。


『いや、さすがに今回の事件はヘタレ退魔師には荷が重いかと思ってたんだが、よく頑張ったな』

「いつまでも『ヘタレヘタレ』ってそろそろいい加減にしてくださいよ。でも、今回はさすがに大変でした。志季とコハクがいてくれたおかげで何とかなりましたけど」

『ほら、やっぱり逢坂(おうさか)とコハクちゃんがいないとヘタレじゃねーか』


 今度は可笑(おか)しそうな笑い声が冬夜の耳に届く。


「それはそうかもしれないですけど」


 冗談だということはわかっているが、こうも毎回からかわれていると、さすがに普段温厚な冬夜でもむっとしてしまう。


 だいたい、会長である佐藤が毎回このような調子なのだから、周りも同じように接してくるのだ。

 会長が一人前だと認めてくれない限りは、ずっと周りからもヘタレ扱いをされるのだろう。


『まあそれは置いといて、今回の報酬は期待しとけよ。さっきも言ったが、よく頑張った』


 佐藤の声が一転して優しい響きに変わり、それだけを告げると、ぷつりと電話が切れる。

 おとなしくなったスマホを両手で持ったまま、冬夜は少しの間ただ黙って座っていた。


「……あの人はこんな時間に一体何を言いたかったんだ。一応褒めてはくれたけど」

「ただ単に褒めたかっただけだろうさ。素直にお褒めの言葉として受け取っとけばいいんじゃね?」

「……そうするよ」


 志季の言葉に、冬夜は大きな溜息を一つ吐き出す。それから気を取り直して立ち上がると、志季とコハクの方に顔を向けた。


 改めて静かに口を開く。


「それにしても、やっぱりこないだの事件辺りからちょっとおかしいよね」

「こないだって、神隠しの時か?」

「そう。あの時、幻妖が『もっと大きな事件が起こる』って言ってたじゃない?」

「ああ、言ってたな。そういや、あれも協会には報告してなかったよな」


 志季が思い出したように、手をぽんと叩いた。


「うん。報告しなかったせいかはわかんないけど、今回は実際にもっと大きな事件だったから、やっぱりそれと関係あるのかなーって思って」

「つまり、神隠しと連続殺人事件には繋がりがあったって言いたいのか?」


 首を傾げる志季に、冬夜はしっかりと頷いてみせる。


「そう考えるのが妥当なのかなって」


 そこで、これまで静かにやり取りを見守っていたコハクも話に入ってきた。


「そういえば、一昨日来た女の子の幽霊さんの話も気になりますよね」

「幻妖と話してた男性ってやつだよね。あれもまだ調査中だったもんね」

「全部オレらの近くで起きてるってのが怪しすぎるんだよな」


 確かに繋がってるのかもしれねーな、と腕を組みながら唸る志季に、冬夜が視線を向ける。


「だよね。まあ無関係の可能性も十分にあるけど、男性については明日からまた調べてみようか」

「無関係だといいんだけどな」


 そう言って志季が疲れたように大きく息を吐いた時、窓に何かが当たるような音がした。



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