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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第四章 連続殺人事件を追え

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第32話 帰ってきた三人と鳴る電話

「……計画って何だろう」

「あいつ、これまたずいぶんと不穏な台詞を残していったな……」

「何だか嫌な予感がします……」


 冬夜にも使える初歩的な治癒術で志季の怪我を治した後のことだ。三人は家の近くに停めていた車に戻ってそんなことを話す。


「結局、今回の事件は俺たちをおびきよせるためのものだったってことだよね」


 運転席の冬夜がうつむきながら、(ひと)()ちるように言うと、その隣で志季は苛立たしげに大きな溜息をついた。


「計画がどうのとか、誰かもわからないやつが裏で勝手に動いてるってことだろ? すっげー気分悪いわ」

「俺たち、そんな命狙われるようなことしてたっけ?」

「いや、普通に下っ端の退魔師としてやってるだけだろ。退魔師を狙うんだったら、真っ先に協会のおっさんたちを標的にした方が手っ取り早いと思うんだけどな。あっちの方が偉いし」


 悔しいけど強いんだからさ、と志季がまたも嘆息しながら、窓の外を見やる。


「そうですよね」


 志季の言葉に、後ろの座席に座っているコハクも真面目な表情で頷いた。


 しばしの沈黙が車内に流れる。


 少しして、それを破ったのは冬夜だった。


「……今気にしてもどうにもならないよね。まずは事務所に帰って、今回の事件について報告しないと」

「ああ、そうだった。事件の方すっかり忘れてたわ」

「確かに俺も忘れそうだったけど、忘れちゃダメだよ」


 これまでとは打って変わった様子で、志季が平然と答えると、冬夜は思わず苦笑を漏らす。

 志季はそんな冬夜に構うことなく、助手席のシートにもたれると、頭の後ろで両手を組んだ。


「けど、最後にあんな言葉残されたらなぁ。コハくんだって事件のこと忘れてたろ?」

「ボクは忘れてませんでしたけど、忘れそうになるくらいのインパクトはありましたよね」


 コハクがちらりと窓の外、先ほどまで幻妖がいた場所に目をやる。


「そうだよねぇ。計画ってやつについては、場合によっては協会に報告しないと」

「でも、下手に協会に報告したら、おっさんたちも巻き込むことにならないか?」


 冬夜が小さく嘆息すると、志季はすぐさまそう答えた。


「あ、そっか。じゃあ報告しない方がいいのかもしれないね」


 どうしようかな、と冬夜が困ったように宙を睨む。


「とりあえず数日、様子を見るってのはどうだ? その間に報告するかどうかを決めるってことで。今すぐ決めなくてもいいんじゃね?」

「そうだね。あまり他の事務所とか巻き込みたくないし、そうしようか」


 所長である冬夜が素直に頷いて、この場での話し合いは終了したのだった。



  ※※※



 またも冬夜の運転する恐怖の車に揺られ、三人が事務所に無事帰ってきたのは夜の十時を過ぎてからだった。


「……やっと帰ってこられたな、コハくん」

「帰りも大変でしたもんね……」

「生きててよかったな……」

「……はい」

「オレ、なるべく早めに免許取るわ……」


 志季とコハクがぐったりした様子で、まっすぐ事務所を通り抜けて冬夜の自宅へと向かう。リビングに辿り着くと、一緒になってソファーに倒れ込んだ。


 そんな二人の後ろからやってきた冬夜が、両手を腰に当てて頬を膨らませる。


「志季もコハクも俺に対してすごい失礼じゃない?」

「そんなことねーよ。むしろあの運転に耐えたオレたちを(たた)えてほしいね。コハくんもそう思うだろ」

「……はい、今回だけは志季さんと同じ意見です……」


 志季とコハクはそう言って、ソファーの上に置いてあるクッションにそれぞれ顔を(うず)めた。


 珍しく意見が一致した二人を交互に見やった冬夜が、諦めたように小さく息を漏らす。


「次はもっと練習してから運転するよ」

「もう乗らねーからな!」


 反射的に勢いよく顔を上げた志季を無視して、冬夜はフローリングの床に座り込んだ。

 持っていたショルダーバッグからスマホを手早く取り出すと、


「二人ともホントに酷いよね。このことも協会に報告しようかな」


 一人でブツブツ言いながら、協会宛ての報告メールを打ち始める。


「そんなの報告したって、協会のおっさんたちも絶対にオレとコハくんの味方になるからな。で、アンタは車の運転もヘタレだって言われるぞ」

「そ、そんなことは……」


 志季の口から放たれた、まるで脅すかのような言葉に、冬夜のメールを打つ手が止まった。

 冬夜も自分の運転が危ういことはわかっているのだ。ただ、それを認めたくないだけで。


 またクッションに顔を埋めた志季が、力なく片手を上げてひらひらと振る。


「ま、それはいいから、早くメール送っとけ」

「うん、そうする」


 完全に脱力している志季に言われ、冬夜はメールを打つ作業に戻った。


 少ししてメールを打ち終えた冬夜がスマホをテーブルに置いて、「さて」と立ち上がる。


 ようやく元気を取り戻してきたらしい志季とコハクがそれを見上げると、


「かなり遅くなっちゃったけど、これから夜食でも作ろうか。二人とも食べられる?」


 冬夜はそんな二人に笑顔を向けた。


「ん、食う」

「ボクも食べます」


 素直に答えた志季とコハクが、もぞもぞとソファーから起き上がった時である。

 テーブルに置いたスマホが大きな音で鳴った。


「え、こんな時間に何!?」


 冬夜の両肩がびくりと跳ねて、思わず声が上がる。


 すでに深夜にも近い時間帯だ。まさかこんな時間に鳴るとは思っていなかっただけに、驚きも普段の倍以上である。


 しかも、これはいつもの協会からのメールを知らせる着信音ではないのだからなおさらだ。

 だが、とても聞き覚えはある。


 冬夜は慌てた様子でスマホを手に取ったが、


「やっぱり……」


 画面の表示を見て、うんざりしたような表情を浮かべる。


「この着信音、協会からの電話じゃないか?」

「……俺、出たくないんだけど。またヘタレって言われる……」


 志季が口にすると、冬夜は「代わりに出て」と(すが)るような瞳で志季を見つめた。


「これも所長の仕事だろ」


 しかし即座に首を横に振られ、渋々通話ボタンを押すことにしたのである。



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