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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第四章 連続殺人事件を追え

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第24話 現場に向かう車中

 退魔師協会から来た依頼は、連続殺人事件についての調査である。


 これまでは比較的簡単な依頼が多かったので、今回の事件は冬夜たちにとってかなり物騒なものだ。


 しかし、さすがに殺人事件を放っておくわけにもいかないと、冬夜たちはその依頼を引き受けることにした。


 場所は事務所から少し離れている、山の近くの町である。


 依頼を受けた翌日はちょうど志季の大学の講義が昼に終わる日だったので、午後から冬夜、志季、コハクの三人で調査に向かうことにした。


「おい、大丈夫か……?」

「だ、大丈夫! 大丈夫だって!」


 車の助手席に座った志季が心配そうに運転席の冬夜を見やると、冬夜は真剣な表情で前方を凝視したまま「大丈夫」を連呼する。


 その身体はガチガチに固まっていて、ハンドルを操作する動きも明らかにぎこちない。

 どこをどう見ても「大丈夫」ではないだろう。


「ちゃんとサイドミラーとルームミラーも確認しろよ」

「もちろん大丈夫! 大丈夫だから!」

「これ、絶対大丈夫じゃないやつだろ……」


 ひたすら「大丈夫」しか返してこない冬夜に、志季がさらに不安を募らせていると、後ろの座席にいる人間姿のコハクが首を傾げた。


「冬夜さま、どうして今回はレンタカーなんですか?」

「コハくん、今の冬夜に聞くな」

「あ、はい。わかりました」


 すぐさま志季に止められ、コハクは素直に頷く。今の状態の冬夜には話し掛けても無駄なことを理解したのだろう。


 その様子を確認した志季は視線を前に向けたまま、人差し指を立てる。


「いいか、コハくん。今回の事件は五件も連続で起きてる。それはわかってるな」

「はい、昨日冬夜さまからちゃんと聞きました」


 そう、今回の事件はこれまでに五件の殺人事件が立て続けに起きていた。

 今は車でその調査に向かっているところである。


 最初は前回の神隠しの時と同じように電車とタクシーを使うことも考えていたが、事件現場がすべて同じ場所というわけではないため、それでは効率が悪いと冬夜は判断した。


 志季はさらに続ける。


「つまり、いくつもある現場を回るのには、車を使うのが一番楽で手っ取り早いってことだ」

「なるほどです。それでレンタカーなんですね」


 コハクが納得したように手を叩いた次の瞬間、車が大きく揺れた。思わず三人の身体が前方に投げ出されそうになる。冬夜が急ブレーキを踏んだのだ。


「……あっぶねー」

「何だか遊園地みたいな気分になりますね……。すごく怖くてドキドキします」

「ああ、ジェットコースターとかな。すっげーわかるわ」


 志季は同意しながら、後ろのコハクにちらりと視線をやる。両手を胸に当てるコハクの姿に苦笑を浮かべると、志季自身も額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。


 それから、相変わらず必死の形相(ぎょうそう)で運転をしている冬夜の方を見て、溜息をつく。


「おい、冬夜。ちゃんと運転しないと、現場に着く前にオレらの命の方が危ないぞ」

「大丈夫、大丈夫……。うん、大丈夫……」


 一応注意してみる志季だが、やはり冬夜は呪文のように同じ言葉を繰り返しているだけだ。志季の言葉を聞いているのかも怪しい。


「冬夜さま、本当に大丈夫ですかね……?」


 コハクも後ろの座席から、不安そうに冬夜の姿を見つめる。しかし、言うまでもなく冬夜がそれに気づくことはない。


 今回はさすがに協会からレンタカーの費用くらいは出るだろう、そう思ってレンタカーを借りてきたまではよかった。


 けれど、その後が問題だったのだ。


 唯一の免許保持者である冬夜が運転することになったのは当然の流れだが、それが先ほどの様子である。


 冬夜本人がペーパードライバーを自慢するだけあって、なかなかスリリングな旅になっていた。


「こんなんでよく免許取れたな……」


 一体どれだけペーパードライバーやってたんだよ、と志季が呆れていると、コハクが思い出したように明るい声を上げる。


「あ、こないだのタクシーの運転手さんはすごく運転が上手だったんですね!」

「いや、あれが普通なんだって。冬夜が下手くそすぎるだけで」

「えー、そうなんですか?」


 志季の答えに、コハクは少々不満そうな声を漏らす。どうやら、冬夜の運転が下手だとは認めたくないらしい。


「オレら、無事に帰って来れるのかねぇ……」


 上下左右に不自然な動きをする車内で、志季はぽつりと呟くと、小さく嘆息したのだった。



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