第23話 新たな事件の依頼
食事中であるにもかかわらず、三人は揃って、今来たばかりのメールを覗き込む。
「え、殺人事件!?」
自身のスマホに届いたそれを最初に読み始めた冬夜が、思わず大きな声を上げた。
今はあまり聞きたくない話題だが、仕事の話であれば仕方がない。
冬夜に続いた志季は、少し前のめりになるようにして、さらに先の文面を読んでいく。
「しかも連続殺人事件って書いてるな」
「殺人事件、ですか? そんな依頼が来るのって初めてですよね」
何だか怖いです、とコハクが小さく身震いした。
「うん、そうだね。うちに依頼が来るってことはわりと近くなんだろうけど、ニュースになってないところを見ると、まだ水面下で警察が捜査してるのかな」
「で、犯人が見つかってないうえに、幻妖の可能性があるってとこか?」
「まあそんな感じなんだろうね。あ、今回はちゃんと警察からの依頼って書いてある」
訝しむように目を眇めた志季に、冬夜が頷く。
先日の神隠し事件では簡単に名乗っただけで、警察からは特に事情聴取も何もなかった。疑われることすらなかったのである。
退魔師協会と警察に繋がりがあるという噂は本当らしい、とは思っていたが、今まさに確信することになった。
おそらく、警察が捜査して『これは人間の犯行ではないかもしれない』と判断されたものが、こうして退魔師協会に依頼されてくるのだ。
これまで自分たちが警察と関わるような事件を担当したことがなかっただけで、本来はそういった事件も多いのだろう。
(協会と警察の間にも、俺が知らないだけできっと色々あるんだろうなぁ)
冬夜がそんなことを考えていると、志季はまだスマホの画面を睨んだままで「けどさ」と、小さく呟いた。
「どうしたの?」
不思議そうに首を傾げる冬夜の顔を見上げた志季が、さらに続ける。
「ここ最近依頼が多くねーか? まさか、昨日来た幽霊が言ってたやつが関係してるとかじゃないだろうな」
「だとすれば、幻妖と話してた男性が一番怪しいけど……」
視線を向けられた冬夜は少し困ったような表情で、腕を組んだ。
「まあ、偶然って気もするけどな。こんなタイミングで話が繋がるとも思えねーし」
「そうですよね」
志季の言葉に、コハクも首を縦に振る。
「だよねぇ。運っていうのもちょっとアレだけど、今までがハズレばっかりだったからやっとそれなりの依頼が来たのかもしれないし」
「それな。これまでがハズレすぎなんだよ」
「ホントは俺たちのような職業は世間的にはない方がいいんだけど、人間の思念から生まれる幻妖は残念ながら一掃できるものじゃないもんねぇ。原因になる人間をすべて滅ぼすわけにもいかないし」
こればかりは仕方ないよね、と冬夜は諦めたように溜息をついた。
そんな冬夜に、志季が問う。
「で、どうする? 引き受けるのか? 殺人事件なら今回はちょっと荷が重いかもしれねーぞ。ま、オレはどっちでもいいけど」
「それもそうなんだけど、ちょっとしたいたずらならまだしも、さすがに殺人事件は放っておけないから引き受けるよ。うちに来る依頼だから、そこまで大したものじゃないだろうし」
「ん、わかった」
冬夜がすぐに決断して志季が頷くと、今度はコハクが訊いてくる。
「じゃあ、昨日の幽霊さんの方はどうしますか?」
どうやらコハクとしては、幽霊の話も放っておけないらしい。
もちろん、冬夜もそれを無視するつもりはない。
ただ、優先順位をつけるならば、まだ実害の出ていない幽霊の話より、殺人事件の解決の方が先になるだろう。
「幽霊の話は一旦保留になっちゃうけど、協会からの依頼を解決してからまた改めて調査するよ」
不安そうな表情のコハクに、冬夜はあえて柔和な笑みを浮かべると、そう答えた。




