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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第三章 邂逅する者たち

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第20話 目撃者探し・1

 翌日の午後、冬夜たちは事務所の前に集まっていた。

 早速、近所の幽霊たちに聞き込みを始めることにしたのだ。


 内容はすでに決まっている。『最近幻妖と話している男性を見かけなかったか』、これである。


 この周辺にいる幽霊のほとんどは特に悪さをしない、除霊対象にならない者たちだ。かと言って成仏――浄霊を望んでいるわけでもないので、冬夜と志季は何もせずそのままにしていた。


 もちろん、幽霊本人が成仏したいと望むのであれば、いつでも浄霊しようとは思っている。


 まずはそんな幽霊たちに話を聞いてみることにしたのだ。


「志季、聞き込みの方よろしくね。夕方、またここに集合ってことで」

「りょーかい」


 冬夜の指示に素直に頷いた志季が、すぐさま背を向けて駆けていく。


 少しずつ遠ざかっていくその姿を見送った冬夜は、今度は人間姿のコハクに声を掛けた。


「コハクは猫友達に怪しい男性のことと、最近変わったことがなかったか聞いてみて。あと、もし幽霊を見つけたら俺に連絡してくれる?」


 冬夜がコハクに連絡用のスマホを手渡すと、それをしっかり受け取ったコハクは、元気よく敬礼してみせる。


「わかりました! 任せてください!」

「うん、頼んだよ」


 志季とは違う方角に走っていったコハクを微笑ましく眺めながら、冬夜は一度大きく伸びをした。


「さて、じゃあ俺も行こうかな。まずは幽霊を見つけないと始まらないよねぇ」


 冬夜は誰に言うでもなくそう呟くと、志季やコハクとは別の方角へと向かうことにする。


 予定通り、幻妖と話している男性を見た幽霊がいないかを探すつもりだ。志季にも同じように頼んである。


 最初は普通の人間に聞き込みをすることも考えた。


 しかしそうなると、「最近この辺で(ひと)(ごと)を言っている怪しい男性を見ませんでしたか?」と、幻妖のことを伏せながら聞かなければならない。


 一般人は幻妖の存在など知らないのだから、当然だ。


 持ち歩いている名刺に『心霊調査事務所』と書いてあっても、怪しまれるのは目に見えている。怪しい人間を探すのに、自分たちが怪しまれてどうするのか。


 それに、人間はあちこちに移動する生き物なので、ピンポイントで目撃情報を探すのは難しい。


 もし目撃者がいたとしても、それがすでにこの辺りから去っている人間だった場合、今日の聞き込みでは話を聞くことができないのだ。


 けれど、この周辺を縄張りにしている幽霊相手であれば「最近、幻妖と話してる怪しい男の人を見た?」で済む。


 断然、幽霊に話を聞いた方が楽なのである。


 そのような理由で、まずは幽霊を探すことにしたのだが、


「この辺ってあんまり幽霊いないんだよねぇ」


 きょろきょろと見回した冬夜は、すぐ困ったように嘆息した。


 この辺りは幽霊、いや人間にとって治安がいいのかどうかはわからないが、どうにもその数は他の地域と比べるとそれほど多くはないらしい。


 きっとたまたまなのだろうが、幽霊を見つけるのは少々骨が折れるかもしれない。


 冬夜は何となく昆虫採集のような気分で歩き始めた。


「志季の方も大変かもしれないなぁ」


 ところどころで立ち止まり、周りを見回す。


 幽霊の方が昆虫よりもずっとサイズは大きいはずなのに、どうして探している時に限って見つけられないのか。


 いくら幽霊の数が少ないとはいえ、ここまでまったく出会わないのは運が悪すぎる。

 これはきっと昆虫採集の方が楽だ、などと思いながら、初夏の道をひたすら歩く。


 真夏ほどではないにしろ、日差しも強いし、道路からの照り返しもなかなか厳しいので歩くのは結構疲れる。

 それに加えて、探している者が見つからないのは精神的にも辛いものだ。


「疲れたぁ」


 一時間ほど歩いた冬夜が一旦休憩、とばかりに歩道の端でしゃがみ込む。

 手に持っている、冷たかったはずのお茶のペットボトルはとっくに(ぬる)くなっていた。

 それを開けて一口飲み込むと、乾いた喉と口腔内が少しだけ潤う。


 次には澄み渡った空を見上げて、大きく息を吐いた。


「暑い……けど、志季とコハクも頑張ってくれてるんだもんね」


 俺も頑張らないと、とまた冬夜が立ち上がろうとした時である。

 ズボンのポケットに入っているスマホが鳴った。


 突如鳴ったその音は、協会からのメールではなく、電話の着信音だ。


 冬夜はしゃがんだままですぐにスマホを取り出して、着信の相手を知らせている画面を確かめる。


 そこには、『コハク』とはっきり表示されていた。



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