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第8話 人体切断連続殺人事件Ⅳ

「セシル、お前の言うことは疑っちゃいないが人形の声だけじゃ、証拠にならねぇ。仮にあの院長が悪事を働いてたとしても、証拠がなきゃどうにもならんからな」

「それは分かってるよ。それに……あいつが今回の連続殺人の犯人だとも限らないしね」


戻ってきた車の中でティベリオは腕を組み、しばし黙り込む。


「……とりあえず今は第一、第二事被害者の遺族や関係者にもう一度当たってみるか」

「そうだね。それに、それぞれの現場も見てみたい」


「前の二件の現場は警察が散々調べたはずだぞ」

「僕なら、警察にも見つけられない痕跡が見つけられるかもしれないだろう?」


セシルの言葉にティベリオは小さく笑う。


「確かにな。頼りにしてるぜ相棒」

「任せてよ、相棒」


ティベリオは手帳と地図を取り出すと事件の現場を確認する。


「ここからだと、第一の現場が近いな。そこからいくか」

「うん、そうしよう」


次の目的地を定めた二人を乗せ、車は静かに発進した。







――そしてたどり着いたのは、最初の殺人現場。


最初の被害者は娼婦の女性――アニー。

警察が既に聴取していた内容によると、遺体が見つかったのは娼館の路地裏。

第一発見者は被害者の同僚だったヘレンという女性らしい。

訪れた現場は、昼間でも薄暗く石畳にはまだ血の名残が染みついているようにも見える。


「ここが最初の現場だ。あらかた調べ尽くしたから警官達は撤退させている。娼館の関係者に話を聞くなら話を通してくるがどうする?」

「お願いするよ。僕はもう少しここを見ているから、準備が出来たら呼んで」

「わかった」


娼館の中に入り、数分も待たないうちにティベリオはセシルを呼びに来た。

第一発見者であるヘレンから話を聞けることになったらしい。

セシルとティベリオは彼女の部屋に足を踏み入れた。


「……警察には、もう全部話したわよ?」


不機嫌そうに口を尖らせる彼女は、栗色の髪を肩の長さで切り揃えた可愛らしい顔立ちの女性だった。

しかし、その瞳には疲労が滲んでいる。


「何度も申し訳ありません。ですが犯人逮捕の為、ご協力お願いします」


ティベリオが真摯に告げると、ヘレンは渋々頷き警察に既に伝えた内容を語りだした。



最近、アニーには羽振りのいい客が付いていたこと。

事件の日、ヘレン自身は客と飲み歩き朝帰りしたこと。

裏口から入ろうとした時、倒れている人影を見たこと。

最初は酔っ払いかと思ったが、血だまりに気づき慌てて娼館の女将を呼んだこと。

それが同僚のアニーだったこと。



「肘から先がなかったなんて、後から警察に聞かされて本当に驚いたわ。あの時はアニーが死んでるってだけで頭が真っ白で」


ティベリオは腕を組み、小さく「なるほど」と呟く。

報告と同じだ。新しい情報はない。


その時セシルの耳に微かな声が届いた。



――ヘレン、拾った。



視線を動かすと、窓辺に古ぼけたウサギのぬいぐるみがあった。



――ヘレン、隠した。青い、キラキラしたもの。

――後悔してる。でも、言えない。ヘレン、捕まる、怖い。



「ねぇ、君。何か拾ったでしょ、青くてキラキラしたもの」


突然の問いに、ヘレンはビクッと肩を震わせ視線を泳がせる。


「し、知らないわっ、私は何も」


嘘が下手なのは一目でわかった。

ティベリオも口を開く。


「もし証拠品を隠したりしたら、罪に問われることになりますが?」


穏やかだが重みのある口調。

耐え切れなくなったヘレンは、観念したようにベッド脇の棚に歩み寄り小さな包みを取り出した。


「……ごめんなさい、つい魔がさしたの」


震える手でそれをティベリオに差し出す。

受け取った包みを開くと、中には銀細工にサファイアをあしらったカフスボタンが納められていた。


「……アニーを見つけた時に落ちてたの。すごく高そうで、売れば贅沢できると思ったのよ……」


ヘレンは顔を覆い、声を震わせた。


「……私、逮捕されちゃうのかしら?」


ティベリオはしばし彼女を見つめ、静かに息を吐いた。


「本来なら、証拠隠匿の罪に問われます。しかし――私達は貴女を逮捕しに来たわけじゃない。優先すべきは殺人犯の逮捕と、新たな被害者を防ぐことです」

「……じゃあ……」

「二度とこんな真似はしないと約束できるなら、今回は目をつぶりましょう」

「っ……ありがとう!!約束するわ、もうしないって!」


安堵の笑みを浮かべたヘレンを横目にセシルは小さくため息をついた。


甘い。


自分がいなければ、人形の声を聴けなければ、この証拠は決して表に出なかったかもしれない。

重大な証拠を盗んだヘレンには、本来ならばしかるべき罰が与えられるべきだ。

それでもティベリオは見逃す判断を下した。


セシルには理解しがたい――それが人間だけが持つ『温情』というやつなのだろう。


(そういえば、父さんもそうだった。大抵の事は笑って許してしまうんだ……やっぱり友人同士って似るものなのかな?)


今、隣に立つティベリオの背に行方知れずのラッジの面影を重ねながら、セシルはほんの少し感傷に浸った。

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