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第4話 ネックレス盗難事件Ⅲ

数時間後。

冤罪が晴れて解放されたセレネのもとを、ティベリオとセシルが訪れた。


牢から出たばかりの彼女は、誤認逮捕の謝罪を受けると同時に疑いが晴れたことに心底安堵しているようだった。


仕えていた家の令嬢が犯人だったと聞かされると複雑な顔を見せたが、すぐに『慰謝料が払われる』と聞き表情が一転した。


「冤罪着せられた時は『ないわー』って思いましたけど、慰謝料くれるなら許します。職場の仲間も、私が犯人なわけないって信じてくれてたし」


警察署を出たセレネは逞しいセリフと共に笑った。


「リバニー男爵家はかなり裕福と聞きますから期待して良いと思います。金銭で、今回受けた心の傷がいえるとは思いませんが、私共からも改めてお詫びを」


「いやいやいや!冤罪が晴れたなら充分ですって!あ、でも貰えるものは貰っときます!」


セレネはちゃっかりした性格のようだ。

しかしその明るさにティベリオは少し心が軽くなるのを感じた。


「……ところでセレネ嬢、少々伺いたいことがあるのですが」

「はい?」


こてりと首を傾げたセレネに、ティベリオは一枚の写真を差し出した。


「同僚達に特徴的な男性を見た、と話していたそうですが……それはこの人ですか?」


写真に写っていたのは三十代の男性。

短く整えられた茶髪、きりりとした目元。

穏やかで優し気な笑みを浮かべ、少し汚れた白衣を身に纏っている。


「あ、そうです!この人です!」


セレネの反応に、セシルがすかさず前のめりになる。


「いつ?どこで見たの?どこへ行ったかわかる?」


「えっと……一週間前くらいに、旦那様のお使いで隣街に行った時です。休憩で入ったカフェでたまたま……女性客が多い店だったんで、男性、しかも白衣姿なんてすごく目立ってて。だから覚えてます。ただ、どこへ行ったかまでは……」


「…………そう隣街。そんな近くに」

「ご協力感謝します、セレネ嬢。ちなみに、カフェの名前は?」

「はい。『小鳥の止まり木』っていうお店です」






「今から行こうすぐ行こう」

「待て待て待て待て!!」


セレネを見送ってすぐ、勢いよく隣街へ飛び出そうとするセシルをティベリオは慌てて押し留める。


「今から行ったって、まだいるとは限らんだろ!」

「まだいる可能性だってあるだろう!?」

「もし隣街にまだいるなら、とっくに屋敷に、戻ってるはずだ!車で三十分の距離だぞ!」


「…………そんなに近くにいたのに、どうして帰ってこないんだ」


肩を落とし俯いたセシルの頭を、ティベリオはわしゃわしゃと大きな手で撫で回した。

どうして帰ってこないのか、という疑問はティベリオも同じだ。


セシルとティベリオが探す男――名をラッジという。

生きた人形であるセシルを生み出した天才人形師であり、ティベリオとは幼馴染で親友でもある。


一年前、「ちょっと買い物に」と出かけたまま、忽然と姿を消した。

何か事件にでも巻き込まれたのかもしれないと心配したセシルの知らせを受けて都市中を捜索したが、痕跡は霧のように消えてしまう。


それ以来、少しの手がかりでも逃すまいと、セシルはティベリオの手を借り探偵を始めたのだった。


隣街で目撃されたとあれば、セシルが飛び出そうとするのも無理はない。

だが、拙速に動けばまた落胆するだけかもしれない――ティベリオはそれを恐れていた。


「まずは信頼できる部下を向かわせる。俺達が出向くのはその報告を待ってからだ」

「……テディの部下ってポンコツばっかりじゃない」

「まともなのもいる!!今回行かせるのはまともに仕事ができるやつだ!」

「そもそも警察官で仕事できないポンコツがいる方がおかしいんじゃない?」


「……それについては反論できねぇ。俺の教育不足だ。だが、とにかく、俺達が動くのは確認が取れてからだ。少なくともカフェに立ち寄れるくらいなんだ、無事なんだろう。だから、あまり心配しすぎるな。お前のほうが先に潰れちまうだろ」

「ヤサシイー。テディケイブ、ステキー」

「棒読みやめろ」

「あたっ」


ぺしっと軽く頭を叩かれセシルは拗ねたように頬を膨らませる。

ティベリオは背を向けながらも、セシルと同じようにラッジの身を案じている。

――それでもセシルを必要以上に不安にさせまいとしているのだ。


(……早く帰ってきてよ、父さん。テディも、ずっと、心配してるんだから)


セシルは遠い空を見上げ、消えた”父”に思いを馳せる。

きっとどこかで無事に生きているのだと信じながら。



「そろそろ帰るか」

「はぁーい」





二人が歩き出そうとしたその時、警察署内から駆け足で飛び出してきた警官が声を張り上げた。


「ティベリオ警部!例の、連続殺人事件の被害者と思われる遺体が見つかりました!今度は胴体が切り取られていて――!」



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