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第36話 人形師行方不明事件Ⅹ

公爵家の別荘が老朽化で倒壊してから数時間後。

その場には多くの人々が集まっていた。

瓦礫に埋もれたセシルとバルドルフを救う為に。


ティベリオの呼んだ救命士と捜索隊。

少し遅れて到着したセルジが指揮する公爵家の私兵たちも加わり、現場は慌ただしく動いていた。


二次被害を避けるため、ラッジは屋敷から引き離されていた。

彼は必死に捜索に加わろうとするが、ティベリオとセルジに押しとどめられる。

その代わりにノクシルが現場に入り、必死の形相で瓦礫をかき分けていた。


(……もしかして、兄さんはもう……)


絶望が胸を覆いかけたその時。

瓦礫の隙間から、きらりと銀色の光がのぞいた。

セシルの銀色の髪だ。


「っ……!いました、こちらです!」


ノクシルの声に呼応し、人々が慎重に瓦礫を取り除いていく。

やがて姿を現したのは意識のないセシルと、彼に庇われるように横たわったバルドルフだった。

意識はないが目立った外傷はなく、命に別条もないらしい。

救命士たちがすぐにバルドルフを担架へ移し、病院へと運んで行った。


「彼も病院へ……!」

「あ、こいつは良いんです!知り合いの病院に運びますから!」


セシルも病院に運ぼうとした救命士に、ティベリオは咄嗟に嘘をついた。

セシルが生きた人形であることを世間に知られるわけにはいかない。

ティベリオはセルジに現場の後始末を託すと、ラッジとノクシルと共を連れてセシルの屋敷に向かった。


周りの目から咄嗟に隠したが、セシルの身体にはところどころに亀裂や破損が見られる。

これを直せるのはラッジしかいない。


ティベリオは車を飛ばし、屋敷に戻るとそっとセシルの身体を抱き上げ、ラッジに案内されて工房の作業台へ寝かせた。

閉じられた瞼、返事のないその様子は、まるで物言わぬ抜け殻だ。


「ノクシル、あっちの棚からセシルの予備ボディを持ってきて」

「はいっ」


ラッジは声を張り、ノクシルに指示を出しながら横たわるセシルの服を脱がせ、破損した箇所を確認し始める。

先ほどの取り乱した様子が嘘のように、今はセシルの修復に集中していた。


「それから机の引き出しにある部品と――」

「……俺にも何か手伝わせてくれ」


ティベリオは思わずそう告げていた。

ただ見ているだけでは歯がゆくて仕方ない。


「……分かった。なら、ティベリオにはある物を取ってきてほしい」


そう言ってラッジはセシルの胸部の中心を軽く押す。

すると滑らかな肌に細い切れ込みが走り、蓋のようにパカリと開く。

中には台座に収められた五センチほどの細長い水晶がある。だがその水晶は中央から真っ二つに割れていた。


「これは……」


見つめるティベリオにラッジが静かに答える。


「それは"生きた人形"の心臓とも言える魔石だ」


かつて魔法科学の発展と共に廃れた、魔力を宿す魔石。

含まれる魔力が高いほど透明度が増し、水晶のように澄んだものは極めて希少だった。


「この魔石は、昔、人形造りの着想を求めて訪れた洞窟で偶然見つけたものなんだ。同じ鉱脈にまだ残ってると思う……場所を教えるから取りに行って欲しい。俺はノクシルと一緒にセシルの身体を修復しないといけないから」

「わかった、任せろ」


ティベリオは力強くうなずき、ラッジから洞窟の場所を聞くと屋敷を飛び出して車に乗り込む。

走り去る車を見送りながらノクシルは不安げに呟いた。


「……お父様、兄さんは助かりますか?」


ノクシルの問いにラッジは迷わずうなずいた。


「大丈夫だよ。俺はティベリオを信じているし、きっとセシルも。……俺達はティベリオが戻ってくるまでにセシルの身体を完璧に直しておこう」


そう言いながらラッジはノクシルの手をそっと握った。

温もりが伝わり、無意識に震えていたノクシルの手が静かに落ち着いていく。


「私は……まだ、兄さんとちゃんと話が出来ていないんです」


そう呟きながらノクシルはもう片方の手で横たわるセシルの頬をそっと撫でた。


「お父様から兄さんのことを聞いた時から、ずっと会いたかった。潜入先で兄さんを見つけた時は、本当に驚きました。すぐにでも駆け寄って弟だと名乗りたかった。……少し時間はかかりましたが、それが叶って……公爵家の問題が解決したら、もっと一緒に過ごせるんだと……そう思っていたのです」


けれど現実は、そう上手くいかない。


それはまだ叶いそうにない。

本当は崩れゆく屋敷に向かうセシルを止めたかった。

だがセシルは踏み出す直前、こう告げたのだ。


『父さんとテディを頼んだよ』


それはノクシルにとって、兄から初めて託された願いだった。

その言葉に足が動かなくなり、気がついたらセシルは屋敷の倒壊に巻き込まれていた。

あの時、強く引き留めていればと思わずにはいられない。


そんなノクシルの横顔を見つめ、ラッジは静かに微笑んだ。


「セシルが目を覚ませば、いくらでも話せる。大丈夫、俺が必ず直すから」


そう告げた瞳は決意に満ちていた。

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