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第34話 人形師行方不明事件Ⅷ

ドルイゼル公爵家当主、その爵位の継承が正式に決まったその日。

セシルは自宅でティベリオの持ってきた新聞を手にしていた。


【ドルイゼル公爵家、当主交代】。

一面に大きく踊るその見出しを眺め、セシルはぽつりと呟いた。


「ここまでうまくいくとは正直、思わなかったな」


ティベリオが肩をすくめる。


「だが、それを狙って作戦を立てたのはお前だろ」

「……まあね」


あの日、バルドルフが失態を晒した舞台裏。

そこで起きた出来事は、ほとんどが彼らの仕掛けだった。


最初に作戦の糸口を見つけたのはノクシルとセルジだ。

彼らは屋敷の古い資料を調べるうちに、現当主バルドルフもかつて"双子だった"という事実を掘り当てたのである。


その情報をもとに、セシルとティベリオは当時を知る古い使用人に聞き込みを開始した。


やがて浮かび上がったのは――幼い頃、バルドルフの兄が当時の当主の手によって切り捨てられたという事実。

さらに、その後バルドルフには「双子は災いを招く」という概念が徹底的に刷り込まれていた、ということ。


幼少期の傷を抉るやり方に一瞬ためらいはした。

だが、ラッジを助けるためには仕方ないと割り切り利用することに決めたのだ。

恐怖に囚われれば、バルドルフは自ら崩れてくるだろうと。




役割分担は明確だった。



セルジは父にだけ遅い開始時刻を伝え、合流を遅らせる。


ノクシルは変装で一時的にバルドルフに成り代わり、開会宣言を行う。

そして王太子に"双子人形"を献上。さらに使用人の姿に戻った後も、鏡越しの声や照明などで恐怖を演出した。


セシルは最後に、ノクシルの手で"バルドルフの兄の姿"に仕立てられ亡霊のように彼の前に現れた。




人形の衣装に関しては、ティベリオが昔を知る使用人から細部を聞き出し、ラッジが再現したものだ。

人形そのものもラッジが提供したものだったが、彼には「王女への贈り物」とだけ伝えてある。



「……公爵の恐怖を煽るために人形たちを利用した、なんて知れたら父さんは怒るだろうね。だからテディも秘密にしてよ?」

「言われなくても分かってる。他の奴らにも口止めしとけよ」

「あの二人なら言わなくても分かってるでしょ」


ティベリオは、セシルの言葉にわずかに目を伏せる。

ラッジがもし真実を知れば、怒るより先にきっと悲しむだろう。


『ティベリオ。俺はね、誰かを追い詰めたり責めたりするくらいなら……自分が傷ついた方がマシだって思うんだ』


そんな風に笑ってしまう男だから。

それを理解しているのは幼馴染であるティベリオだけなのかもしれない。




「……で、ここからはどうするんだ?」


考えを切り替えるようにティベリオが問いかける。

セシルは短く息をつき、はっきりと答えた。


「前公爵から父さんの足枷の鍵を回収する。父さんの兄さんが公爵家当主になれば、正式な命令で鍵を奪えるからね……これでようやく父さんは自由だ」


また一緒に暮らせる。

セシルがそんな希望を口にしたその時だった。


慌ただしい足音と共にノクシルが扉を開け放ち飛び込んできた。


「兄さん、テディ様!!バルドルフ・ドルイゼルが失踪しました!お父様の足枷の鍵を持ったまま!」


「なんだと!?」

「どういうこと!?」


二人が同時に声をあげると、ノクシルは息を切らしながら説明を続けた。


爵位の継承に向けてセルジが多忙にしている隙を突き、バルドルフは馬を一頭連れ出し、どこかへ姿を消したのだという。


「……なんだか嫌な予感がする。テディ!父さんのいる公爵家の別荘まで車を出して!」

「確証はあるのかよ!?」

「わからない、でも……そんな気がするんだ!」

「私もお供します!」


セシルの焦りに応じ、車に乗り込むとティベリオはすぐにハンドルを握った。

三人はラッジの居る別荘に向けて、全速力で車を走らせた。



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