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第29話 人形師行方不明事件Ⅲ

翌日。

指定された時間より十分早く、ティベリオとセシルは約束の場所に到着していた。

待つこと五分。

現れたセルジの背後には、まるで従者のようにノクシルが控えていた。


「待たせたようだな。……あぁ、君がセシルか……君の事もラッジから聞いている。ノクシルに似ているな」


セルジが目を細めると、ノクシルがすかさず口を挟む。


「お言葉ですが、セルジ様。兄さんが私に似ているのではなく、私が兄さんを模して造られたのです」

「……細かいな」

「大事なことですので」


気安いやり取りをする二人は、まるでかつてのラッジとセシルを写したようだ。


「で、ラッジのことを聞かせてもらえるんだろうな?」


核心に触れる問いに、セルジは静かに頷いた。


「あぁ。だが、話すより見せた方が早い。ディアス、貴殿の車でとある場所に向かって欲しい。ラッジの居る場所に案内しよう。話はその道中で聞かせてやる」


セルジが淡々と告げる一方、セシルは明らかな警戒心を隠さない。

それを見たノクシルがくすりと笑う。


「兄さん、そんなに身構えなくても。私達は兄さんたちの味方ですよ」

「……馴れ馴れしく兄だなんて呼ばないでくれる?父さんの口から直接聞くまで、僕は君を弟だなんて認めない」

「おや残念ですね」


言葉とは裏腹にノクシルは楽しそうだ。

その笑顔から彼の考えを読み取るのは難しいだろう。


「……とにかく、あんた達はラッジの居場所を知っていて、今からそこに俺達を案内してくれるんだな?」


ティベリオが確認すると、セルジはうなずく。


「あぁ。ドルイゼル公爵家の名に誓って、嘘はついていない」

「…………分かった。なら案内してくれ」


ティベリオはハンドルを握り直し、助手席にセシル、後部座席にセルジとノクシルを乗せると、セルジの指示に従って車を走らせた。


目的地までは車で一時間以上かかるらしい。

走る車内、重い沈黙を破ったのはティベリオだった。


「……ラッジは生きてるんだよな?いままでずっと、これから向かう場所にいたってことか?」


運転席越しに問いかけるティベリオに、セルジは静かにうなずく。


「あぁ、生きている。まずはそこから説明した方がいいか?」

「聞かせて」


ティベリオが口を開くより早く、セシルが答える。


「……分かった。一年前、ラッジは外出先で事故にあった」


セルジの言葉に、ティベリオは短くうなずく。


「それは知っている。その後、しばらくハドン伯爵家の病院に入院していたこともな」

「ふむ……君たちなりに調べていたようだな。ならば、その後の話をしよう」


セルジは窓の外を一瞥し、低く息をついた。


「……ラッジは記憶を取り戻したあと、すぐに自分の家へ帰ろうとしていたそうだ。セシル、お前の待つ場所にな」


セシルが小さく息を呑む。


「だが、その途中で父上――ドルイゼル公爵に見つかってしまった」


セルジはゆっくりと続ける。


「侯爵は最初、ラッジを私と間違えて声をかけた。だが、雰囲気や話し方で別人だと気が付いてしまったんだ。昔、処分したはずの“忌まわしき双子の弟”が生きているのだと」


ティベリオは言葉を失う。


「……忌まわしき双子の弟ってどういうこと?」


セシルの問いに答えたのはノクシルだった。


「五十年ほど前まで、この国には妙な迷信がありました。『双子は災いを呼ぶ。双子が生まれた場合、どちらかを処分しなければ家門は災いに襲われる』と」


セシルは目を見開く。ノクシルは淡々と続けた。


「ドルイゼル公爵家の当主たちは代々その迷信を妄信していました。それは現当主も例外ではありません。セルジ様とお父様が双子で生まれた時、処分の対象になったのは弟であるお父様でした」

「しかし、それを私達の母は許さなかった」


セルジが引き取るように言葉を重ねる。


「母は交流のあった前ディアス伯爵夫人の手を借り、弟を隠した。処分したと偽って、ラッジを父の目から遠ざけたんだ」

「……そういうことだったのか」


ティベリオがぽつりと呟く。セルジが続ける。


「父はラッジを見つけた時、その場で処分しようとした。だが、街中でそれをすれば、いくら公爵でも外聞が悪い。だから無理矢理屋敷へ連れ帰ったんだ……あの時ばかりは、私も肝を冷やした」


この国でも有数な公爵家の当主が、街中でそんな騒ぎを起こせばいくらなんでも大問題だ。だから父は、ラッジを無理矢理に屋敷へと連れ返った……あの時は流石に私も驚いた」


ティベリオが眉を寄せ、疑問を投げかける。


「あんたはラッジの存在を知ってたのか?」


「知っていた。母から聞かされていたし、母を通じて手紙のやり取りもしていたからな。幼いころは何度か会ったこともある。……その弟が突然、父に連れてこられ、しかも命を奪われそうになっているのだから……焦らないはずがなかった」

「……それで、父さんはどうなったの?」


セシルの問いにセルジは視線を伏せて答える。


「ラッジが"顔を出さない人形師"として名を馳せていることは知っていた。だから私は弟を守るために父に提案したんだ。『ラッジの作る人形を公爵家で独占販売すれば、財政難を立て直せる。だから処分するのではなく、生かして利用すればいい』と」

「……っ」


その言葉にセシルの表情は険しくなった。


「母が亡くなってから、屋敷の帳簿を管理できるものは誰もいなくなった。雇っても父の冷酷な性格からすぐにやめていく。金は湯水のように消え、屋敷は傾きかけている……公爵家とは名ばかりだ。父にとって、私の提案は藁にもすがる話だったのだろう」


セルジは言葉を切り、硬く拳を握る。


「……そして、父は私の提案を受け入れた。ラッジを公爵家の別荘地下に監禁し、生かす代わりに――金になる人形を作り続けさせたんだ」


一通り話し終えたセルジに代わり、ノクシルが口を開く。


「私はその中で、お父様に生み出されました。しかし……お父様が"生きた人形"を生み出せると知れば、公爵は今以上にお父様を追い詰めるでしょう。そこで私はセルジ様の雇った秘書という名目で表に出され、知識を学びつつお父様の世話をし……そして、セルジ様と協力して助け出す方法を探し続けてきたのです」

「まさかここに来て、ラッジの話に出てくる幼馴染とセシルに会えるとは思っていなかったがな」


セルジは肩をすくめてみせた。

その横でノクシルがセシルに視線を送る。


「私は以前から、いずれお二人と協力できないかと考えておりました。……実は、つい最近も兄さんのお手伝いをしていたんですよ」

「は?君とは昨日が初対面だし、手伝って貰った覚えなんて……」


セシルが眉を寄せると、ノクシルは楽し気に口元を緩める。


「おや、もう忘れてしまわれたのですか?――『警報機と警備員。貸し二つ』」


セシルは驚き、勢いよく後部座席を振り返った。


「あの時の……あのオーナーの秘書!?まさか……!」

「ええ。私の特技は変装でしてね。あの人形展に潜入していたのですよ。あそこにはお父様が作られた子達も展示されていましたから」


「……とんでもない弟ができたな、セシル」


唖然とするセシルをちらりと見て、ティベリオが小さく吹き出した。





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