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第2話 ネックレス盗難事件Ⅰ

人形の彼が、探偵なんてしてるのか。

それにはもちろん理由がある。


(……いつになったら"あの人"に会えるんだろう。まだ何の手がかりもない……)


屋敷を出て、ティベリオの運転する車に揺られながら、人形探偵セシルはある人物を想う。

それはセシルを生み出した者であり、セシルが求めてやまない存在だった。


「ねぇ、テディ……こんなちっぽけな依頼に、あの人の手がかりがあるとは思えないんだけど」

「そんなの分からないだろ。小さい事でも積み重ねていけば、ヒントくらいあるかもしれない」


セシルの探す人物はティベリオの親友でもある。

二人は事件を解決しながら、同じ人物を探していた。


「それに今回の依頼で犯人扱いされているメイドが"あいつ"を目撃したと言ってるそうだ」


ティベリオの言葉にセシルはがばりと顔を上げる。


「どうしてもっと早くそれを言わないんだ!」

「今言ったろ?それに人違いかもしれない」

「……君って人は」


ぬか喜びさせない為に黙っていたのか、ただ伝え忘れていたのか。

どちらとも取れないティベリオの態度にセシルが溜め息をついた。






しばらくして、車がある屋敷の前で止まる。

ここが依頼人の勤めるリバニー男爵家なのだろう。

事件発生時に駆け付けた警官が二人を出迎えた。

直接事件に対応した者として話を聞きたいとティベリオが呼んでいたのだ。


「警部、お待ちしておりました!」

「あぁ、ご苦労」


警官の後ろから顎髭を蓄えた大柄な男が出てきた。

彼は吊り上がった目に反して、にこやかに頭を下げる。身なりからするに彼がリバニー男爵なのだろう。


「これはこれはディアス警部!この度はお手を煩わせて申し訳ない」

「ご丁寧に。こちらも仕事ですから、お気になさらず」


ティベリオが応じ、隣のセシルを紹介する。


「こちら友人で探偵をしているセシル。世間では人形探偵などと呼ばれております」

「ほほう!あの有名な……いや、本当に人形のようにお美しい」


舐め回すような視線を向ける男爵に、セシルは視線も向けず一言。


「……どうも」


驚きの塩対応だ。

思わず眉を寄せた男爵を見て、ティベリオが即座にフォローする。


「申し訳ありません、友人は少々人見知りでして。これでも腕は確かですから。……事件の概要と現場を拝見しても?」

「えぇ、もちろん。どうぞ中へ」


男爵と警官が先導して歩き出すのを見計らって、ティベリオはセシルを肘で軽く小突いた。


「……お前、もう少し愛想よくできないのか」

「何を今更。セクハラ親父にする挨拶なんて、あれで十分だよ」

「思ってても口にするな」

「じゃあ態度に出すのはいい?」

「ダメに決まってる!」


ギリギリ聞こえない程度の小声でやり取りしているうちに応接室に着いた。

そこには男爵夫人エイミアとあどけなさの残る令嬢アイリス、そして依頼を出したメイドが控えていた。


「ようこそ、警部。はじめまして探偵の方、わたくしは妻のエイミアと申します」

「……どうも」


気品のある夫人に対してもセシルは相変わらずの塩気たっぷりだ。

一方、令嬢アイリスは無邪気に目を輝かせてセシルに近付いた。


「まあっ、なんて綺麗な探偵さん!ねぇ、お名前は?」

「……」

「失礼、ご令嬢。我が友人は人見知りでして」


すかさずティベリオが間に入ると、アイリスは不満そうに唇を尖らせた。


「警部さんも素敵だけど、私的には探偵さんの方が好みよ」

「これっ!アイリス!エイミア、アイリスを部屋に連れていけ!」

「はい。さあ、アイリス!」

「嫌よ、私は探偵さんと――!」


夫人に引きずられる娘を見送り、男爵は額に滲んだ汗を拭う。


「大変失礼しました。何分まだ幼くて……」

「幼い、ねえ……」

「何か?」

「……いえ、別に」


セシルの冷ややかな視線には『幼いという言葉は当てはまらないだろう、あれは幼子なんて可愛らしいものではなく躾のなっていない獣だ』と言いたげな色があったが、ティベリオは見なかったことにして咳払いをした。


「……男爵、依頼者本人から話を伺いたいのですがよろしいですか?」

「ええ、もちろん!彼女は五年前からうちに勤めているメイドです。さ、リリス」


「はい、旦那様。はじめまして。ご紹介いただきました、メイドのリリスです。この度は私の依頼を聞き届けていただき感謝いたします」


黒髪を顎のラインで切り揃え、丸い眼鏡をかけたリリスは少し大人しそうな印象の娘だった。

二人と男爵がソファに腰を下ろすと、リリスは紅茶を淹れ改めて口を開いた。


「それでは事件についてお話いたします」



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