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第17話 貴族学園怪奇現象事件Ⅲ

放課後。

早速、怪奇現象の聞き込みに向かうつもりだったのだが――。

セシルはご令嬢達に取り囲まれ、身動きが取れなくなっていた。


「セシル様!ノエル様の従兄と伺いましたが、お二人はとても親しんですの?」

「セシル様。もしよろしければ今週末、我が家にご招待させていただきたく」

「セシル様、このあとわたくしとお茶でもいかがかしら?」

「セシル様っ、今日の授業分からないところがありまして!ぜひ教えてくださいまし!」

「セシル様ぁ、まだ学園に来たばかりですから私がこの学園を案内いたしますわぁ」

「セシル様!」

「セシル様!」


甲高い声が重なり合い、帰ろうとしていたクラスメイト達も顔をしかめるほどにうるさく騒がしい。


「しつこい、うるさい、馴れ馴れしい。嫌がられてるって理解できないの。僕の貴重な時間を無駄に使わせないでくれる?顔のいい男に媚びを売る暇があるなら、勉強しなよ。僕はやるべきことがあってここにいる、君達の為に使う時間は一秒だってないんだ。構わないでくれ」


はっきりと拒絶された令嬢達は、怒りとも羞恥ともつかない表情を浮かべながら互いに目を見合わせる。

しかしセシルの冷たい視線に射抜かれた瞬間、言葉を失ったかのように口をつぐみ蜘蛛の子を散らす様にようやく退いて行った。


少し離れた位置からその光景を見ていたノエルはため息をつきながらセシルに歩み寄る。


「セシル様、言い方というものがありましてよ?」

「僕は怪奇現象を解決するためにここにいるんだ。仲良しごっこするために来たんじゃない」


セシルがそういうと近くの席にいた一人の男子生徒が声をかけてきた。

短い赤髪と活発そうな顔つきの男子だ。


「なぁ、怪奇現象を解決ってマジ?」

「あら。ハートレイ様、ご興味がおありで?」


ハートレイと呼ばれた生徒は「当然!」と目を輝かせる。


「俺、オカルト部だからそういうの好きなんだよ。他の部員に聞けば、ここ最近起きた怪奇現象の情報なんかも提供できるぞ」


貴族令息にしては雑な口調だが、人懐こい笑顔のせいか不快感は感じない。


「君、名前は?」

「カイル。カイル・ハートレイ。ハートレイ男爵家の次男だ。よろしくな!セシル!」


遠慮なく呼び捨てにされ一瞬ムッとしたセシルだったが、それよりも彼の言う情報提供の方に興味があった。


「じゃあ早速行ってみようか。そのオカルト部ってところに」

「おう、案内してやるよ」






カイルの案内で、セシルとノエルはオカルト部の部室へとやってきた。

メイン校舎二階の空き教室を利用しているらしく、引き戸を開けるとぎょっとした。

元は普通の教室だったはずなのに、窓は黒いカーテンで閉ざされ、室内の棚には不気味な置物や怪しげな本がずらりと並んでいたからだ。


「ようこそ、我がオカルト部へ!」


カイルに招き入れられ足を踏み入れたセシルは、興味深げに部屋を見回す。

それはノエルも同じようで、机の上に置かれた文字の書かれた布をまじまじと眺めていた。


「はじめて見るものばかりですわ。ハートレイ様、この布は何に使いますの?」

「それはな、コインと組み合わせて交霊術に使うんだ。コインに霊を宿らせて、この文字で会話するんだぜ。やってみるか?」

「…………遠慮しますわ」

「ははっ、ノエル嬢は意外と臆病なんだな?」

「もうっ!からかわないでくださいまし!」


二人の様子を見ていたセシルはしばらく目を瞬かせてから首を傾げた。


「二人は随分仲がいいんだね」

「っ!」

「そ、そんなことありませんわっ!」


顔を赤く染めるカイルとムキになるノエルに、セシルは二人の関係を悟る。

人間の恋愛うんぬんはセシルには理解できない感情だが、少なくとも元婚約者よりはマシな相手だろう。


「ふーん……まぁ、どうでもいいけど。それより最近起きた怪奇現象について早速聞かせてくれない?」

「おう、そろそろ他の部員も来るから適当に座っててくれ」


そう促され椅子に腰かけた時、複数の足音と共に三人の生徒が入ってきた。


「こんちゃー!あれ、珍しくカイルが早く来てる!」

「本当だ。しかも美男美女て連れ込んでる!?」

「……ハートレイくん、無理な勧誘は良くないわよ?」


先に室内へ入ってきたのは、おかっぱ頭に丸眼鏡の男子生徒。

同調しつつセシル達に気が付いたのは、黒髪に幼い顔立ちのふくよかな体型の男子生徒。

最後にカイルを軽く窘めたのは、黒く艶やかな髪を胸の高さできっちり切りそろえた美少女だった。


「部長!無理な勧誘なんかしてないっすよ!こいつら、俺と同じクラスで怪奇現象を解決したいっていうから情報提供できるんじゃないかと思って連れてきたんです!」


カイルが黒髪の美少女に抗議すると、彼女は軽く目を見開いてから小さく笑った。


「そういうことなら歓迎するわ。私はこのオカルト部、部長のミレイ・フォンタナ。よろしくね。こっちの黒髪の子は私の弟でユリウス。それから眼鏡君の彼はフレッド・クラインくんよ」


部長であるミレイの紹介を受けて二人がぺこりと頭を下げた。

セシルとノエルも軽く自己紹介を終えると、ミレイが話を切り出す。


「怪奇現象って、今学園で騒がれてる講堂のあたりで起きるあれよね?」

「そう。赤い液体が廊下に落ちていたって話は知ってる。他に何が起きたか教えて」


セシルが答えるとミレイは棚から一冊の分厚いノートを取り出す。


「これはオカルト部の皆で集めた怪奇現象を書き記したノートなの。新しいものはハートレイくんかクラインくんが書いていたはずよね」

「あ、一番新しいのを書いたのは僕です!えっと、確かこの辺に……」


そう言いながらフレッドがノートを捲り新しいページを開く。

そこには丁寧な字で『講堂に出る人魂』と記されていた。


「俺も書いたぞ。少し前のやつだけどな」


カイルが前のページを開くとそこには勢いのある雑な文字で『廊下に響く怨霊の声』と書いてある。


「怨霊……」


その文字を目で追ったノエルは小さく身震いした。

だがセシルは対照的に愉快そうに口元を緩める。


「面白そうな話だね。ぜひ詳しく聞かせてくれないかな」


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