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第14話 人体切断連続殺人事件Ⅹ

「僕は、生まれたときから――人形なんだ」


セシルの無機質な笑みとともに、地下室の空気が一瞬凍りついた。

シャルウッドが血も流れないその腕にわずかに怯んだ、その時。


轟音とともに石壁の一部が吹き飛ぶ。

隠し扉が破壊され、煙の中からティベリオが飛び込んでくる。

その後ろには武装した警官たちが数名、銃を構えて雪崩れ込んだ。


「セシル!」


ティベリオの叫びに、セシルは小さく笑みを浮かべる。

そして落ちた自らの腕を、さり気なく後ろに隠した。


「……なぜここが……!」


シャルウッドが顔を引きつらせる。

ティベリオは冷ややかな目で彼を射抜いた。


「そいつには高性能の発信機と通信機が取り付けられてたんだ。この部屋のこと、お前のやったことも、全部聞かせてもらったぞ」


「あぁ……本当に残念です。私の創作活動がこんなところで幕引きだなんて」


そう呟く様子は罪を悔いているというよりも、これ以上人形が作れなくなるということを残念がっているようだ。

一方、警官たちは地下室を見回し、血の気を失っていた。


「……なんだ、この部屋は……」

「人形……?いや、これは……」


壁際に並ぶ異様な人形と被害者達に息を呑みながらも、シャルウッドに組みつき腕を背中にねじ上げ抑え込む。


「本当に残念だ。人形ほど崇高で美しい存在はないというのに……」

「黙れ!いったいどれだけの人間を手にかけたんだ、この人殺しめ」


床に押さえつけられ、手錠をかけられるシャルウッド。

その狂気に満ちた笑みが狭い地下室に虚しく響き渡った。


ティベリオはすぐにセシルの元へ駆け寄り、自分の上着を肩にかける。


「……よく耐えたな。あとは俺達警察に任せろ」


セシルは小さく頷き、そっと息を吐いた。








事件から二日後。

ティベリオは数部の新聞を抱えて、セシルの屋敷を訪れた。


「どこの新聞社もこぞって取り上げているぞ、今回の事件をな」


セシルが入り浸っている本棚のある部屋で、ティベリオは新聞を広げて見せる。


紙面には「優秀と言われた医師の狂気」「名門の醜聞」「美を追う殺人鬼」などと大きな見出しが並んでいた。

記事には、犯人であるシャルウッドはその罪の重さから公開処刑にされることや、彼の両親であるハドン伯爵夫妻が親戚に爵位を譲って田舎に引っ越したことなどが記されている。


「当然だろうね。それだけの事をしたんだから」


セシルが新聞を覗き込みながら言う。


「取り調べも大変だったんだろ?」

「……なんで知ってる」

「鑑識の眼鏡くんがわざわざ知らせを寄越してね」

「あぁ、モルスか」


そこでティベリオは新聞をめくるセシルの腕に視線を止めた。

確かに切り落とされたはずの腕が、何事もなかったかのようにそこにある。


「ところで……その腕、どうやって治したんだ?すっぱり切られてたはずだろ」


セシルは新聞を折りたたみ、軽く肩を竦めて見せる。


「父さんの工房から道具を借りて、予備を取りつけたんだよ。僕のボディパーツは万が一に備えて、いくつか予備があるんだ。壊れたら付け替えられる……人形の便利なところだよねぇ」


あまりに淡々とした口ぶりに、ティベリオは何とも言えない表情だ。


「せっかく小型防御装置持たせてくれたのに、使う余裕なかったよ」

「そうか……」


しばしの沈黙のあと、ティベリオは重い声で口を開いた。


「セシル……実はな、取り調べであの院長が気になることを言っていた」

「気になること?」

「……人形の作り方を、ラッジから教わったそうだ」

「父さんが!?」


思わず声を上げたセシルにティベリオは小さく頷く。


「ラッジは一年前、馬車と車の事故に巻き込まれてハドン伯爵家の病院に運ばれたらしい。写真を見せたところ、特徴も一致した。怪我のせいで記憶を失っていたが……人形作りは体が覚えていたんだろうな。リハビリ代わりに人形を作り他の入院患者に配っていたそうだ」


セシルの脳裏に、作業台に向かうラッジの背中がよぎる。

ティベリオは続ける。


「それに目を付けたのが院長――シャルウッドだ。やつはラッジの作る人形に魅了されたそうだ。ラッジに頼み込んで人形造りを教わったまでは良かったが、元から精神が歪んでいたのか、途中で歪み始めたのかは……ラッジの作る人形に少しでも近づける為、人間を素材にするという狂気に行きついたらしい」


セシルの指先がわずかに震える。


「それで父さんは……?」

「事故から三か月後、『記憶の一部を思い出した』と言い残して退院したそうだ。それきり行方は分かっていない」

「……そう」


一歩前進したと思ったがラッジの捜索はまた振り出しに戻ったようだ。


「また、コツコツと手掛かりを集めるしかないのか……」


セシルのその声はどこか寂しそうに響いた。

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