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第12話 人体切断連続殺人事件Ⅷ

三日後、ハドン伯爵家の門前にセシルの姿があった。

シャルウッドと約束を取り付け、彼の屋敷に招かれたのである。


もちろん丸腰ではない。服の下にはモルスが「趣味で開発いたしました!」と胸を張った超小型発信機と通信機が仕込まれている。

ほんの小指の先ほどの大きさでありながら、少し離れた位置で待機しているティベリオとモルスに正確にセシルの位置や周囲の音声を届けている。これらを使って証拠となる遺体などが保管されている部屋を探すのだ。


さらにティベリオから手渡された小型防御装置。

魔法化学が生んだ警官用の支給品で、爆発や銃撃をはじめとする攻撃から一度だけ持ち主を守ってくれる。

セシルとしてはすぐにでも潜入するつもりであったが、モルスが開発した機器のテストなどで三日もかかってしまった。




「ようこそ。ハドン伯爵家へ、歓迎しますよ」


セシルを出迎えたのはシャルウッド本人。黒い上着の襟を緩め、上機嫌そうに微笑んでいる。

一見優しげに見えるその笑みの奥には、狂気が潜んでいることをセシルは知っている。


「……急に連絡して悪かったね。聴取に行ったとき、見た人形があまりに素晴らしかったから、ぜひ色々聞かせ欲しくて」

「構いませんよ。人形に関心を持ってくれる方とお話しできるのは私にとっても喜びですから」


シャルウッドは手を差し伸べ、まるで女性をエスコートするようにセシルを屋敷の奥に誘う。


「どうぞ、こちらの応接室へ。紅茶でも飲みながらじっくりと語り合いましょう」


応接室に向かって歩きながらセシルはこの三日間の間に受けたモルスの説明を思い出す。



『通信機の感度は完璧ですぞ!衣服の中に隠していても、外の音声はクリアに聞こえるように調整しましたゆえ!ただし強い磁力には弱いのでお気を付けを』

『発信機の正確さは吾輩が保証いたします!建物のどこにいても、正確な位置を受信機に表示させることのできる優れものです!』


そしてティベリオの言葉も思い出す。

今、腰のベルトにつけている小さな装置はティベリオが渋い顔で手渡してくれた小型防御装置だ。


『この小型防御装置は一回きりの使い捨てだ。お前を守るためのものだから絶対に無駄遣いするなよ。いいな?絶対だぞ?』


その言葉を思い返し、セシルはそっと息を整える。

応接室に入り、二人がソファに腰かけると屋敷のメイドがティーポットとティーカップ、クッキーの乗ったワゴンを持ってきた。


「いいよ、私がするから君は持ち場に戻りなさい」

「はい、失礼いたします」


メイドが出ていきシャルウッドが自ら紅茶を淹れる。

琥珀の液体がティーカップに注がれたその直後、手のひらで隠しながらシャルウッドが小瓶から何かの薬品を数滴紅茶へと垂らしたのが見えた。


(あれは……睡眠薬か?)


病院に聴取に行った際、看護師が運んでいた医療用カートに同じ小瓶が乗っていたのをセシルは覚えていた。

それには確か、『睡眠薬』のラベルが貼ってあったはずだ。


「どうぞ」

「……どうも」


差し出されたティーカップに口をつけ、飲むふりをする。

人形であるセシルは飲食をする必要なないが、相手が仕掛けてくるなら証拠を掴むためにも乗るしかない。

シャルウッドはしばらくの間、他愛のない話をしていたが不意に顔を上げてセシルにこう尋ねた。


「ところで……ご家族は?」


視線がねっとりと頬をなぞる。

セシルは一瞬言葉を詰まらせたが、視線を伏せて答えた。


「居ない。僕は一人暮らしでね。育ててくれた人も、もう亡くなって残された財産で暮らしてる」


嘘だ。

本当のことを話す価値など、この男にはない。


「そうでしたか……それは孤独でしょうね……お可哀想に」


憐れむような視線に不愉快さを感じたが、効かなかったことにして小さく欠伸をする。


「ふぁあ……失礼、昨晩寝不足だったみたいで」

「いえ、構いませんよ。お疲れなんですね。少しだけ休まれては?」

「そう言うわけには……」


言葉の途中で、セシルはわざと瞼を重たげに伏せカクンと首を揺らした。

そのままソファの背もたれへ身を預け、指先から力を抜いてティーカップを滑らせる。

カップは乾いた音を立てて床を転がり、こぼれた紅茶がじわりと絨毯を染めていった。


「……おやおや、思いのほか効き目が早かったようですね」


シャルウッドはカップを拾おうともせず、セシルにそっと近寄る。

そっと肩を抱き寄せ見つめる。その仕草はまるで恋人を扱うかのように丁寧で、愛おしげだった。


腕に抱え上げ応接室を出ると廊下で出会った使用人が訝しげに尋ねる。

シャルウッドはにこやかに微笑みながら声を潜めるように告げた。


「友人が疲れて眠ってしまったのです。私が客室まで運びますから、応接室のお茶を片付けておいてください」


有無を言わせぬ声色に使用人はただ頭を下げて立ち去る。

セシルを抱えなおしたシャルウッドは、客室へ続く廊下を通り過ぎて何もない廊下の突き当たりで立ち止まった。

器用にセシルを抱えたまま壁紙に描かれた花のひとつを押すと、ガコンと音がして何もない壁が動き地下への階段が現れる。

そこからは冷えた空気がふわりと吹き出す。

シャルウッドが中に入ると自動で階段を照らすランプが点灯し、同時に背後で音もなく入り口が閉じた。



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