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悪魔狂想曲  作者: 更科リョウ
第1章 出会い
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悪魔の生き方

男性の人間として生きていた頃、女性にあこがれを抱き、現世での苦悩の果てに自殺後、転生し女悪魔となったメデューサ・リョ―ドル。彼女は、ようやく手に入れた女性としての「生」にこの上ない喜びを感じていた。その魔力は強力であったが、彼女には強い使命感があった。それは、強大な魔力を私利私欲に使わずに、恵まれない人、弱き人のために使うということであった。自らの魔力を発動させる動機は、常に人を喜ばせるため、人を救うためであった。孤独に世界をめぐり、小さな人助けを重ねて生きてきたメデューサ。そんなある日、彼女はひとりの純朴な女性に出会い、運命が変わる―。



 さて、えみるがりょーくんに心を開き、大胆すぎるほどに接してきたとは話したものの、初めから彼女がりょーくんに身を任せるようになったわけではない。では、えみるがどのようにしてりょーくんに心惹かれるようになったのか、一度時間を遡って確かめてみたい。

 りょーくんの髪は、紫がかった黒色だ。実は、その髪の中には、数頭蛇が潜んでいる。えみるは、初めてりょーくんに会ったときからずっとこのことに対して疑問を持っていた。そこで初めて家にやって来た日に、りょーくんに対して思い切って問いかけてみた。

「ねぇ、りょーくん……。あなたの髪にいるお蛇さんって……これは何?」

 りょーくんはサラダを食べていた手を止め、そっと手で蛇を撫でながら言った。

「これはね、私の魔法を発動させるための魔法のお蛇さん。私が罰したいと思った人はこの猛毒で一瞬にして魂を抜くことができるの。……あ、あなたは平気だよ?ちょっと触ってみて?」

 りょーくんに言われるままに、えみるはそっと彼女の頭の蛇に触ってみた。蛇は何も言わない。

「……このお蛇さんたち、とってもいい子ね……私は正直、ちょっと怖かったんだけど、りょーくんの優しさがこの子達にも息づいていると思うよ。」

 えみるのその台詞に、りょーくんはとてもうれしそうにうなずいた、

「ああ、私は自慢ではないが、かなり強大な魔法が使える。あなたにも、少しずつ教えていこうと思うが……その中には世界も滅ぼしたり、時に人間の精神世界に踏み込むような強大な力もある。だが、私はそうした魔法を無暗に発動させることはしない。……出来ることであれば、この蛇が、永遠にくつろいだままでいる方がいいと思ってるよ。……自分では、この蛇はかなり気に入ってるんだけど、ね。」

 えみるは微笑んでいった。

「りょーくんって、見た目はとっても艶やかで怖いのに、中身はとっても優しいから、私はそれにとても―ドキドキするな……。人前では優しさを表に出さないけど、誰よりも愛があるっていうか―。」

 りょーくんはえみるの手をそっと愛撫して、ぽつりと打ち明けた。

「ああ……私は不器用で、自分の考えていることを言葉よりも先に行動でしか示すことが出来ないのだ―そのせいで、時に誤解を招くこともあるのだけど……しかし、今、えみるが私のことを鋭く理解してくれるだけに、私の心はとても救われているよ。あなたであれば―私のあらゆる感情をさらけ出すことが出来ると強く思えるんだ。私は本当はか弱き存在だ。魔法を偶然手にしたから、悪魔として生きられているに過ぎない。昔、誰にも自分の気持ちを打ち明けることが出来ず、ひとり世界の片隅で泣いていた自分が今の私を見て泣くような真似はするまい、と強く心に誓っているのだよ。」

 えみるは、りょーくんの紫色の妖しげな瞳の孤独を感じさせる潤いを見逃してはいなかった。

「りょーくん……今まで寂しかったんだね……それでも、今でも人間だった時の魂が息づいているのを感じるよ。あなたは悪魔なのに、誰よりも人間臭いなって思う。私が、りょーくんが化け物でも構わないって思えたのは、それが理由なんだ。」

 えみるの言葉に、りょーくんの胸元にかかるペンダントが青く光った。

「ありがとう……えみるのその純粋で偏見のないまなざしが、私の救いとなったのだよ。……誰にも理解されなくても、自分が正しいと思えることをしていれば、私はそれで十分だと思っていた。でも……今は私をわかってくれる子がここにひとりいる。それだけで、私の幸せが何倍にも膨らんだ気がする。」

 そんな孤独な女悪魔メデューサ・リョ―ドルに見初められた新人悪魔えみるのりょーくんとの共同生活の場であるが、その小さな隠れ家は山奥の人気のない場所にあった。

「はい、着いたよ。さあ、ここがおうちだ。(入口の門を開いて)ここね、人間は入れないの。たまに宅配頼むときは、業者さんが入れないから、ここまで出てくるようにできてるの、あ、そうだ、えみるがノーチェックで入れるように、認証しておかなきゃ……。(えみるの顔を覗き込んで)はい、ちょっと動かないでね(ペンダントを取り出し顔をペンダントの内側にある鏡に10秒間かざす)これでオッケー。はい、ここは人間が入れない、秘密の空間。(家の扉を開けて)平屋で、本当に最低限しかない。キッチン、トイレ、洗面所、寝室、書斎。寝室はもともとツインベッド置いてあるから大丈夫。で、風呂はというと……(洗面所の横の引き戸を開けて)はい、この廊下を抜けると露天風呂があります。魔法の力で、常にフィルタリングしながら源泉かけ流しのお湯を入れてるの。風呂はノーマル、ジャグジー、沐浴、羽釜風呂って4種類あるから、好きなの入ってて。露天風呂の手前に脱衣所あるけど、タオルとかアメニティグッズはそこにあるよ。」

 えみるは、りょーくんの隠れ家にもまたりょーくんらしい生きざまを感じていた。これだけ強大な悪魔であれば、もっと大きな豪邸だって築くことが出来たであろうに、りょーくんの家はまったく静謐に満たされている。強いてあげれば、大きな露天風呂くらいしかりょーくんのこだわりは感じない。

「魔法を使ったり人助けをすると草臥れるから、しっかり魔力や体力を回復するためにもお風呂は大事なの。あなたとふたりでゆっくり入りたいな。」

 そんなりょーくんの身体付きはかなり色っぽかった。華奢な肩から垂れるバストはかなり豊満で、ピンと伸びた背筋から腰のラインのくびれの曲線が美しく、脚もかなり細長い。これは魔力によって手に入れたものなのだろうが、それにしても、人を魅惑せずにはおかないものであった。えみるは同じ女性だとしても、そんな彼女とともにお風呂に入るというのはかなり気恥ずかしいものだった。

「あはは、大丈夫。今夜は、ひとりで入りなさい。また、気が向いたら一緒に入ればいいから。」

 りょーくんが先回りしてそう言ってくれたので、初日の夜はえみるはひとりでお風呂に入った。何種類もある露天風呂で疲れを癒やしたあとに脱衣所に上がると、着替えが用意されていた。みな、えみるの背格好や好みに似合うものだった。彼女は、そこにもりょーくんの気遣いを感じた。

「明日は……一緒に入るか。」


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