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悪魔狂想曲  作者: 更科リョウ
第1章 出会い
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男性の人間として生きていた頃、女性にあこがれを抱き、現世での苦悩の果てに自殺後、転生し女悪魔となったメデューサ・リョ―ドル。彼女は、ようやく手に入れた女性としての「生」にこの上ない喜びを感じていた。その魔力は強力であったが、彼女には強い使命感があった。それは、強大な魔力を私利私欲に使わずに、恵まれない人、弱き人のために使うということであった。自らの魔力を発動させる動機は、常に人を喜ばせるため、人を救うためであった。孤独に世界をめぐり、小さな人助けを重ねて生きてきたメデューサ。そんなある日、彼女はひとりの純朴な女性に出会い、運命が変わる―。



 あくる朝、りょーくんは早く起きて朝食の支度をしていた。そこに、えみるがいきなり腕に絡んでくる。

「りょーくんっ♡」

 りょーくんは、危うく用意していたお皿を落としそうになった。

「ちょっ……えみる、いきなり何よ……。」

 りょーくんの困惑にえみるは、

「えへへっ、りょーくんの肌が恋しくて。……このぬくもりが大好きなの、りょーくんでなければだめなの~♡」

 今までこのようなことを経験していないだけにりょーくんは戸惑った。

「うふふ、りょーくんのこと、これからずっとずっと離さないから。もし、りょーくんが離れようとすれば―どんなことになるか、わかってるよねぇ。」

 瞳を妖しく光らせ、何かをたくらんでいるような挑発的な顔つき。それは、まさにりょーくんの伴侶にふさわしい、立派な女悪魔の姿だった。

「はは、えみる、私はずっとあなたと一緒にいるよ。この家で、あなたと一緒に魔術を開発しながら、時々、裏側から、世界を救いに行ければそれで充分。」

 そして、りょーくんはピンと指を立てておもむろに言った。

「でもね、えみる。これだけは覚えておいて。」

 えみるは思わず背筋をただした。

「うん、ちゃんと聞くよ。りょーくんの言うことなら。」

 えみるのまっすぐな瞳。それこそが、りょーくんが彼女を伴侶として選んだ所以であった。

「これからえみるにも、いろいろ魔法を教えていくことになると思う。そして、私たちは魔法を操る場面に必ず出くわすと思う―でも、自分勝手に魔法は使わないこと。恵まれない人、最も魔法を必要としている人のために魔法を使うこと。そして、世の人々を分け隔てなく愛すること。約束だよ?」

 りょーくんは悪魔だったが、殆ど自分自身のためには魔法を使わず、貧しい人にお金を分け与える、あるいは弱い者いじめをやめさせるためなどに魔法を使って来た。その使命感はどこからきているのだろうか。

「―私はかつて、男性の人間として生まれた。けれど、幼いころから自分の性に違和感があって―短い髪が嫌だったし、男の子の服を着るのも苦痛だった。お風呂やトイレで自分の身体を覗き見るのが耐え難かった。―でも、私は生きたい姿で生きることを認められなかった。親や友人から軽蔑されたり、馬鹿にされた。いじめも受けた。キモイ、死ね、頭おかしいって罵詈雑言も何度も飛ばされたし、暴力も振るわれた。私に味方はいなかった。中学高校でもおんなじだった。私は、思った方向と違う方へと育って行ってしまう自分の身体を呪った。詳しいことは、またそのうち話していくと思うけど―18歳になってから、家出して、おかまバーで働き始めた。そこでは思い切り自分の生きたい姿で生きられたのが楽しかったんだけど……やがて周りとうまくいかなくなって、いじめられた。そして……ひとりも味方がいなくなって、仕事を辞めざるをえなくなった。親戚とも絶縁していて、帰るところはない。何とか普通の企業に就職しようとしたんだけど、就職活動で女性の身なりをしていこうとすれば白い眼で見られたし、男性の服を着れば、長い髪やメイクで違和感を持たれた。私を拾ってくれるところはひとつもなく―私はもう生きることはできないと絶望して、ビルの屋上から飛び降りて死んだの。――それから、私の魂は満たされることなくこの世を彷徨っていた。ある日、きっかけがあって、私は女の悪魔として生まれ変わったの。私が生前、生きたかった姿で、生きたかったように、魔力を駆使して生きようと決めたの。でも、私は今、悪魔として自分の欲を満たすことはできた。かくなる上は―この強い力は世の幸せのために、そう、生前の私のように世界の片隅で泣いている人のために―使おうと決意した。そうして、孤独に世界を飛び回っていたところ、あなたに巡り合ったというわけ。」

 りょーくんはえみるにそう簡潔に身の上を語った。えみるは話の途中から涙ぐんでいて、終わった頃には嗚咽していた。それを目にして、語っている側のりょーくんも次第に声を詰まらせ、語り終えるやいなやえみるに抱き着いて、2人でひたすら泣いた。

「りょーくん……つらかったんだよね……誰にも言えなかったんだよね……話してくれてありがとう。」

 えみるは泣きはらした顔で、りょーくんを上目遣いで見上げる。

「ああ、えみる、ありがとう……私、ずっとこのことをひとりで抱え込んでいたの……今日、あなたに聞いてもらえたことが何より嬉しい。」

「えらいよ、りょーくん……誰にも味方になってもらえなくて、絶望しても、あなたは今ここにいる―私はそれがうれしい。」

「うん……わかってもらえて私はとってもうれしいよ……えみるはいい子だ。」

 一見妖艶でダークなりょーくんだが、心の底は生前のままであったのだ。その使命感は、人間として、思うような生を全うすることが出来なかった無念が昇華したものだった。

「……えみる、ありがとう。あなたのことはずっと離さない。」

 りょーくんはえみるにそう誓った。えみるは、

「じゃあ……りょーくんも、私のそばにいてくれる?私も……ひとりぼっちだから。」

 彼女もまた、りょーくんと同じく、人間社会の中で誰にも顧みられることなく過ごしてきた哀れな魂の悪魔だった。

「ああ、約束するさ、お互いに誓い合おう。」

 ふたりの女悪魔は互いの魂を深奥まで通わせ合っていた。


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