移動か待機か、今後の方針。
えー前回の更新からだいぶ時間が空いてしまいましたこと誠に申し訳ございません。
話の続きを書くことに夢中になっておりまして、後は色々込み合いました結果ですね。また書き溜め? が出来たので一気に投稿します。
さて、本当の意味でパーティーを組んだ。とは言うものの。
次のクエストを選ぶ。という段階でいきなり俺達は躓いていた。
何せ前回の不意の遭遇戦のせいで危険性が跳ね上がり、その調査の為に卵の殻を脱いだ初心者達にとっては主戦場になる森林地帯が封鎖されてしまったのだ。
とはいえ、初級の冒険者達が行く場所は何もそこだけじゃない。農村までの物資の護衛やら、その周辺の害獣退治なんてクエストもある程度存在はする。
だがそれも先達の付き添いがあり、ある程度の遠方のクエストなら安定してクエストを受けられる規模のクランならともかく、精々が結成2~4年の出来立てクランにとっては距離とそれに伴う費用は大いなる壁になるだろう。俺達の様なクランにも加入していない、パーティ単位の冒険者達ならなおさらである。
さらに言えば、現在は霜巨人の月、つまるところ冬の月だ。大半のモンスターは冬眠しているか暖かい土地へ移動をしており、この近辺で金になって冬でも動けるヤツと言えばフォレストギープとかが居るが……それもコンスタントに狩るだけの腕が無きゃなぁ……。
「……あの場所が封鎖された上、今の季節も合わせて近辺で受けることのできるクエストは殆どありません。こうなると、春先までダンジョン都市に移動して稼ぐことも考えなければいけません」
ジェナがそう呟いた。
ダンジョン。彼女が言及したソレは知っての通りモンスターが絶えず再出現し、隠し部屋やモンスターハウスなどのトラップの果てに協力な魔道具や武具の入手できるかもしれない、一獲千金逆転チャンスのある『巨大な魔物』である。
欲に目がくらんだ愚かな者の屍を基にし、他の探索者…ダンジョンを専門とする者を呼びよせるための財宝を創造し隠し、それにつられた者を屍にして更に豪華な宝物を創造する。人間の欲を利用したモンスター。それがダンジョンだ。
どのような起源があったのかは詳しくは分からない。一説によればミミック等の財宝に擬態する魔物からの派生であるというものがあるが、それが真実なのかは俺達には関係の無い話である。
ともかく、それらを目当てに冒険者、いや探索者が集まり、彼らの需要を満たすために商人が集まり、その関係者や、探索者達の為の施設が集まり、そうして都市が形成された。
そのような都市は何時しか迷宮都市と呼ばれ、ナッパロー王国にも大きなものは3つ、それ以下の物は5つほどある。
ある意味、魔物と人間が共依存となっている一つの事例である。
ヨルアクから馬車で乗り継いで1日と少し、或いは徒歩で中継地点を挟んで約11日。そこにナッパロー王国の迷宮都市の一つであり、最大にして未踏破ダンジョンを擁するグラーニト迷宮都市が存在している。
巨大な口を広げ、踏み入る冒険者に命をチップに大小問わず富を与え、不運の女神に見初められた者の骸を栄養にし続ける事87年。未だに最深部に辿り着いた探索者はいない一層一層が広大なダンジョンである。
浅い階層でも未探索の部分が多いからか、冒険者クランの中でも探索者のパーティーを抱えている所も多い。
仮に宝物を発見できなくても、モンスターを倒した際に内臓から魔石が発見される確率も通常より高いので、それをまとめて売るだけでも十分生活していける。少なくとも十分な資本と投資があれば食うに困ることは無い。魔道具のバッテリーであり、或いは夜でも明るく照らす街灯の燃料など需要は多岐に渡るのだ。
と、このようにある程度安定的に動力源を入手できる手段でもある以上、経済資源になっている迷宮の最深部迄の踏破はは許されているが完全攻略は禁止されている。
昔やらかしたパーティーは方面から責任を背負わされ、クランは解散。パーティーのリーダーは責め苦に耐え切れずある日森の奥で首を……と言う悲惨な実例がある為、それ以降はそんな悲しい事故は起きてはいない。
リスクも多いが相応にリターンもある、冒険者と変わらない職業。それが探索者だ。
だから案としては悪くは無いんだが…ジェナの顔色は暗い。それは何故か。
「ですが…それでは通常の冒険者ランクは上がりませんし、何よりジョーさんも文字通りほぼ最初からの再出発になります。それでは申し訳が立ちません」
そう、冒険者と探索者では勝手が違うからだ。
基本的に探索者の登録も冒険者ギルドで手続きが可能なのだが、ランクが引き継がれることは無い。
理由としてまず挙げられるのがダンジョン内での戦闘の勝手だ。
ダンジョンの通路でモンスターと戦闘になる時、背後から襲われ挟み撃ちになったり、あるいはトラップに引っかかり自身のランクよりも上の階層に落とされる可能性もある。
他にも宝物を見つける運と能力、閉鎖空間でも長時間マトモに居られる精神性など、冒険者と求められる力が違ってくる。
どっちがリスクがあるか。と言う話ではなく、どちらも相応のリスクがあり故にランクは共有ではなく、組み分けされて区分されている。
だから、俺が探索者に登録したとしてもいきなり黒級探索者になる。なんてことは無い。
とはいえ、ある程度戦闘能力は評価される為ランク区分の際に多少参考にはされる。多少だが。
「その点は…別に気にする必要も無い。寧ろ、同じ立場になる分、多少は気も楽になる」
とはいえ、ことダンジョンに関しては全くの無知だからなぁ……安全を確保しながらって言うとランクアップのペースも遅くなる。低いランクだと浅い階層の探索しか許可されず、質より量で利益を出さなきゃならない。
冒険者であれば、ある程度の手数料は引かれるが依頼を受けて達成すれば報酬は確実に支払われる。
が、探索者は基本的に依頼は無くフリーでダンジョンに入り、モンスターの素材やら魔石の様な、金になるものを売る必要がある。
毎度毎度そんなものが入手できることなど低いランクの探索者に出来る訳も無く、そこに嫌気が差して冒険者に転向。というケースもざらだ。
一応冒険者でもフリーでモンスターを狩猟して金にすることも可能なんだが……需要のあるモンスターもいるにはいるけどなぁ……ちょっと遠出する必要があるんだよなぁ……。どうするか。
と言うことも含めてジェナに話しておく。
「どうする……?」
鉄級の冒険者になったんだ。パーティーの方針を決める判断もこの時期からやっていかなくちゃならない。
どちらを選ぶにしてもある程度補佐はする。最も、ソロでの経験がどれぐらい役に立つかはわからないが。
「クリス、ルーメン、貴女達の意見も聞いてみたいです」
「そうだね、僕はダンジョン都市に向かう方に一票かなぁ。でも、ダンジョンで効率よく稼ぐ方法を確立しなきゃ干からびちゃう。かといって冒険者として活動するにしても、この近辺だと確か……フォレストギープとか、後はサーベルボアとかマーレーラビットを狩るしかないかな? でもそこまで行くにも、見つけるまで寒い森林の中で野営生活をしなきゃいけない。その出費だって少なくない」
まあ、その通りだな。狩りをするにしても徒歩で行くには距離があるし、馬車で行くにしても金が掛かる。野営も食料やら冬用の装備は……あるにはあるがあれで足りるかと言うと少し不安だ。安くはなかったが少々遠出するには心許無い。
ならば何が正解かと言えば答えは簡潔だ――。
「なら、無理して外に出ずともここで節約しながら過ごすことは出来ませんか?」
そう、『外に出ずに暖かくなるまで待つ』。個人的にはこれが一番良い。いや、他の連中もこの時期になるとあまり外に出ずに街の中で籠る方が多い。
そもそも無理して雪中行軍した結果、「身体を壊しました―ハイ冒険者引退しまーす」ならまだいい方だ。最悪命を落としても不思議ではない。前世でも極寒の国で凍死する人が一定数いるんだ。この世界の冬で都市の外に行くなんてとてもじゃないが出来ない。
「たしかに、収入よりも出費が嵩みかねない場合、残す貯えを決め出費を調整して余裕を持たせる。俺も、最初はそうした」
最も、そんなことしてたのは本当に入って1,2年くらいで後は飲み食いしても殆ど減らなかったが。
他の冒険者? 仲間とワイワイ酒飲んだり娼館行ったりギルド内で談笑していたなぁ……緊急事態が発生しても……対応できるように……ギルドで待機してモソモソボッチ飯していた俺の背後で…………これ以上思い出すのは止めよう。俺の心にヒビが入る。
「…あと2か月。それぐらい待てば、森の生き物も動き出す。それまでの期間待機できる金はあるのか?」
訳2ヵ月間を過ごすだけの貯えがあればギルドの練習場で連携の見直しなり、冒険の知識を蓄えるなり、その後の予定を組むなりして、再び森の動きが活発になる時期に活動を再開する。その時に鍛えた実力や見直してきた連携の再確認をしていけば、早い内に銅級に上がることができる。
そうなれば行動範囲も広がり、受注できる任務の幅も増える。
「あー……リーダー、どうだっけ?」
「えっと………あはは」
「ジェナさん? リーダーとして資金の管理はしっかりしてくださいまし。確か………」
ルーメンの脳内で食費やら宿泊費やら色々算盤を弾いているのだろう。ぶつぶつ呟きながら指を折っている。
恐らく彼女が管理しているんだろうなぁ…俺もどれだけあったっけ? 納付金とかもあんまり気にしてない…あっ
「ルーメン、税金関係もしっかり計算に入れているか?」
計算していたルーメンが何とも言えない顔で俺を見た。変なこと言ったつもりは無いんだが……
俺の言葉を聞いたルーメンはため息を吐いた。まあ、そうだよな、彼女がそんな事を頭に入れていない訳が――
「ジョーさん、名前だけの制度を律儀に守っていたのですか?」
え?
「どう言う、ことだ?」
深くため息を吐いてルーメンは説明してくれた。
「まず、我々冒険者は基本的に腕っぷしと命を切り売りしている根無し草のロクデナシ集団です」
そうだな。全く以てその通りだ。後の無い奴等を犯罪者落ちさせないための防波堤の意味もあるからな。今となっては冒険者のモラルも質も上がってきているから割合としては半々だが。
「命を落としても確実に分かるわけでもなく、どこにいるのかも把握しづらい。そんな彼等から税金を取り立てたところで、掛かる費用と収入の割が合わないのです」
そうかな…そうかも……考えてみればその通りだな。
「ですので、殆どの都市ではギルドから一定の範囲に出店している商店、或いは飲食店から税を多少多くとっているのです。当然、そうなればギルドの周囲は税を徴収されても痛くも痒くも無い、それだけの利益を得ている実力のある商店が残る。という事にもなります。また、ギルドで報酬を受け取る際の仲介手数料の中に恐らくは税金が含まれているとは思いますが……」
成程……詳しいな。
「ギルドの規約には一通り目を通していますし、一応貴族の方々とご対面する機会もありますから、それ相応の教育を受けていましたの」
「凄い! ルーメン計算できたんだ!!」
「ちょっと、ジェナさん抱き着かないでくださいまし」
あら~^ほっこりする光景ですわぁ~^^
「で、ルーメン。その、貯金は大丈夫なの?」
クリスの言葉で正気に戻った。いかんいかん、真面目に方針を決める話し合いが脱線しかかった。
「安心してください。つい最近臨時収入が入ったばかりですので、3食に1食ちょっとしたスイーツを加える余裕も御座います」
なら大丈夫だな。
ただどの案にするのか最終的に判断するのはジェナだからな。そこは間違えてはいけない。
「うーん………」
肝心の彼女は唸ったかと思えばそれっきり黙って思考を巡らせ始めた。冒険者としての今後を決める大事な選択だし無理もないか。
「……決めました! この街に留まって時期を待ちます!!」
決断が早くない? いや冒険者として即断即決は大事だが…
「はい! ルーメンの意見を聞いてから色々考えて、貯金が十分にあるって聞いてから殆ど決めていました。一応考えてはみたんですが、不安定なところにお金掛けるくらいなら少し待ってしっかり稼ぐ方がいいです!」
ああ、もう腹は決まっていたのか。
じゃあ、まあ、そうだな。うん。
今日は方針も決定したし解散と言う流れに――――
「なので早速ですがジョーさん。指導をお願いします!!」
え
「あの時のジョーさんの様な即座な状況判断能力を身に着けたいです!」
「……別にいいが、他の二人は?」
「わたくしは今日はパス致しますわ。宿に戻って詳しく今後のスケジュールを調整する必要がありますので」
もう事務作業を担当するつもりでいる……クリスは?
「僕もパス。ルーメンが居なきゃ連携の確認もできないし。と言いたいところだけど、レンジャーとして知識は欲しいからそっちの方で教えて貰おうかな」
ああ……うん。了解。
俺も本当は口座確認しようと思ったんだけどな……別にルーメンの言葉が胸に刺さったからじゃないぞ?
本当だぞ?
色々解説
・ダンジョン都市
作中にある通り。主要な産業として魔石がある。異世界版鉱山都市。ダンジョンの一番底にいるダンジョンコアを破壊すると崩落を起こし、二次災害も発生しかねないので討伐は禁止されている。
なお増えすぎた場合は国に報告されて計画的討伐が行われる。
・ナッパロー王国の冬について
雪が降る。乾燥した風が吹く。基本的に国民は都市に籠り、経済活動も落ち着く。
・フォレストギープ
シープ(羊)とゴート(ヤギ)の混血のギープと文字通り森が由来。
書いて字のごとく羊の毛量とヤギの運動能力を持つ。数10頭の群れを形成し、冬になると後述する樹木の皮や春に向けて実った栄養を貯めている木の実を食べる。
被毛は夏、冬問わず衣服として人気があり、特に冬毛は布団やコート等に人気。
肉は癖はあるが、調理次第で気にならなくなる。引き締まっているので煮込み料理などで長時間調理すると柔らかく食べることができる。
・サーベルボア
真っ直ぐに突き出た剣の様な角が特徴。鋭さもあるので突進と切り払いが厄介。毛皮、肉は無論、角も初心者用の槍に使われる。数匹の群れで行動する。天敵に遭遇すると円状に陣形を組んで子供を守る。
子供がいない群れは一列で隊列を組んで突進してくる。厄介。
・マーレーラビット
冬でも活発に活動する兎。毛皮は小物、肉は食用。
・ナッパロー王国の樹木
針葉樹が主に広がっている。秋ごろに大量に実を着けるため多くの草食獣の主食になる。雪が降ると感知して爆ぜることで遠くの地面に落とし、雪の下で越冬する。雪解け水と共に芽を出し、成長を始める。それも冬眠明けの動物たちの貴重な栄養源になる。多くの動物が食し、その排泄物が養分に変わり、ナッパロー王国に広がる森林の生態系を支える樹木群がつける実に詰め込まれる。
・冒険者の税金関連について
基本的に消費税(の様なもの)以外に払っていない。固定して住んでいる訳じゃない、生死不明も把握できない連中の税金を取ろうとしても寧ろ費用が掛かるのであきらめてその周辺の関連店舗から税金を多くとったり、報酬から中抜きすることでその補填に回している。
なお主人公は有名無実になっている税金を律儀に払っているのでギルドの人からあの見た目で几帳面なところもあると思われている。なお本人はどれぐらいあるのかざっくりとしか把握していない。
主人公はパーティーに個人で稼いできたお金を渡すことは考えていません。お金を渡すとパワーバランスが生まれてしまうので……
パーティーで稼いだお金はきちんと仲間と同じ金額を渡しています。そこはパーティの一員としてしっかりしています。