最年少の男、最年長の少女
クエストから撤退して5日が過ぎた。
暇だった……。とても暇だった…………。
いやぁ、どうにか追手をぶちのめして生き残りを撒いて逃げてきたは良いんだけどさ、起こった事が事だからね。さっきまで事情聴取と万が一の為に待機していた。
ジェナ達も別室で彼是聞かれていたな。
で、その間一人で別室にいた訳だけども、暇だからね。今回のクエストに関して色々と反省点と言うか彼是やりようがあったんじゃないかとね、自問自答しちゃうわけですよ。
あの時正しいのは全員に戦わせることじゃなくて俺だけ残って時間稼ぎすればよかったんじゃないかとか、ゴブリンじゃなくてスライムとかの知能のないモンスターの討伐の方が良かったんじゃないかとか。
いや―――そもそも実力が違う者同士でパーティーを組むべきじゃなかったか。
誘われた時は俺も浮かれて二つ返事で承諾しちまった。後先考えずに、アイツ等の為になると色々独り善がりに行動した。これはそのツケだ。
この騒動が終わったら改めて話し合って、信頼できるクランに彼女達を入れて貰うように頭を下げて頼み込もう。いきなり入れてくれと言われて了承するクランがあるかな……。
そんな一人反省会兼待機時間を乗り切った俺達は、取り敢えず後2日は休養と整理の為に各自解散といった感じである。
クエスト行かなくて大丈夫か思うだろうが、待機中も聴取の間も一応『情報料』と『待機報酬』、後はギルドからの『保険金』に『口止め料』としてまあまあ、いや殆ど情報と保険金の値段が高かったか、取り敢えず報酬は貰っている。俺はともかくとしてデビューして間もないジェナ達にはありがたい物だろう。
「……いつもの」
「あいよ! 今日は一人かい?」
「……嗚呼」
「相変わらず暗いけど今日は特に暗いねぇ! あんなカワイイ娘達と冒険してるんだから、もうちょっと明るくしな! 特別に今日の分はちょっと多めによそってあげるから!!」
「……嗚呼」
世話焼きのばぁさんからいつもの料理を受けとりいつポジ(いつものポジション)で一人モソモソ食事をする。
「おい、あの人今日は一人であそこに…」
「まさかとうとうヤって……」
相変わらず失礼だなこいつ等……前にも同じようなこと言ってなかったかあの二人組?
……しかし、真面目に考えて本気であいつ等とパーティーを組むのを止めるとして、もう一人が加入してくるか或いは3人でも問題ない水準まで連携と練度を高めるまでどこかのクランに面倒をみて貰う。としてだ
――ギルド内でコネクションを持っていない俺がいきなりクランに取り次いだとして、受け入れられると思うか?
いや、俺の立場と力関係の観点でいえば『表面上』は受け入れるだろう。ぞんざいな扱いもされないだろう。
しかし、クランの仲間はどう思う? それこそ俺のコネでクランにねじ込んでもらったと思うのが大半だろう。
チートにかまけて欠点から逃げて来た弊害が此処で出てくるかぁー。
冒険者において、いや全てにおいて人間関係は重要だ。俺みたいな力一辺倒の人間が一人で生きていく分には必要最低限の人間関係を構築していれば問題は無い。
だが彼女達はどうだ? 新米冒険者のアイツ等は当たり前だが他の冒険者にそんな力は無い。誰かと連携して、リスクを、負担を分散して、数による火力に頼っていかなきゃいかん。
……本当に嫌になる。一人でクエストをガンガンこなしていた時はこんなこと考えずに、機械的に生きて来た。誰とも関わる必要のない分、ある種気が楽だった。
だがそんな生活を続けてたら多分遠くないうちに何処かで壊れる。ジェナ達と組んでから久しく誰かと交流して、人間的な生き方を思い出した。
……だが、結局俺の怠慢と傲慢で命の危機を招いた。
あの撤退戦、全力を出せばパーティーに被害が及び、加減しようものならその隙を突かれてパーティに危害が及ぶ。
あいつらも戦ってはいたがゴブリンを同時に2,3体相手できたのが精々。
俺が請け負っていたジェネラルとライダーはそれを知っていたのか隙を見せればすぐに抜けてそっちに行ってた。互いにギリギリだったのだ。あまりの実力差故に。
俺が教官気取りで次々クエストの難易度を上げた結果だ。
……やはり俺は誰かと組むべきではなかった。
本格的に何処のクランに預け、どうやって円満に受け入れてもらえるか考えて―――
「あれ~!? 珍しいね、キミがスプーンを止めるなんて!」
唐突に聞こえた声に思考が止まる。
心なしかギルド内が騒がしくなっている。
「何か悩みでもあるのかな? 良かったらおねぇさんに話して見ない?」
声のする方向に目を向けると珍しい人物がそこにいた。
少女ほどの背丈に可愛らしいピンクのドレス。そして手に持ったファンシーな見た目の杖。
――数少ない俺と同等の最上位、黒色のプレートを持つ冒険者、二つ名を『魔女っ娘☆エリー』。ギルド、いや王立魔術研究所屈指の魔術師と同等、限定的な魔術の行使においてはそれ以上の実力を持つ魔術師がそこにいた。
最も魔術師と言う名称を彼女は嫌がる。
曰く、『可愛くない』とのことらしい。よくわからん理屈だが黒級は大体こんなもんだから気にしていない。
「…………」
ああ、駄目だな。やっぱり慣れてきたとはいえ急な会話になると咄嗟に口を開けないのが恨めしい。
「ひょっとして、最近のウワサについての事かナ?」
「……!」
「あ、正解みたいだネ☆」
俺の反応で察した彼女はよっこいせ、と隣の席によじ登り腰を下ろす。
「どれどれ、おねぇさんがバチッと解決してあげるっ! 安心して、おねぇさんこれでも人生経験豊富だから♪」
はたから見ればこっちが年上で彼女が年下に見えるだろうが、彼女は自身を年上として振舞っているが、それは決して自称ではない。
と、言うのも彼女は―――
「おいおいまじかよ、黒色冒険者が二人もいるなんて珍しいな」
「ああ、片や最年少でのし上がった『沈黙の巨人』、片や長耳亜人の最年長―――」
「何か言ったかナ?」
そう、黙らされた失礼な冒険者達の言っていた種族名の通り、普通の人間よりも長い笹の葉の様な耳。
わかりやすく言えば彼女はエルフである。しかも最低でも二、三百年は生きている。人生の先輩などと言うチープな言葉では表現できない人なのだ。
お分かりだろうか、そんないい歳をした人が魔女っ娘と名乗り、しかもどこで知ったか魔法少女のコスプレをしているのである。
言葉を選ばずに言うなら―――うわ、キツ――――
「ん~? キミも何か失礼なこと考えていたりするのかな? カナ?」
いえ何でもないです。
色々解説
冒険者のランクについて
ざっくりと以下の通りです。
・革…新米。簡単な採集クエストや雑務をクランの仲間と共に行動し、名前と伝手を色々覚えていく。大体1~3か月で抜け出す。
・鉄…クラン内でも同じくらいの仲間とパーティーを組む。パーティーの信頼と連携を育んでいく。採集クエストに加え狩猟クエストも受けれるようになる。現時点でのジェナ達のランクはここである。ギルド全体の凡そ2割方がこのランクであり、その大半がこのランクで終える。
・銅…一般的。ここからがよく知られる冒険者と呼ばれる。凡そ5割がこのランクに属している。
・銀…ベテラン。凡そ2割~3割がこのランクに属している。
・金…限られた上位陣。凡そ1割がこのランクに属している。
・黒…化け物。主人公のいるギルドでは主人公入れて6人。他のギルド支部に至っては一人~三人いればよい方で、全くいない所もある。基本的に自由に動いているのが殆ど。
クラン
冒険者達による相互補助組織。新人の教育やパーティー斡旋を行っている。クラン同士で交流ある所もあれば、ライバル視している所、犬猿の仲の所もある。
交流あるクラン同士で緊急的にパーティを組むこともある。
クランハウスを持つが、規模や所属する冒険者の数や稼ぎ具合によって設備や規模が異なる。
主人公が面倒くさい陰キャムーブをかましている? 前世からの筋金入りの陰キャなので……