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ギルド長の苦労、少ない成果

 深夜を過ぎ、酒場の明かりも消えた都市ヨルアク。

 冒険者ギルドの一室だけが魔石光によって、活動するに申し分ない明かりを灯していた。


「……報告は確か。なのだな」


 巌の如く押し黙っていた男の口から重々しく言葉が漏れ出た。

 ギルバート。冒険者ギルドの長であり、数々の任務と冒険によって培われた経験に加え、冒険者上がりにしては珍しい組織経営能力で数々の危機を柔軟に乗り越えた男である。

 そんな男は、昨日にギルドに持ち込まれた報告の対応に一睡も出来ずに対応していた。


「はい。先程送られた調査隊からの魔導通信文からも可能性が高いかと」


 報告書を手にした補佐の男の言葉にギルバートが皮肉気に笑みを浮かべる。


「可能性が高い。か……本当の所、概ね確定しているのではないか?」


「……まだ正式な調査報告書が来ていないので、何とも」 


「だろうな。君の立場ならそう言うしかない」


 そう、例え9割方可能性が在ろうとも残りの1割の不確定要素があるのなら、或いは確りとした情報が無ければ安易に首を縦に振ることが出来ない。それが補佐と言うものだ。


「で、件のパーティーはどうしている?」


「現在『沈黙の巨人』以外は秘密厳守と、詳しい状況の聴取の為にギルド内の一室で待機させています」 


「彼は?」


「『沈黙の巨人』ですが…キングの存在が確認された時に受注いただけるよう協力を要請しています」


「……『紅蓮双』は?」 


「いつも通りです」


「………『重鋼騎士』は?」 


「いつも通りです」


「…………『魔女っ娘☆エリー』は?」


 縋るようなギルバートの言葉を、補佐の男は諭す様に切り捨てる。


「ギルド長、ご存じの筈です。『沈黙の巨人』と並ぶ彼等の殆どが自由奔放な方々だと。寧ろ彼の様な常識を持ち合わせている方が異常です」


「分かっている……わかっている。結局彼に頼むしかないのか……」

 

 ため息とともにギルバートの大柄な体が萎んでいく。

 まだ夜は明けず、ギルドの明かりが消えることは無い。


 報告にあったゴブリンの集落。調査を担当していた調査隊隊長は心の中で呟く。


 最初に接敵した冒険者達が撤退する際に交戦した死骸の中に、確かにジェネラルの存在を確認できた上に、懸念されていた通り他集落の存在も確認された。

 規模としては前回キングが築いた『王国』のそれよりは小さいものの、残された生活の痕跡は遜色ない水準の物である。

 ふと、テントの中にある作りかけの石槍を手に取る。

 枝を選定し、石の質に拘り、尚且つ補強まで施しているそれは、蛇獣人や犬獣人などのある程度知能を持ち、且つ集団で暮らす亜人種と大差ない出来である。

 他にも簡易的な文様が掘られた食器、或いは衣服の類―――通常のゴブリンでは到底思いもつかないことがこの集落では当たり前のように普及している。


 だからこそ、妙なのだ。

 この集落だけでなく、他の集落迄もぬけの殻。などと言うのはあまりにも不可解であるのだ。


「…何もなければ良いのだが」 


「どうしました隊長?」


 呟いたつもりが近くの隊員には聞かれていたようだ。不思議そうに聞き返してきた彼女に何でもないと伝え、再度現場の検分を再開する。

 何か、一つでも手掛かりが見つかることを祈りながら。

 正式な調査報告書が関係機関に提出されたのは、それから更に3日後の事であった。

 


 


 緊急調査報告書


 


概要


 


 当調査は冒険者ギルド ヨルアク第一支部に在籍する黒色冒険者、ジョー・バーアライド士爵が所属するパーティーがクエスト中に発生したランク外モンスターと遭遇。数時間の撤退戦の末ギルドに帰還。事態の報告を受け、調査団による緊急調査を開始。


 


結果


 


 撤退戦が行われた場所にてゴブリンジェネラル1体、ライダーとその騎獣18体、通常のゴブリン多数の死骸を発見。これにより過去の事例を参照し、ゴブリンキング(以降キングと略称)が『建国』しその領地を広げる為に複数の開拓地を近辺に展開している可能性有りとして調査を開始。


 当該パーティの目標として定められていた集落及び周辺で発見された集落からは通常のゴブリンの集落よりも水準の高い武具と道具類が発見。また、比較的規模の大きい集落では供物が添えられていた木製の像を発見。形状からしてキングの物かと思われる。


 しかし、以降の調査において集落間の交流の痕跡は見つかったものの、これ以上の詳細な情報は発見できず。

 更に調査開始時点、及び調査中全ての集落においてゴブリンの姿が発見できず、追跡することも現状の装備では不可能。

 よって、これ以上の調査の続行及び追跡は不可能であり、ついては本格的な調査隊の編成が必要かと思われる。


 


 


作成者:緊急調査団団長 マルガス


 




「………私の眼がおかしくなっていなければ、煙のようにゴブリン共が消えたと書いてあるのだが、どうだねカイン副長?」 


 3日に及ぶ調査の結果としてはあまりにも少ない情報が記載された報告書と、それに付随する周辺集落を記した地図を机の上に戻しギルバートは補佐たる副長に意見を求める。


「残念ながら私の眼にもそう見えます。幻術かと思い何度も読み返しましたがその文章は本物です」


 が、彼の無情な言葉にギルバートは肘を机に置き頭を抱える。


「これは面倒なことになったな…いや、どちらにせよ面倒ごとであることには変わりはないが……」


「如何します?」


「在籍する冒険者に通達して当該区域を封鎖。本調査に向けて王城へ書簡の用意。……こういった堅苦しいものは書きたくはないのだが」


「諦めましょう。こういった組織を纏める以上、否が応でも国家への報告も行うこともあります。今回はどちらにせよ、王国の危機になりかねない場合なので書簡を書かなければなりません」


 短い沈黙の後、幾度目かわからないため息を吐き机の引き出しから書類一式を取り出し、王城に要請を求めるべく認める。


「…ああ、カイン副長」


「何でしょう?」


「『沈黙の巨人』、いやジョーと、確か…」


「ジェナさんですか?」


「そうだ、彼女達は帰してやれ、これ以上待機させることも狭い部屋に複数で詰め込む必要もない」


「分かりました。ただ、懸念事項が…」


 承諾言葉の後に続いた彼の言葉に、またかとギルバートは呆れながらも言葉を遮るように口を開く。


「分かっている。が、それはまだギルドが首を突っ込む段階にはない。当人達の判断に身を任せる他無い。我々は良くも悪くも『そういう』組織でもある。危険の多い職に就いている以上、全ての判断は『自分自身の責任』か『その集団を率いる者』の責任だ。我々は冒険者達の親ではない」


「……わかりました。一先ず、今のところは経過観察に留めておきましょう」


「真面目なのは良いことだが、あまり入れ込みすぎるな。いつ何時命を落としてもおかしくはない者たちなのだ」


「…ええ。承知の上です」


 失礼します。と多少暗い影を落としたカイン副長の言葉と共に、ドアの開閉音が響き渡る。

 

「相変わらず冒険者に入れ込むのは悪い癖だ。まあ、気持ちはわからんでもないがなぁ……」


 残るは独り言ち、四苦八苦しながら書を認めるギルド長が走らせるペンの音のみ。



此処まで読んできださった方、ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします

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