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初の討伐、唐突な危機

 ジョーです。今日も今日とて元気にクエストに向かっています。


 普段の行って~帰ってきて~報告して~の繰り返しで死にかけていた心が復活してきて少し楽しくなっています。

 最初は面倒くせぇ……ってなってたのにね。自分のことながらチョロくない?


「おはよーございます! ジョーさん!!」


 ギルドに入ってすぐに聞こえる元気のいい声に軽く手を上げる。


「それで、今日はどのクエストに行くのですか!?」


 その言葉に一瞬考える。

 ここいらで自生している薬草も毒草も一通り教えた。自分で見分けがつくくらいには知識が付いた。

 ならば次は討伐系のクエストでも受けるか。


 掲示板でちょうど良い物って言えば……ここ最近できたばかりのゴブリンの集落の破壊かなぁ? この程度なら多分いけるだろ。

 張り紙を引っぺがしてジェナに手渡す。


「ゴブリンの討伐…! ついに討伐系のクエストに向かうのですね!」


 やっぱり採集系のクエストは少し物足りなかったのか渡された紙を嬉々として受付に持っていく。

 受付嬢が受注処理を終えて街の出口に向かう。


――あ、そうだ。全員準備は済んだか? 忘れ物は無いか? 傷薬の数は? 使用期限は大丈夫か?


 初めてのパーティーで浮ついていた事、自分の実力と周囲の差の認識を小さく見ていた事、そして自分の技量を過大評価していた事。

 その甘い認識のツケを支払う羽目になると、この時俺は思いもしなかった。


 



 俺達はゴブリン達が築いている集落――の近くで野営を設置した。 


「…今回の、クエストは、ただ討伐、するだけじゃない」


 まだ話慣れてないからちょっと聞きづらいかも知らないが頑張って聞いてくれ。 


「まずは、ゴブリン達の、一日の動きを、観察して、どれぐらいの規模なのか、知る必要がある」


 そう言ってクリスに視線を向ける。


「…この中で、隠密に長けているのは、クリス。君だ」


 指名を受けた彼女は軽く頷き、装備の点検を始める。


「ただし、万が一見つかった時は、無理せずに、すぐに撤退してくれ。連中の、知能は高くない。ある程度、距離を稼げば、すぐに見失う」


 聞き終えると、クリスは自身の身体能力と軽装故の身軽さで木の枝に飛び乗り、ゴブリンの集落に向かった。


 



 クリスは集落を見渡せる崖上の茂みでゴブリン達の動きを観察していた。


――集落の規模は凡そ20匹、雌より雄の方が多い印象。探索と狩りに4,5匹の塊で向かう。


――基本的なゴブリンの集落に見える。ただ、簡素な掘立小屋が乱立している中心部に装飾が施されている建築物が見える。リーダーの物かと思われる。


「…こんな所かな」


 凡そ2日の観察で収集を終え、一人呟く。

 そろそろ撤退して情報の共有をして計画を練ろう。

 討伐クエストと聞いて単純なものかと思えばこのような複雑な手順が必要だとは……


 と、言うかこれを最初の討伐クエストにする? 意外と鬼畜なところあるなぁ……

 などと思いながら立ち上がろうとしたとき、聞こえて来た大きな物音にそちらを見た。

 その光景を見て、クリスは目を見開き、急いでジェナ達に合流するべく森の中を駆け抜けた。



 


 クリスが戻ってきたのは夕暮れ、日が地平線に沈み切る前。


「想定外の事が起こった」


 開口一番に発せられた言葉にいち早く反応したのはジョーだった。


「…何があった? 気取られたか? 傷は無いか?」


 少し離れたところで火の番をしていた彼は瞬く間にクリスの前に移動し、立て続けに身を案じる言葉を掛ける。それに大丈夫と返しながら報告する。


「僕の見立てだと、典型的なゴブリンの集落だと思っていた。けど、ゴブリンライダーが集落に来たのと、集落にゴブリンジェネラルがいたんだ」


「……集落の建物の数は?」


「恐らくライダーたちの数も含めると少ない、かもしれない」


「ライダー達は何をしていた?」


「ジェネラルと何かコミュニケーションを取って、そのまま集落から出て行った」


 それを聞いてジョーは思考する。

 集落の規模に対してゴブリンジェネラルがいる違和感。集落に来てすぐ立ち去ったゴブリンライダー。

 

―――既視感。数年前に見た報告書に記載されていた状況とほとんど似ている。


 確か、中級の冒険者のクランで殲滅に向かい―――殆どが壊滅。結果上級クラン複数で対処することになった。

 その時にいたのは―――嗚呼、不味いな。


「撤退だ」


 俺の言葉に驚く面々。


「急いでギルドに、報告する必要がある。ことによれば、中級冒険者でも対処できない。更なる調査が、必要になる」 


「ど、どうして? 確かにジェネラルは強力ですが中級のパーティーで討伐可能な筈…」


 ルーメンのその言葉に撤退の準備をしながら結論を返す。


「ゴブリンキングが、いるかもしれない。それも、複数の集落を、統率している可能性もな」


 ゴブリンキング。ジェネラルを取り巻きに置き、数百にも上るゴブリンを統率する王。その規模は集落、街を超え、国と称されることさえある。

 集落にライダーが来たという事、ジェネラルがいるという事からクリスが見た集落はいわゆる開拓地。

 ライダーは情報と物の物流を兼ねているのだろう。もしかしたらまだ同じような開拓地が複数あるかもしれない。


 それを調べるためにもギルドで専門の調査隊を派遣して貰う必要がある。仮にここで残るとしてもジェナ達がいるのは大きな枷になる。

 どちらにせよ、すぐさま撤退するべきだ。


 と、説明しながら野営地から離れようとした時、周辺に漂う獣臭と殺気に気が付いた。


「ごめん。気取られてた」


「…謝る必要は、無い。初級冒険者には、荷が重い相手だった」


 数騎のゴブリンライダーとそれを護衛するようにゴブリン達が現れた。どうやら残った僅かな匂いを追ってきたらしい。


「全員構えろ! 君達は動きの鈍い取り巻きを片付けるんだ! ライダーは俺が片付ける!」


 パーティーを組んで初めて聞く鋭い声に総員が己の武器を構える。

 パーティーの初にしては過酷な戦闘が始まった。





 ゴブリンライダーの操る騎獣を乗り手諸共纏めて切り捨てる。

 周囲を見ればライダーだけでなく、ジェネラルまで出張ってきた。

 背後にはゴブリン数体を相手にしているジェナ達。既に限界がきているせいか、連携が取れていない上に集中力も散漫になりつつある。

 不味いな、時間を掛けすぎた。これ以上戦闘が長引くと最悪の想定が現実になりかねない。

 とはいえ、簡単に抜け出せる手段が思い浮かばない。

 隙を見せればライダーが背後のジェナ達に牙を剥きかねない。しかし本気を出せば出力の調整も難しい性質上、味方にも被害が及びかねない。

 

「ああっ!」


「ッ! ルーメンさん、大丈夫!?」


 ルーメンの背後からゴブリンの槍が襲い、避けきれずに腕に喰らってしまう。

 ローブが裂け、傷口から流れる血がその周囲を汚す。

 すかさずジェナが襲った奴を、クリスが次に襲い掛かろうとした奴に矢を打ち込んで処理した。


「ええ、それほど傷は深くは無いのですが……魔力が心許ないですわね」


「僕もだね。矢のストックもあれで最後」


 しまったな……後衛職の彼女達は消耗する物が多い。魔力を回復する手段はあるにはあるが、この状況でそんな時間は無い。

 クリスもマチェットに持ち替えてはいるが、俺達の持っている剣と比べても近接能力は劣るだろうし、本人もそのスキルはほぼ無いに等しい。

 

 ……味方の被害とか気にしている場合じゃないな、《今出せる全力》を出そう。命には代えられん。


「ジェナ! 全力を出す! 合図を出したら君達は地面に伏せてしがみ付くんだ!!」


「へっ!? あ、はい! わかりました!!」


 ありもしない隙を見て攻撃を仕掛けて来たジェネラルを切り伏せ、大剣を大振りに振って連中に距離を取らせる。これで逆に連中が隙を晒すことになる。


「今だ! 伏せろォッ!!」


 力を込めて周囲を薙ぎ払うように剣を一閃させた。

 風が吹き荒れ、勢いで引きちぎれた木々が土埃と一緒に宙を舞う。

 周囲にいたゴブリンも当然、同じような結末を辿った。


「大丈夫か!?」


「はい! 何とか!」


 土煙の中、声を頼りに何とか耐えきってくれたジェナ達を担いで俺達は逃走した。

 ……ソロの時の気分で挑んだ、いや挑ませた結果だ。こいつらの事を何も考えちゃいなかった。

 この件が終わったらちゃんと話し合うべきだな。

色々説明。


ゴブリン:大人のゲームに登場するような見た目で雌雄が存在する。普通に交尾して普通に増える。異種族間では子は作れない。一度に産む数が2~5匹、凡そ2か月で成体になる。年中発情できる。時折特異個体としてライダー、ジェネラル、キングが生まれる。キングがいる群れは全体的に知能が上がり、群れの規模を大きくする。最大で一国を形成した時は最早駆逐ではなく、戦争。

 ライダー、ジェネラル、キングの順で生まれる確率は低くなる。特に、キングの生まれる確率は数十年に一度あるかないかであり、数年越しに生まれることはほぼ奇跡である。


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