若干の後悔、微妙な勘違い
引き続き当作品を宜しくお願い致します。
はい。只今新米冒険者『達』とクエストに来ているジョーです。早速ですが若干後悔しています。心が折れかけています。
所詮は前世から引きずっている筋金入りの陰の物。純真な娘っ子達の指導なんてどだい無理だったんだ。
達と言う言葉が新米冒険者の後に付いている通り、出発前に「職員の方にパーティを組むことをお勧めされたので探しました!」と連れて来た新人が二人いる。
まずは最初に俺に話しかけて来た金髪の明るい少女。確か名前は『ジェナ』。俺と同じ辺境の村から来たみたいだ。とはいえ俺の所とは違って気候も温暖で作物もよく育つところだったみたいだ。後は遠くに見える緩やかな山々が美しいのと祖母が作る焼き菓子が絶品だという事も話してくれた。何も聞いてないのに。武装は所々板金で補強した革鎧に両手剣。
で、だ。その後ろの二人の一人目。ぶかぶかのとんがりハットに大きい杖、そしてバッグの中に魔導書。名前を『ルーメン・カルドナルド』。このいかにもな格好の通り、彼女は魔術研究会カルドナルド一派から名乗ることを許された新人であり、実地経験と更なる見分を深めるために冒険者ギルドに入ったらしい。
最後の一人は……王立治安維持団の入団試験に落ちて冒険者で暫く食いつなぐ予定の『クリス』。三人の中で一際軽装だ。深緑色のフード付きマントと革鎧、腰に二本のショートソードと背中に弓と矢筒。
いやコミュ障じゃないんかーい! と言う突っ込みはさておいて、(もし)まともに冒険者で食い扶持を稼ぐつもりなら一人になってしまった時の対応を一通り教えて後は受付嬢に渡して適当なクランにでも放り込んで貰おうとも思っていたんだが……パーティを組めてしまったのなら今のところは問題はなさそうだ。残念なことに。
あれ、コミュ障でもないのに何で俺に最初にパーティの誘いをしたんだ?
「あの、ジェナさん? 隣にいらっしゃる殿方は、わたくしの勘違いでければ『沈黙の巨人』ですわよね? 何故彼が新人のわたくし達のパーティーにいらっしゃるのでしょうか……?」
「そうなのですか!?」
「まさか知らずにパーティー組んでたのですか!?」
……えぇー…………。
少女、ルーメン・カルドナルドはジェナの言葉に思わず潜めていた声を張り上げた。
ギルドに加入し、これからパーティーを組むか加入しようか。そんな折に出会ったのがジェナだった。
同時期にギルドに加入したという彼女は、メンバーを2人探している所であり、丁度後衛職だった自分に声を掛けたのだという。
冒険者になる時にパーティーの重要性について説明を受けている以上、彼女の誘いに断る理由も無く直後に勧誘されたクリスと共にジェナのパーティーに入ることとなった。
既に加入している一人とは後日クエストにて顔合わせをするということで、その日は各自の宿に戻り当日を待った。
クエスト当日。彼女、いや彼女達は目を疑った。
集合場所として指定された場所にはジェナと、冒険者でなくともその名を知らぬ者はいない、『沈黙の巨人』の姿がそこにいたのだ。
一瞬他人の空似かとも疑い、よくよく観察してみる。
巨体から放たれる威圧感、その丈と同等の大剣、そして―――数々の傷跡と、その中でも一際異彩を放つ、上半身の大半から首まで伸びる火傷跡。
そして首からぶら下げている黒い冒険者識別板。
とても他人の空似には見えない。正真正銘、『沈黙の巨人』ジョーがそこに居る。
思わず眩暈がした。
単独を貫き、尊敬とそれ以上の畏怖を集める伝説の人間が何故、こんな新米パーティーに居るのだろうか。
そんな疑問の意味も込めて尋ねてみれば、返ってきた言葉がコレだ。驚かない訳が無い。
隣で歩いているクリスも心なしが驚きと呆れを混ぜたような瞳でジェナを見ていた。
「ちょっと待って? じゃ、じゃあ何も知らずに組んだってこと?」
「はい。ギルドの方に組むことを推奨されたので、丁度一人で食事をしていたジョーさんに声を掛けたんです」
なんてことだ。辺境の村でさえその雄姿は伝わっているというのに、この娘はそんな辺境と言う言葉すら生ぬるい様な所から来たのだろうか。
「『沈黙の巨人』については知らなかったの?」
「いえ、色々なお話を聞いていたのですが声を掛けたのがその人だとは思わず……」
…確かにそうですわ。聞けばギルドの広場で一人食事をしていたみたいですし、そんな中でギルドに入りたての、誰からも何も教えて頂いていない状況ならそういうこともあるのでしょうか……? いえ、あり得ませんわ。そうだとしてもあの威圧感を無視して声を掛けられるのは普通じゃありえない。
静観を貫いてきたクリスの質問に返されたジェナの言葉に一瞬納得しかけたルーメンだが、すぐにそれを否定した。
あの巨躯から発せられる威圧感は入りたての冒険者では前に立つこともままならない。それをいとも容易く乗り越えて声を掛けれるのはジェナが鈍感なのか、或いは大成するだけの器を持っているからなのか。
そもそもの疑問と言えばもう一点。『沈黙の巨人』が新人とパーティーを組むことを是とした理由である。
親切心だろうか。そう考えて彼を見上げる。
荒々しい山肌の様に隆起した肉体。そこに色濃く残された傷、どんな指名手配犯の似顔絵にも勝る凶悪な顔つき、昏く濁ったような眼。
とてもじゃないが親切心の欠片も感じることが出来ない。日和見気味な仮説はすぐさま霧となって消えた。
ならば直接質問するか? しかし素直に声に出したところで彼が返してくれるのか。「無礼者」と一蹴されて大剣で身体を真っ二つにされるのではないか?
考えれば考えるほどに理解不能という恐怖と共に後悔の二文字が脳を支配する。
――嗚呼。お父様、お母様、お師匠様。何代も続いた魔術師としての家系、そして研究会の一員としてのわたくしの旅路は早くも終わりを迎えそうです。どうかこの不孝者を―――
と届かぬ思いをこの場に居ない両親へ向けたところで前を歩いていたジェナの背中にぶつかる。考え込んでいるうちに目的地に着いたみたいだ。
「……此処が、薬草、採集の、場所だ」
ジョーの口から重々しく言葉が発せられる。見渡すと辺り一面に群生している薬草が見える。
その言葉を聞いてジェナが元気よく言葉を返す。
「ジョーさん! 何故野生の薬草を採集する必要があるのでしょうか? 街では薬草を栽培している場所があると聞きました」
確かに街には栽培施設がある上に、そちらで作られる傷薬の方が効果は高い。命知らずな発言はともかくルーメンも気にはなっていた。
「……用意した、傷薬が尽きた時、すぐに現地調達出来るように、する必要がある」
確かにそうだ。冒険者は常に予想外な事象に遭遇する確率が高い。
手持ちの物が無くなった時、身の回りにあるものに頼る頻度は多くなるだろう。そんな時の為の知識は千金にも値する。
「薬草になるのは、これだけじゃない。他にも種類はある。似たような毒草も、ある。見分ける力をつけるために、こういうクエストは常時張り出されている」
意外にも詳細に答えたことに驚きと内容に納得していると、今度は腰の小さなナイフを取り出して肉厚な葉を切りつける。
透明な粘性の高いスライム状の液体がしたたり落ちた。
「……必要なのは、下にある、肉厚で、大きく、深い緑色のものだ。市販の物よりも効能は劣るが、量が多い上に、薬としての効能も保障されている」
言い終わると、切り取った物を収納袋に入れて此方に渡した。後は自分たちで。という事なのだろう。
その指導の様子に、ルーメンのジョーに対する畏れは次第に薄れた。若干ではあるが。
たどたどしい所を見るに、外面の恐ろしさから忌避されただけで、本人の人となりはいたって温厚で理性的。話し方がたどたどしいのも、人と接する機会の少なさ故だろうか。
そう考えると、彼が新人のパーティーに入った理由も人と繋がりを得たことが嬉しかったからだろうと推察できる。
一先ず、パーティーを解消するという選択肢は保留しよう。
そう思いながら次の薬草を採集するために移動した。
尚熱中しすぎた余り、森の深くに入りかけたところを注意されたのはここだけの話である。
人物深堀~ゲーム風ステータスを添えて~
『沈黙の巨人』ジョー
チート能力:ダメージカット、デバフ・状態異常高耐性、生命力up、肉弾戦に限り必中(霊体相手にもダメージが通る)
現状のデバフ:コミュ障、??????・????の呪い
ジェナの出身村:遠くに美しい山々が見え、黄金色の穂が風に揺れる長閑な村。
ジョーの出身村:険しい山の麓。常に寒く、薄暗く、土地も痩せている。雰囲気はダークソウルかバイオ4の序盤の村。よそ者に厳しく、身内にも異端の者には厳しい。
色々説明
薬草:棘の無いアロエ。皮を剥いでジェル状の中身を傷薬にする。止血・鎮痛・殺菌の効果がある。栽培は容易の上、工夫すればそれぞれの傷によく効く効能を持たせることができる。ジェルを直接塗っても効果はある。ポピュラーなものは成分が壊れない温度で濃縮して塗り薬として販売される。
収納袋:魔術印を刻印された特殊な革袋。個人でも購入できるが、使われる革と収納量、デザインに合わせて値段も高くなる。ギルドでも初級の冒険者の採集クエストで貸与される。
魔術師:魔術を極める為に研究をする者たち。本人の扱う魔術の属性によって髪の色が異なる。一般的には研究会に属し、一人前になった者はその一派の名を名乗ることが許される。この一人前の定義は、自身の身を守れる実力と研究を一人で行えるだけの知識と技術を備える事である。なお、ルーメンの場合は代々カルドナルド一派で研究を続けているが、魔術師の中ではさほど珍しくないことである。
クリスの影が薄いのは許してたもれ……ルーメンの魔術が出てないのも許してたもれ……