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人生二週目、地続きな孤独

 只今工事中でございます。混乱を招くこと心よりお詫び申し上げます<(_ _)>

 ナッパロー王国が首都、ヨルアク都市。


 この都市にある冒険者ギルドにはとある冒険者が在籍している。


―血と毒でできた沼に住む殺戮蛇獣人の群れをルーキー時代に殲滅した

 

―聖銀鉱山に現れた鉱石ゴブリンの王が治める王国を単独で堕とした


―辺境の村々を教化し邪神を信仰していた邪教を壊滅させた

 

ー数百年間誰も達成できなかった、旧王国に住み着いたドラゴンを単独かつ軽装で討伐し国王直々に勲章を賜った


 そんな経歴を持つ冒険者に憧れ辺境の街、村から男女問わず様々な若者が夢を抱えて勇み足で冒険者になり、一握りの選ばれた者以外は夢破れて去るか、或いは留まり続け現実に足を着け生活を続ける。そんな光景も珍しくない。

 

 冒険者達のそれぞれの日常が繰り広げられるギルドの広間の片隅に、件の男はいた。

 身なりは軽装。傍らに立てかけられた刀身の分厚い罅の入った大剣はギルド加入当初、指導半分『可愛がり』半分で絡んできた先輩冒険者がどれだけ力を籠めようともビクともしない代物である。

 金、銀、或いは茶色。大半の魔力を持たない冒険者の髪の色がこれらに対し、珍しい黒色の髪色もまた男の異質さを際立たせている。

 世俗の喧騒から背を向け、黙々と目の前の料理を平らげる男は何を考えているのか。

 次のクエストの吟味か、或いは未だ見ぬ強敵との戦いか。


 これは、一人孤高を貫き強さを求めた男の―――



(どうしよう、今更どう話しかければいいのか全然わからん)



 否、ただのコミュニケーション障害を拗らせた哀れな男の話である。


 



 俺の名前はジョー。ただの転生者だ。苗字は無い……筈だ。この世界じゃ貴族しか名乗れないからな。

 バカとは違ってコミュ障は死んでも治らなかったらしい。おかげで村では根暗と弄られ、それが嫌で村を飛び出して冒険者になって見返そうと色々我武者羅にクエスト達成してたらいつの間にかソロボッチ。

 初心者時代から話しかけるのが怖くてそのまま一人で黙々と仕事の日々。


 おかげで前世から引っ提げて来た童貞を捨てる機会も失い、金に物を言わせて風俗に行こうにもバレたらどうしようとか考えたら怖くて行く事もできない。

 金を貯めて腐らせておくのも勿体ないけど 碌な娯楽が無い以上、出費何てほぼ装備のメンテナンスと食費、その他諸々の維持費のみ。

 前世と何ら変わらないルーティーンを唯繰り返している現状。趣味も無い。娯楽も無い男のつまらない人生をまた繰り返している。


 あーあーあー。まーた孤独死エンドかぁ。


「すみません! このクエスト受けたいです!!」

 

 n回目の思考はそのデカい声にかき消された。

 声の発生源を見るとそこにはいかにもな新米がクエスト用紙を受付に持っていく様子が。


 この世界じゃ珍しくも無い、黄金色の髪を大雑把に短く切った快活な少女。

 その眼はこれからの冒険に思いを馳せて輝かせている。前世ガキの頃にやったRPGを最初に起動したときもあんな目をしていたんだろうか。


 珍しいことにパーティも組まずに一人でクエストに行くようだ。

 が、受付嬢は何やら困り顔である。


「え…っと、殆どのクエストにもいえる話なのですが、パーティーを組んで受けることが推奨されております。勿論『推奨』ですので、ソロでの受注も可能なのですが……道中、何が起きても単独で対処しなければならない上に命を落とす可能性が高く、自身の実力に絶対の自信をお持ちでない場合は、最低でも4人ほどのパーティを組まれた方がよろしいかと……」 


 おいこっちを見るな。実力が伴っているからいいだろうが、俺の場合は。

 俺にも言っているような受付嬢の目線を無視し、新米の方に目を向ける。説明を受け、引き下がるのかと思いきや途端に辺りを見渡し、やがてその目線は俺をロックオンする。キラキラした目線が俺を焦がす。辞めて欲しい。疲れたおじさんにソレは眩しすぎるから。

 そのままつかつかと近づいてくる少女に内心嫌な予感を感じつつも、身構えていると俺の前まで来て一言。 


「すみません! 私とパーティーを組んでいただけないでしょうか!!」


 ブンと、音がしそうな程に頭を勢いよく下げて頼み込んできた。

 一瞬静まり返るギルド内。ほどなくさざ波のように広がる動揺とヒソヒソ声。


「おいおいおい」


「アイツ死んだわ」


【悲報】ソロボッチ冒険者ワイ、新人に声かけられただけでギルド内がざわつく模様ww 


 などと脳内でスレ立てしてみたものの。反応する奴なんて俺しかいないので速攻で終わってしまい目の前の現実に目を向けざるを得ない。と、言うか今炒った奴等酷くないか? 俺の事何だと思ってるんだ?


 モソモソと飯を食っていた俺の眼前には重力に従って垂れ下がった金髪とつむじ。

 他でもないパーティを組んでくれと俺に頭を下げた新米冒険者の物だ。


 え、後ろの奴にですか? という逃げ道もといボケは生憎、壁際の席と言うこともあり封じられている。紛れもなく俺に向けられているのだろう。


 …他にも候補者いたじゃん。ほら、そこそこデカいテーブルで話し合っていた女性冒険者だけのクランとか、後は新人を積極的に募集しているクランもあるじゃん。態々ボッチ飯キメている俺の所に来る必要なんてないじゃん。

 あ、クランってのはパーティのもう一個上で最低10人以上からなる集団で、ギルドからクランとして認められるために審査もされるから、一定の信用を得られるんだよ。気の合うパーティー同士が寄り合うところもあれば、でっかいパーティーみたいなクランもある。

 無論クランに所属するメリットもある。同じクランの先輩から教えて貰うとか、パーティーメンバーの幅が広がるとか、その他色々。

 まあ、俺には一生縁遠い物だが。


 態々そんなところじゃなくてボッチの俺に声をかけるメリットなんて寄生以外であるかぁ? その寄生だってギルドじゃ禁止されているし、冒険者になるときに受けた説明で聞いていた筈。


 此処まで考えて俺の脳内にとある仮説が生まれた。


 さてはコイツ、あの雰囲気で俺と同じコミュ障ボッチだな? と。


 はっはーん、そうなれば話は変わる。さながら高校入学してある程度時間が経ってできたグループ内に所属しそびれて、今更話しかけることもできずに灰色の高校生活を過ごした俺にはその気持ちよくわかるぞ。

 そうだよな。のけ者にされるかもしれない恐怖を抑えて既にできた輪の中に入るのって勇気要るもんな。そんな集団だらけの中一人でいた俺の存在はさぞかし地獄に伸びて来た蜘蛛の糸。


 それならば仕方がない。積極的に手伝うことはしないが色々と教えようじゃないか。

 そういう意気込みも抱えて了承したらまたヒソヒソ話。心折れそうなんだが。




 その日、ギルド内は騒然となった。

 入りたての新米冒険者が『あの』英雄に無遠慮に話しかけ、あまつさえパーティを組んでくれなどと願われている。


 依頼を受けるときもただ無言で受付に提出し、様々な注意を受けようとも押し黙るだけで何も返さずに無言で受理を迫るだけ。


 そして事務処理が終われば用は済んだと言わんばかりにギルドを出ていき期限までにきっちり達成させて帰ってくる。

 その依頼に予想だにしていなかった事態が起き、依頼の難易度が上がったとしても、だ。

 まるでついでと言わんばかりに報告を済ませ、調査の為に現地に向かえば凡そ通常の冒険者のランクでは撤退すらままならない魔物の死骸。 

 誰もが認めざるを得ない。数少ないソロ冒険者にして最年少で冒険者ギルド最高峰ランクに駆け上がった男。それが『沈黙の巨人』ジョーなのである。

 

―――おいおいおい


―――アイツ死んだわ 


 そんな言葉が聞こえるのも無理はない。何しろ先達からの教えもギルドからの忠告も意に介さず、己の力だけを信じて突き進んだ男だ。その自信に見合っただけのプライドも持ち合わせているだろう。


――痴れ者が。

 

 そんな言葉と共に大剣が脳天をカチ割る光景を誰もが浮かべ、受付嬢がそれを止めるべく口を開こうとしたとき、沈黙を守ってきたジョーの口が重々しく開いた。


「分かった」


 二度目の沈黙がギルド内を支配した。長く、痛々しいまでの沈黙。

 言葉にして4文字。承諾を意味するその言葉を、誰が・誰に・何を承諾したのか。

 理解しきるまでにどれだけの時間を費やしたのか。

 不気味に思えるほどの時間を要し、一人、また一人ポツポツと隣の友人仲間あるいは見知らぬ誰かとお互いの認識を確認し合い始めた。

  只今工事中でございます。混乱を招くこと心よりお詫び申し上げます<(_ _)>

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