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『オリエンタルアート』シリーズ外伝作品

ふくらし粉バーゲンセール

『オリエンタルアート』シリーズの外伝的作品です。

圧倒的ダルさ。説明するのも面倒で正直なんでこんな仕事をやっているのか分からない、分からなさが限界突破していて最近ではなるべく仕事の時は『無』になろうと心に決めている。今思うと迂闊だったかな。



世の中で言う所の真っ当な事を避けて生きてきたわたし、当時20歳が興味本位で怪しげなゲームをスマホにインストールした時からわたしの人生はとてつもなくへんてこりんなものに変貌した。そのアプリは個人が作ったものらしくてゲームの内容は『ミステリーを解き明かす』種類のもので、自分が『探偵』になって陰謀が行われているアジトを突き止めるというものだったんだけど、ゲームのバグか何かで途中からゲームを全く進められなくなって同じ場面を繰り返してしまうような不具合があった。当然、アプリの評価は最低で、



『クソゲー』



『こんなもの公開するな』



とかのレビューが並んでいたんだ。で、わたしはと言うと付き合う事になった人がわたしの私生活があまりにだらしがないからって愛想をつかしてしまっていた時で、なんか現実逃避気味にそのバグったゲームで同じ所を何回も何回も繰り返す『作業』を続けていたの。一週間くらい経って、アプリももうストアから姿を消していて、



<やっぱり修正されなかったかぁ>



って残念に思ってたんだけど、その日またちょっと嫌なことがあって現実逃避をしていたら思ってもみない事が起こったの。



「あれ!!続きができる!!」




そう、そのゲームが繰り返しの場面から抜け出していて、これまでに見た事が無い場面に移っていたの。知らないうちにアプリが更新されたのかなって思って確認したんだけど、履歴を見てもそうじゃないって事がすぐにわかった。だとすると、このゲームが何かの偶然で正しく動いたのかもなって思ってその時はちょっとワクワクしながら続きを進めたの。1時間くらいゲームに熱中して、ストーリーの最後に陰謀の組織のアジトを特定するシーンが出てきて、



『アジトは〇〇の〇〇だ!』



っていう探偵のセリフがあったんだけど、パッと見て実在する住所だって事にすぐに気付いたの。というのも、わたしが通っていた高校の近くにそういう住所があったからなんだけど。とにかくその時に住所を紙にメモってみて、



<一体何なんだろう?>



って思いつつもなんとなくそこに行ってみようという気持ちになったの。今思うと『誘導』されていたって事なんだけど、そんなことを知る由もないわたしは本当に不用意にその住所に経っていたビルのある一画にのこのこと出向いていったってわけ。




そこに居たのが『太郎』さん。あのゲームの開発者で…そして本当にクレイジーな事をやっていた人。ややイケメン。



「お!辿り着いた人が居たんだね。おめでとう」



わたしを見るなり、まるで来ることが予想できていたみたいににこやかに微笑みかけてきて、そのまま部屋に通されて、ゲームクリアの『ご褒美』という事でケーキとコーヒーをご馳走になったの。今考えるともう少し慎重に考えればよかったと思うんだけど、それはあの時のわたしには想像できなかっただろうと思うとちょっとやるせない気持ちになる。まあ、そこで『太郎』さんという人とゲームを作った目的について説明してもらってあの人が言うには、



『こういう風な展開になったらいいなって思って作って公開したんだ』




という事だったんだけど、実はあのゲームのバグは『意図されたもの』で、わたしが偶然していたように何度も何度も同じ場面を繰り返しプレイしてある回数…千回とかになると続きがダウンロードされるようになっていたんだそう。普通の人だったらバグだと思って繰り返したりなんかはしないから、最後まで辿り着く人は本当に限られてたって話。実際、そこで住所が表示されてもわざわざそこに来る人は稀だけど、『太郎』さんの云う『変な人』だったら来るかもって思ってたみたい。わたしは自分の事を変だと思った事はなかったけど、変なことをしていたのは確かだなってちょっと感心した。




その後ざっくばらんに世間話みたいなことが始まって、わたしがその時『バイトをしているだけで特に夢とかはない』的な事を話したら『太郎』さんは神妙な面持ちになって、こんなことを訊いてきたの。




「もし、本当にゲームみたいな事がここで行われていたとしたら、そんな仕事をしてみるつもりはある?」



「え…」



口ぶりからもしかして本当に陰謀のアジトなのかもって思ったらゾッとしてきたんだけど、



「陰謀だとしても、犯罪ではないと思うよ」




という『太郎』さんの言葉に唆されたカタチになるんだろうか、結局わたしはそこからその組織『たらこ三昧』のコードネーム『アジテーター梅』として活動することになったの。でも表面上は『たらこ三昧』じゃなくて太郎さんが代表の有限会社『ティピカル』の事務として雇われているという事になっていて、実際にちょっとした雑用とかの仕事もある。それも社会上は正式な仕事だし、だからそれはそれでよかったの。




問題がその『たらこ三昧』としてのとーっても『地味』な活動なの。どういう風に地味かと言うとわたしが各種のSNSを駆使して、今では『たらこ三昧』の一員だっていう事が分かっている芸能人のファンを演じるっていうワケ。でもそれがわたしの基準でとっても面倒臭い事でいくら仕事でも心にもない事を投稿し続けなきゃいけなくて、若い女だからって事なのか時々変なのからメッセージが届いたりするのを、「ちゃんとリアリティーを持たせる」のと「評判を落としてはいけないから」って事で丁寧に、丁寧に対応しなければいけないって事。




もっと面倒臭いのは、地道な活動が一年後位に実ってきて段々とフォロワーが増えてきて、時々組織の芸能人と他の人に分かるように『やり取り』できるような所まで来たって事。




「こういうのって、マッチポンプって言うんだよね」




って笑いながら太郎さんは説明してくれたんだけど、確かにあの人が言う通り全然犯罪じゃないのが何とも言えない感じ。太郎さんの『戦略』では、わたしは『アジテーター』として一般人の中でそれなりに知られる存在になるのがベストなんだって。つまりいつまで経っても地味なまんま。それはそれでモチベーションが上がらない。で、今に至る。




あの事務所でわたしは太郎さんと向かい合って表向きの仕事をしている。



「麻沙美ちゃんって、アートについてどう思う?」



太郎さんがわたしにこんな事を訊いてきた。表向きの仕事として今あるゲームのデバッカーというのをやらされているんだけど、案外こっちの単純作業の方がわたしに合っているような気がする。それをやりつつも、裏の仕事の為に昼休みにSNSにアップロードするつもりの写真を特殊なアプリで加工したりしている。でも思い入れがないから『無』になるしかない。



「アートってよく分かりません」



正直に言ったら、



「そうなんだ。なんかね僕の友達が、今度仕事で絵を描くんだって」



「どんな絵なんですかね」



そう応えてみたけれどあんまり興味がない。



「神さまだってさ。麻沙美ちゃんは神さまって信じる?」



太郎さんの性格を考えるとどんどん話が脱線していきそうな気配。



「神さまは…居て欲しいとは思いますけどね」



そう答えると太郎さんは、



「そうだね。神さまは見てるかもねぇ…」



と遠い目をしながら言っていた。その表情をぼんやり見ていていた時、わたしは前から訊きたかった事を唐突に思い出した。



「そういえば、太郎さん」



「何?」



「『アジテーター』って何ですか?」



「え…?」



太郎さんは打って変わって『なんだこの人は!?』という目でわたしを見ていた。



「麻沙美ちゃん、調べてなかったの…扇動者だよ。煽って盛り上げる人のことだよ」



「ウェーイ、パリピ的な?」



「ん…まあ今はほとんど死語だろうからな…仕方ないね。まあそんな感じだよ」



もう一つ気になる事があった。



「じゃあ『アジテーター』は良いとして、何で『梅』なんですか?」



「あー、それね」



と太郎さんはそこでうんうん頷いてこう言った。



「僕も常々『和』の心が必要だなと思っていてね。和風な名前にしたかったの」



「そうですか」



あんまり理由はなさそう。そうこうしているうちにもう少しでお昼だ。

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― 新着の感想 ―
どこかに行きそうで行かなくて、繰り返し、とりあえず進み、こうやって時はすぎていくのでしょう……w  麻沙美ちゃんがちゃんとお給料もらってるならそれも良し(*^_^*)  そして太郎さん不思議ちゃんw …
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