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第十二話 好敵手

久々の更新です。

ツインテールの少女は闇に紛れてよく分からなかったが、流花よりも小柄に見える。


そして、髪色がピンクだ。もしかしたら魔法の力で染めたのかもしれない。


魔法の力か体幹の所為か、足元がぶれることなく杖の上に立っている。


話している間に、鳥居の近くで轟音がした。一様に下を向くと紫色をしたタコのような物体が鳥居をなぎ倒したところだった。


「あー折角の世界遺産が!清盛さまに謝れや!」


サーヤと呼ばれた少女は杖の上で地団駄を踏んでいる。「志苑さま!」と叫び、手のひらを向けている。


志苑は無言でサーヤの手のひらに指を向けると、そのまま体が銀色に光り始めた。


サーヤは勢いよく滑り降りると、滑空しながら手の中に青色の光の弓矢を生み出した。紫色のタコは殺気に気付いたのかサーヤに足を差し向けるが、矢をつがえながらサーヤは機敏に体をしならせながら避けていく。時折、足を滑らすような場面もあったが、彼女は杖に足を絡ませながら逆さまになりながら再度弓をつがえた。ぎりぎりまで近づけると、タコの核にあたる額に矢を射た。


普通の弓矢とは違い、魔力の詰まった魔弓ということもあり、タコの額からは青白い炎が噴き出て、あまりの業火にタコが苦しそうに身を捩っている。


その隙に、サーヤは再度弓をつがえて矢を射た。


魔炎に覆われたタコは、そのまま断末魔をあげながら霧散した。気づくと、厳島神社の社殿のあたりに50代くらいの男性が倒れていた。


「……凄い」


流花は思わずそう口にしていた。


柔軟な身のこなし、限られた魔力の中での迅速な対応力、〈魔法少女〉としてのサーヤの仕事は鮮やかで完璧だった。


隣に視線を向けると、ニーナさんは唖然とした表情を見せつつ、悔しそうに下唇を


噛みしめている。歴然とした違いを目の前に見せつけられ、だからといって自分以外の少女を〈魔法少女〉に仕立て上げた久我志苑を責め立てる材料を持ち合わせていないことを分かっていたからだろう。


「―――お片付けの時間だ」


久我志苑がひゅっと二本指を掲げると、そのまま空間がぐにゃりと歪んだ。


お片付けの時間を体感した時は、流花自身の記憶も「お片付け」されていたので主観的に現場を見るのはこれが初めてだった。


弧を描き、中心部に何かが吸い込まれて行きそうだった。直視していると気分が悪くなりそうだったので、流花はふいっと視線を逸らしていた。


「終わったぞ」


久我志苑の言葉に視線を上げると、そこには先ほどと変わりなく厳島神社の鳥居が鎮座していた。紫色のタコがなぎ倒して倒壊していたことなど微塵にも感じられないほどに綺麗に形が整えられている。


「志苑さまー!どうでしたか?」


頬を上気させ、杖に乗ったままサーヤがこちらにやってくる。


「流石だな。サーヤは〈魔法少女〉として申し分ないよ。これからもよろしく頼むよ」


久我志苑はテレビの向こうで見せる営業スマイルを見せると、サーヤは嬉しそうにその場でくるくると空を飛んでみせた。


「もっちろんです!サーヤは、志苑さまのために〈魔法少女〉になったんですから」


「……歯の浮くような台詞を吐いて」


ニーナがぼそっとそう口にすると、「誰かさんは見習って欲しいね」とあからさまに挑発するような言葉を返した。


「は?よく言うわよ。〈魔法少女〉なんて輝かしい仕事なんて嘘ついてあの子を勧誘したんでしょ?魔法を受け取るのも使役するのもタダじゃなくて命を削ることになるってちゃんと真実を話したんでしょうね?」


「もちろん、話したよ」


当たり前じゃないか、とばかりにふうーっと長い息を吐いた。


「そういったデメリットの部分をきちんと説明することは〈魔法少女〉の契約において必須だからね。僕も君には話したよね。君は自分よりも弟の命を救いた一心で、そういったデメリットを受け入れた。サーヤも、そういったデメリットを話した上で、受け入れたんだ。いや、彼女はむしろ、命を削ることを何とも思っていない節があった」


「―――どういうこと?」


ニーナの言葉に久我志苑は無言で鳥居の方へ下りて行った。


「あとはサーヤと同じ〈魔法少女〉として意見を交わしあったらどうだい?僕は人間を回収して送り届ける使命があるから、ここで失礼するよ。明日は朝からドラマ撮影が入っているんだ。本体の志苑を、きちんと休ませてあげないといけないんだよ」


ニーナさんは憎々し気に背中を睨みつけていたが、その後にサーヤの姿を探しているようだった。


「あんた、いつから〈魔法少女〉になったの?」


ニーナがそう声を掛けると、志苑の前で見せていた姿とは違い、聞こえていないように返事をしなかった。


「久我志苑のファンなのか知らないけれど、あいつのために〈魔法少女〉を続けるのはやめた方がいいわ。あいつは〈魔法少女〉をただの狂った同志たちを止めてくれる道具とかしか思っていない。私たち人間の命が削られていようと我関せずのスタイルを決め込んでいるだけよ」


「―――そんなことは、端から承知の上でやってんねん」


「どうして?〈魔法少女〉をやるメリットがあなたにあるっていうの?」


「メリットデメリットうるさいねん。そんなこといちいち気にしないと何事も飛び込んでいけないってあんたのその精神の方が可哀そうやわ」


杖に座りながらサーヤはこちらを見下ろしている。そして、サーヤは隣の流花の方に視線を移した。


「志苑さまから聞いたわ。今の〈魔法少女〉の魔力が貧弱で命も削られているから、先天的に魔力の代替力を備えた少女を媒介に何とか〈魔法少女〉をこなしている子がいるって。あんただけじゃなく、〈魔法少女〉じゃない子の命も削ってまで〈魔法少女〉を続けてるって、情けないと思わんの?あんたの願いなんて知らへんけど、他人を巻き添えにしてまで恥をさらすなんて……私だったら耐えられへんわ」


早口でそうまくし立てるサーヤにニーナさんは何も言えずにいた。


「まぁ、今後の〈魔法少女〉の仕事は私が大体こなすから役立たずのあんたは出てこなくもいいわ。元芸能人だか、読者モデルだかなんだか知らないけど、本当に志苑さまの役に立てるのはこの私ってことや」


捨て台詞を吐き、サーヤはそのまま杖に乗ってどこかへ行ってしまった。


ニーナさんの握られた拳は屈辱なのかぶるぶると震えている。


「……久々に腸が煮えくり返る女に出会ったわ」


流花は触らぬ神に祟りなし、とばかりにそこから慰める言葉もサーヤをなじる言葉も掛けなかった。何の言葉も、今のニーナさんには逆効果だと思われたからだ。




そのまま夜の闇を掛け分けてもとの場所へ帰ったが、ニーナさんは何も語ろうとはしなかった。


家の門の前で、ニーナさんは片手を挙げて帰っていった。あまりの男前な動作に胸が高鳴ったが、明日の学校のことを考えて早めに寝る支度をしようと家の中に入った。


入浴を済ませ、明日の朝御飯と二人分の弁当の米を炊飯器にセットし、夜の内に作り置きが出来なかったのでいつもより早起きをしようと目覚まし時計を調整した。


穂乃果さんがいない家は広くてどこかひんやりしている。


目を閉じると、あっという間にけたたましい音が鳴り響いた。


急いで顔を洗い、エプロンを付けてキッチンの前に立った。


以前、パンダおにぎりを作ったらニーナさんはあからさまな反応はしなかったが、目が輝いていたので今日もそれを作ろう。


豚こまをチルド室から出して細かく切った厚揚げをくるくると丸める。片栗粉を塗してたれと炒めたら完成だ。緑のおかずは冷凍のほうれん草としらすの卵とじ、人参しりしりを付ける。ちょっとパンチが少ないかなぁと思いつつ、朝から大葉を挟んだチキンカツとかは時間が取れないので今夜の夕飯に出そう。


急いでお弁当に敷き詰めると、あまり熱が取れないまま蓋を閉じた。


二人分の弁当を小さな袋に入れると、そのまま家を飛び出した。


「よっ、遅かったな?」


自分と同じ紺のブレザーに緑のチェックのスカートを履いたボブの少女が目の前に立っていた。見覚えが無くて、流花は膝が出しかけたまま固まった。


「ど、どちらさまでしたっけ……?」


同じクラスにも学年にも見覚えのない顔だった。もしくは1年生3年生にいる人なのだろうか。3年生だと先輩になるので、いちを敬語で問いかけてみる。


すると、目の前の少女はけらけらと心底楽しそうに身を捩って笑い出した。


「ちょっ……もう忘れたんか?昨夜、会ったばっかりやんか」


「―――えっ!?」


昨夜会ったばかり、となると久我志苑かサーヤというピンクのツインテールの少女の二人しかいない。久我志苑は朝からドラマ撮影があると話していたし、それ以外となると必然的にツインテールの毒舌少女しか残っていない。


流花は少女の近くまで行き、彼女の周囲をうろうろとの回り始めた。見た目の共通点は見当たらないが、関西弁っぽい口調は同じである。


「え?本当に同一人物?え、だって、昨夜はピンクのツインテールで……」


「あっほ、魔法少女といえばピンクのツインテールっていうのが相場やろ。〈魔法少女〉としての仕事をする前に、まずはイメージアップや。気分も士気も上がるってもんやろ?」


ピンクのツインテールが相場、という常識中の常識という言いぶりに何とも納得がいかなかったが、やはりその口ぶりがサーヤに酷似していたので認めざるを得ない状況だった。


「何で、昨日の今日で、こっちにいるの?」


「そんなの志苑さまの頼みだったからに決まっとる。私は今日からあんたらと同じ学校に通うことになったわ。私としてはあのいけ好かない女と色々と話すのは遠慮したいところだけど、志苑さまの命とあらば聞かないわけにはいかんわな。私の方が圧倒的に能力が上だから、あいつに〈魔法少女〉のノウハウを教えてやろうっちゅーことや」


「ありがたく思えよ」とばかりに胸を大きく逸らした。


同じ中学生のはずなのに、あからさまに隆起するその高さに流花は目を見張った。


「やっと、サーヤさんは中学何年生?」


「2年生や。あんたらもそうなんやろ?」


140センチ台の身長に、ボーイッシュな顔立ち、関西弁陽キャ女子、同い年なのに何もかも違う彼女に一瞬負の感情が生まれかけたが、それを打ち払うよう気持ちを切り替えた。


「同じクラスになるかは分からないけど、どうぞよろしく。私は樋浦流花。家の場所も久我さんが教えてくれたの?」


これ以上家の前で立ち話をしていると学校に遅れそうなので、流花は歩を進めながらサーヤと話し始めた。


そう言うと、サーヤは一気に相好を崩した。


「志苑さま、都内で撮影があるからってついでに送ってってくれてん。優しくてイケメン俳優で〈魔法少女〉の育成業とか忙しすぎるのに、出来た人やわ」


そう言うと、きりっと表情を変えてサーヤは顔の前に指を突き付けた。


「というわけで、私は才能も信頼度もあんたらとは違うから、〈魔法少女〉として大成するのは私の方があきらかに早いからな。あんたら、というかあのニーナとかいう女はすぐにお役御免になると思うわ」


ニーナさんのことを散々こき下ろしているにも関わらず、流花はそんなに腹が立ってこなかった。


ここまで自信のある態度でありながら、昨夜久我志苑が言っていた「命を削りたがっている」という言葉の整合性がまるで感じられなかったからだ。


ただ、学校に着いた時のニーナさんの表情を考えると、今から少し対応に億劫になるという現実が待っていた。




いつもは余裕を持って学校についているはずが予鈴ぎりぎりになってしまった。


そうなると必然的にいつもぎりぎりの時間に余裕綽々で下駄箱にいるニーナと鉢合わせすることになる。


もちろん、ニーナはサーヤを見ても見知らぬ人物であるため興味を示さない。ただ、どこか既視感があるのか訝し気な表情を向けている。さすが〈魔法少女〉の勘という奴だ。


「おはようございます、ニーナさん」


「……おはよう。あんたにしては遅いわね。まぁ、昨夜帰ってきたのが遅かった所為だとは思うけれど」


そこで流花は気付く。


言葉の節々に流花を巻き込んだという負い目や気遣いが隠れていることを。


その真実だけで朝から気持ちが高揚して、思わずにこにこと笑顔になってしまった。


「え、何よ、気持ち悪いわね」


「そういう言い方はないやろ。あんたが魔力不足してるから流花があんたに付き添うしかなくなったんやから。遅くまで巻き込んでごめんなさい、やろ」


見覚えのない黒髪のボブカットの少女から吐き出された関西弁にニーナは目を見開いた。


「あ、あんた……まさか……」


「よっ、役立たずの〈魔法少女〉、今日からよろしくな」


「―――なんであんたがここにいるのよ!!」


ニーナの絶叫が一階全体にこだました。

関西弁、胡散臭くてすみません。

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