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第十一話 疎通

また間が空いてしまいすみません。

洗いざらい話し終えてしまうと、ニーナはふうと一息ついた。


「―――これで私の話はおしまい。リオナのことは話すつもりはなかったのに、何故かべらべらと口から出ちゃったわ」


「でも、新見先輩、さっき情報の共有をするって言ってたじゃないですか。だからいいんじゃないですか?」


さらっと軽く意見する郁の横顔を少し睨みながら、ニーナはがたっと席を立った。


「……ごちそうさま。そろそろ帰るわ」


「ニーナさん、今後の話なんですけど、私はこれからもニーナさんの活動に付き従っていくつもりです」


ニーナさんは片眉をひそめながら流花を見据えた。


「小野寺先輩は〈黙示〉のエリスを持っているし、郁ちゃんはエリスが擬態している人のオーラが見えるそうです。私たちの特性を使って、エリスの選別を早めに終わらせましょう。そうすれば久我志苑のエリスも自然と抜けるし、ニーナさんの魔法少女の使命も終わらせられます。ニーナさんの魔法の容量が不足しているのならば、私がその糧になります。だから、ニーナさんの命が早く尽きることはありません。それに、久我志苑と交渉して、リオナくんの命を長らえさせられる秘術なんかも彼らは知っているのかもしれません。学習能力が高い生命体であるならば、私たちの知らない領域のことまですでに辿り着いているかもしれないからです」


息をすることを忘れて、流花は一息でそうまくし立てた。


少しでもこの瞬間、ニーナに生きる希望を持ってほしくて。


小さい頃の流花に、同じ生きる希望を与えてくれた彼女だからこそ。


生きる希望を無くすことが、生活することに対して無気力で無意識で無関心になるかとても良く分かっているからだ。


「頑張ろう、って一声掛ける方は気持ちよくても、声を掛けられた方は辛くて苦しくなるっていう現実があることは、よく分かっています。だから、私は敢えてこう言いたいです。一緒に、頑張ろうって!」


テーブルの上に置いた拳にぐっと力が入る。


小野寺兄妹も固唾をのんで見守っているのか何も話そうとしなかった。


流花の言葉だけでニーナの心が動くだなんて思っていない。だけど、今後またこのような話し合いの機会が設けられるかは分からない。自分の弱みを見せてしまったという負い目で、ニーナはこれから流花たちと接するのを避ける可能性だってある。


それを回避するために、流花は少しでも彼女との接点を保っておきたかったし、何よりも信頼を持続させたかった。


一緒に頑張ろう、なんてはっきり言って傷心でいる場合ほとんど響いてこない言葉だと思う。流花も幼い頃、そうであったから。


穂乃果さんに引き取られたばかりの時、ただただどこかに隠れていた。急に身内だと名乗られ、自分を知らない家に連れてきた人。不可解な言動ばかりの、奇妙な大人。


というのも、最初は穂乃果さんは穂乃果さんの住む実家に流花を連れてきた。そこで会ったのは流花を嫌悪する視線が二つ―――穂乃果の両親であり、流花の祖父母にあたるらしい人たち。


穂乃果さんは受け入れてもらえるよう、何度も何度も話し合った。


だけど、祖父母らしき人たちは受け入れられないとばかりに、穂乃果さんが仕事の時は狭い納戸に閉じ込めて、最小限の食事だけを用意して放置した。


その現実を知り、話し合う余地はもうないと判断した穂乃果さんは流花を連れてすぐに家を出た。粉雪のちらついている、真冬の頃だった。


最初は小さなアパートの一階に二人で身を寄せ合って住んでいた。それでも、流花は穂乃果さんが信用できず、ほとんど口を開かなかった。お風呂も嫌がり、部屋中を走り回った。


体中に傷や痣が残っているため、肌を見せるのを極端に嫌がったためだ。


穂乃果さんも、無理強いはしなかった。温かいタオルだけを渡してくれた時もあった。


同じ部屋で寝ていたけれど、何度も何度も目が覚めてしまっていた。流花が寝ている時に母親が迎えに来てくれるかもしれないと思っていたからだ。隣で眠る穂乃果さんは苦しそうにうなされていた。涙の跡も見える。何度も何度も謝っていた。自分の態度がそうさせているのだろうと、その時思った。流花は穂乃果の頭をやさしく撫でた。そうすると、何故かふうと小さく息を吐き、穂乃果さんは眠りの底へと沈んでいくのだ。


もう、迷惑はかけないようにしよう。自分には、この人しかいないのだからとまだ6歳の流花はそう決意した。


そして、ある日、仕事から帰った穂乃果は面と向かって言った。


『私は、流花の本当の親じゃないし、ちゃんとした愛情を与えられるか分からない。だけど、これからも流花と一緒に居たい。だから、私と一緒に生きてくれますか?』


震えながら、たどたどしくもしっかりとした口調で言ってくれたその言葉は、今でも流花の脳裏にしっかりと焼き付いている。


「一緒に頑張ろうじゃ、足りない。ニーナさん、私と、一緒に生きていきませんか?」


力強くそう言い放ち、流花はニーナの目をしっかりと見つめた。


「……何、それ?プロポーズとかじゃないんだから、そういうのは将来の旦那とかにでも言いなさいよ。まだ、14歳とかなのに、言うことがいちいち老獪すぎんのよ」


ぽすぽそとニーナは呟いている。


だけど、目がうっすらと涙で潤んでいるのは何となくわかっていた。だけど、指摘をすれば大仰に否定してくるのは分かっているので、敢えて言わない。


「みんなでいれば、何とかなるよ」


流花の言葉に、ゆっくりとニーナはこちらを見た。


「分かったわよ、とりあえずあんたの案には乗ってやるわ。だけど、基本的な主導は私が握らせてもらうから」


流花はこくり、と頷いた。


「―――で、すみません、お茶のおかわりってもらえますか?」


居心地悪そうに湯呑を差し出す郁に、ニーナは両眉を盛大にへの字にさせた。




それからニーナは授業中にいなくなることはなくなった。


たまに授業中に突っ伏してしまうこともあったが、基本的に授業をちゃんと受けているようだった。


ニーナの分の弁当も穂乃果さんにお願いするのは気が引けるので、流花は自分の分を含めて二人分作ることにした。朝は低血糖なのかなかなか起きれなかったが、ニーナのために何かしようと思うと、目覚まし時計が鳴る前に自然と目が覚めるのだった。


ニーナは積極的に流花に話しかけるわけではなかったが、無言で後をついてくるようになった。流花に対する周りの嘲笑や悪口なども一切聞かなくなったので、ニーナが目を光らせてくれているおかげなのかもしれない。


だけど、ニーナの行動を自身が制限を掛けてしまっているようで、少し気が引けてしまっているのも確かだ。


お弁当も、ニーナがお気に入りの屋上で食べることにした。


以前、ニーナの顔のキャラ弁を作ったら嫌がられたので、今回から普通の鮭弁などにしてみた。


弁当箱を渡すと、ニーナは「ありがとう」と呟き、とてもワクワクしたような表情をする。自分の弁当を毎日楽しみにしていてくれていると思うと、彼女のその表情を見るだけで心が温かくなるのだった。


「あ、これ」


ニーナは弁当を食べている途中、一枚の茶封筒を差し出した。


「……何ですか?これ」


「弁当代、一か月5000円。それで足りる?」


「え、貰えませんよ。弁当は私の好きで作ってきているだけなので」


「無銭飲食は嫌なの。受け取りなさい」


「……はい」


流花は大人しく受け取ることにした。


ニーナはとても綺麗な箸遣いをする。鮭も皮まで綺麗に平らげた。きちんと手を合わせて「ごちそうさま」と呟くと、すくっと立ち上がった。


「ニーナさん?」


「あいつは、これからの戦いに向けて練習をしろって言っていたわよね。私は、見掛け倒しらしいわ。思いの外使えないって何度も言われた」


「え?久我志苑にですか?」


「―――今、その名前すらも聞きたくない」


「す、すみません」


「だから、敵がいない今だからこそ、少し練習をしたいのよ」


腕のストレッチをしながらそう言った。


「久我……あの人がいない状態で魔法少女になれるんですか?」


「完全形態はあいつがいないとダメだけど、魔法の調整とかは出来る」


ニーナは両手で胸の前で球体を作り、目を閉じた。すると、白い光がうっすらと光りだした。


「私は、一撃を繰り出す際に魔力を必要以上に出しすぎているらしいの。だから、魔力の消費が激しくて、いつも足りなくなる。そうならないよう、魔力の調整をはかって、一点集中型で敵を仕留めたい」


「魔力と次の魔力の間に弁のようなものを仕込むってことですか?」


「―――弁?」


「ここまでの魔力で攻撃を作るって最初から仕切りを作っておけばいいんですよね。そうすれば、必要以上の魔力を放出することもないし」


「あんた、面白いことをいうのね」


「え、そうですか?ただ、そんなことは可能なんですかね?」


ニーナはうーん、と腕組みをして考え込んでいるようだった。


「あまりコンタクトを取りたくないけど、ちょっとあいつに相談してみる




その日の夜、穂乃果さんは出張で流花は一人で夕飯をとっていた。


食器の片づけを済ませ、ゆっくりとテレビを観ていた時、滅多にならないLINE電話が鳴り響いた。


『あいつから要請が来たの。これから出られる?』


「分かりました!すぐに出ます」


流花は急いで外に出ると、空からふわっと杖にまたがったニーナが降りてきた。


「今度は広島の方だっていうから、急ぐわよ」


「本当に全国規模なんですね」


流花が後ろに跨ぐと、ニーナの腰のあたりにしがみ付いた。


「気を付けて飛ぶけど、振り落とされないようにしなさいよ」


「わ、わかりました―――!」


以前は久我志苑に大阪に連れて行ってもらったが、あの時は凄く慎重に連れて行ってもらっていたのだと実感した。


ニーナはひたすらに前を見据え、バードストライクしそう時はぐるんと一回転などもしたので運転がとてつもなく荒かった。


車酔いをほとんどしない流花でさえ、気持ち悪くなってしまった。


見覚えのある鳥居が目に飛び込んできた。


「ニーナさん、あれ―――!」


「あれが厳島神社ね」


「私、初めて見ました」


周りを見てみると、どこからかどおぉんという轟音が響き渡った。


「世界遺産なのに、大丈夫ですかね?」


「それは、あいつお得意のお片付けタイムでなかったことにするから大丈夫よ」


ニーナは轟音のする方向へ急降下を始めた。


すると、目の前に一人の男性が道を塞ぐように立っていた。


「久我志苑、早く完全形態の力を―――」


「今回、君にその必要はないよ。すでに、〈魔法少女〉はいるのだから」


「―――は?」


その瞬間、ニーナと流花の間を何かが勢いよく通り抜けた。


「きゃははーここは、あたしに任せときー」


ツインテールの少女が杖に乗って二人を見下ろしていた。しかも、杖に仁王立ちの状態で不敵な笑みを浮かべている。


「志苑様のためなら、このサーヤが何でもやったるねん。あんたはそこで指でもしゃぶって見物でもしときー」


そう言い放った。

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